11 喪失、病室にて
「ヒムロ!」
不慮の事故で母親が大怪我をしたと聞いたライは、急いでヒムロの下へ向かった。
坂道で車椅子が暴走し、ヒムロの目の前で車椅子は馬車に跳ねられてしまったのだと。
幸い命に別状はないそうだが、それを目の当たりにしたヒムロはさぞ辛い思いをしているだろう。
「ライ……。」
部屋は薄暗かった。
ヒムロは開いていたノートをぱたりと閉じて、席を立った。
ライから逃げるかのようだった。
「私はいずれ君も殺してしまう。」
「何言ってるのよ、ヒムロ。
今回のはただの不運な事故でー」
「私はわざと手を離したんだ!」
その告白は悲痛なものだった。
なによりも絶望に濡れた言葉だった。
「自分が愛する人間に、殺される。
私はその感情に興味を抱いた。
それを実行してしまった!」
「大丈夫、大丈夫よヒムロ。
そんなことないわ。
ヒムロがそう思い込んでるだけよ。
たまたま手を離してしまっただけだわ。」
「……私は、母の叫び声を聞いて、
楽しいと思ってしまった。」
悲観した声でヒムロは呟いた。
「そうだとして、ヒムロは今後悔しているじゃない。
なら大丈夫よ、次はないわ!
次があるなら、私が止めるわ。」
「違う、間違っている。
私は君以外では傷付かない。」
「この痛みは君を傷付けるやもしれないと思うからこそのものだ。
私の心は壊れている。」
「ヒムロ……。」
ライは言葉を尽くした。
だが、絶望に拐われてしまった彼の心にその言葉は届かなかった。
「ライ、私と一緒に居てはいけない。」
「嫌よ、貴方を1人にはさせないわ。
ずっと一緒よ。」
「駄目だ、どうして!
何故分かってくれないんだ!」
「……帰ってくれ。」
ヒムロはそれ以上は何も言わなかった。
背中を向けたヒムロは、確かにこの時静かに泣いていた。
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ライは両親にお願いして王都に留まることにした。
だが、ヒムロの表情が晴れることはなかった。
以前にも増して無表情になり、ライのわがままも叶えることはなくなった。
ヒムロは部屋に籠るようになり、ライとの会話も次第に減ってしまっていた。
そしてヒムロの母親も、今回の事件から体調がまた悪化したようだった。
ヒムロの父親に面会は断られた。
「ヒムロ……。」
ヒムロの絶望はライには理解できない。
ライから見ればヒムロはいつだって理性的で、優しい人だ。
ライを、誰かを害するような人には到底思えなかった。
王都に戻ってきてから、1つ季節が過ぎようとしていた頃だった。
キネヤヒムロが影の席を得た、と知らせが来たのは。
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影の席の試練を受けたヒムロは、怪我をして戻ってきたという。
影の席を得た、という情報は瞬く間に王都中に広がった。
ライも知らせを聞いて、すぐに病院へと向かった。
しかし、何故?
こんな時に、影の席の試練を?
その疑問は、すぐに分かることとなる。
「君は誰だ?」
キネヤ ヒムロは、ライ・シャレットに関するすべてを失っていた。




