9日目 Quarrel
「はぁ・・・どっと疲れましたね、秀先輩・・・」
「奏ちゃん、まだ時間ある?ちょっと座って話さない?」
どうやら秀は告白の返事を聞きたいらしい。
バスを降りた2人は公園のベンチに腰掛けた。
「奏ちゃん・・・さっきの・・・告白の返事・・・聞かせてほしいんだ」
秀は真剣な顔で奏海を見つめる。
「俺は、奏ちゃんのことが好きだよ」
「秀先輩・・・・」
幸い、ロビィはまだ実家にいる。
この公園には今、秀と奏海しかいない。2人が両想いになるには絶好のタイミングだった。
「私も・・・秀先輩が・・・・」
「うっす、お2人さーん!」
奏海が“好き”と言おうとした瞬間、誰かに声をかけられた。
「え、ひえ姉!?」
そこに立っていたのは男連れの秀の姉、比叡だった。
「あっ、紹介するねー。私のフィアンセの・・・」
「比叡留 野洲です。ピエールと呼んでください」
ピエールは秀と奏海に挨拶をした。
(ロビィの次はピエール!?)
奏海はその呼び名に驚いたが、
「奏海ちゃん、ピエールはロビィとは違ってまともな人よ!?ちゃんとした会社員だし!」
「いやぁ、まだまだ未熟者だよ」
ピエールは名前以外は誰が見てもまともでさわやかな青年である。
「そだ、これからピエールの家に行くんだけど、秀たちもどう?」
「・・・・・・・・・・・・んなよ」
その時、秀の中の何かが切れた。
「あ、ヤバ・・・」
1人、事態を察したひえ姉は震えている。
「ふざけんなよ!!!!!!!!!」
秀が叫ぶ。とうとうキレてしまったようである。
「てめーら2人そろって変な名前だなぁ!てめーらは何だ!?あぁ!?第一、水族館の飼育員と会社員がどこで知り合ったっつーんだよ!?コンパか!?合コンか!?まぁどこでもいいよそんなもん!おい奏海!お前もお前だ!俺が何回も告白してるってーのに、いつまでも返事を引き延ばしやがって!!!!好きなら好き、嫌いなら嫌いでちゃっちゃと返事しろっつーんだよ!!トロトロトロトロトロトロトロしやがってよー!?そんなだからいつも邪魔が入んだろーがぁ!?」
秀はありったけの怒りを3人にぶつけている。
「秀先輩・・・・」
奏海は秀の言葉を聞いて、わなわなと震えている。
「秀くん、女の子にそんな口の利き方しちゃぁ、いけないよ?」
ピエールは真剣な顔をして秀をなだめた。なんて心の広い人なんだ。自分も罵倒されているというのに。
「あぁ!?なんだてめぇ!?この俺に指図すんなや!!おいピエール、聞いてんのかよピエール!?あ??ピエールってなんだよピエールってよー!?」
秀はやたら“ピエール”を連呼しだした。もう秀が秀でなくなっている。
「あーちくしょー。もー俺帰るよー」
秀は何やらブツブツ言いながら立ち去ろうとする。
「ちょっっっと待ったぁーーーーーーーーーー!!」
秀の後ろ姿に向かって奏海が大声で叫んだ。
「なんで私がそんな言い方されなきゃなんないんですか!」
ついに奏海までもがキレた。
「奏海ちゃん、今の秀には逆らわない方が・・・」
「うっさいんぢゃ!!」
奏海はひえ姉の忠告を無視した。
「大体、なんでロビィなんかと仲良いんだよ!?あいつワケわかんねーよ!怪しい英語ばっか使いやがってよー!!しまいにゃ香をそそのかして!!」
奏海はここぞとばかりにロビィの悪口を言いまくった。
「多可志を悪く言うなーーーーーーーー!!!!」
「うっせーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
最強の2人の対決である。
ものすごく険悪なムードが漂っている。
その後、2人の戦いは15分に及んだ。
「も、もうやめなよ2人とも・・・」
ひえ姉が見かねて2人を止める。
「告白っ・・・・・ハァ・・・・取り消すからなっ・・・・!ハァハァ・・・」
「えぇ・・・・わかって・・・・ますっ・・・ハァ・・・」
引っ付きかけていた2人が離れてしまった。
秀は少し後悔したが、もう後には引き下がれない。
奏海はうっすらと涙を浮かべている。
「し、しゅぅ~・・・(汗)」
ひえ姉はとても心配そうである。
「大丈夫、大丈夫だから・・・・」
そう、秀は自分に言い聞かせる様に公園を後にした。
「奏海ちゃん・・・大丈夫?」
一方、涙を浮かべた奏海は、歯を食いしばっていた。
「秀先輩があんなこと思ってたなんて・・・ショックです・・・・ひえ姉さんにピエールさん、ご迷惑おかけしました。帰ります・・・」
比叡とピエールは顔を見合わせたが、かける言葉が見つからなかった。
奏海は泣きながら帰路についていた。
(秀先輩のばかぁ・・・・ぐすん)
いつもはあんなにやさしいのに。心の底では自分のコトをあんな風に思っていたなんて。
それもこれも2人を邪魔する周囲の人間のせい・・・
そんなことを考えていた時だった。
「Hey!Cute Girl!・・・Oh?Whatしたんだい!?EyesがRedだよ!」
そもそもの元凶(?)ロビィが現れた。
(この人はどうしてこういつも絶妙のタイミングで登場するんだろう・・・)
奏海は半分呆れていた。
「Oh~、ShuとMouthゲンカでもしたかい!?」
そしてなかなかするどいロビィである。
「ロビィせんぱいいぃいぃ~~~~~~~~~」
「Oh!?Cute Girl!MeはいつでもConferenceにのるよ!?」
ロビィは先輩として、精一杯奏海を元気づけようとした。しかし・・・
「先輩・・・ほっといてください・・・・もう・・・私に関わらないでください・・・」
はっきり言って鬱陶しくて仕方がなかった。
「What!?」
呆気にとられるロビィを置いて、奏海は再び歩き出した・・・