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魔法学園へ


 異世界生活、46日目。今までお世話になっていた街を一時離れ、俺達は幼馴染みの居る学園へと向かっていた。乗用竜車、ドラークラプトルが引く荷車に揺られながら、千冶達となんてこと無い会話を繰り返す。


「良い天気じゃのぉ」


「急に老けたな、どうした」


「暇なんじゃよ……マジカルバナナか山手線ゲームでもする?」


「それ、この世界だとオレらが不利すぎるだろ」


「たしかしたかし」


「もう死語だよおじいちゃん」


「マジンガー!?」


「元気だねお前さんら」


「「有り余ってますから」」


「──チヤとコーレンといったか? 君達はベニフジと付き合いが長いと聞くが……君達から見て彼をどう思う?」


「女泣かせの糞野郎」


「砂糖吐くレベルのお人好し」


「「総括して鈍感系日朝主人公」」


「ニチアサシュジンコウ?」


「気にしなさんな。要は大抵のことが出来るたらし人間ってとこか?」


「不服なれば」


「大変不服なれば」


「不服なんだ」


 脳を空っぽにして喋る。アイツは……まあ、うん。なんだろ。なんなんだろうね、アイツ。顔と性格が良くて勉強も運動も出来るチート野郎。天は奴に二物どころか五物ぐらい与えた天然たらし、そのくせ好意を伝えられても鈍感すぎて伝わらんときた。傍目から13年も見続けていれば文句も出よう。


「所詮俺らはギャルゲで好感度を伝える友人ABですよ」


「この調子だとCも来てそうだな……」


「そういやアイツだけか、幼馴染みーズでこの世界に居ないのって……なんだろうな、この偏り」


「喚ばれる奴は、ただ運だけで選ばれてる訳じゃないとか?」


「あり得る。じゃあどんな選定基準でやってんのか」


「さっぱり分からん」


「考察してるとこ悪いが、前を見てみろ。あのデカイ建物が魔法学園だ」


「……いやまぁ」


「さっきから見えてはいましたけども」


「うん、相変わらず大きい」


 遠くに見えるは、雲をつくほどの巨城。天高く聳え立つそれは、見るからに堅牢な壁によって守られていた。未だ壁から飛び出した城の一部しか見えていないというのに、それだけでも見たことの無いデカさだ。もしかしたらスカイツリー以上の大きさかもしれない。

 見るからに分厚そうな石壁に近づいてゆけば、これまた巨大な門と検問が姿を現した。ここまで近づかなければ分からなかったのは、多分魔法で隠していたのだろう。検問を何事もなく通過し、竜車は城下町を駆け抜ける。


「なんで学園に城下町があんのかね……」


「学園に通う者の大半は、私のような貴族の出だ。商人からすれば良い顧客、未来の投資にも成り得る。その上、ここは並みの街よりも堅牢。割高にはなるが、安心して暮らせることが出来るのだよ」


「なるほど……そういえば魔法学園っていつからあんだろ」


「開校から大体20年ほどになるな。創立者はラッエヘス王国にて戦士長を勤めていた御方。ルサパーの盾、レレクス・ギアダ・テシオドスその人……といっても、君達には馴染みの無い名前だろうがね」


「相変わらず名前が長いな、歴史の勉強してるみてぇ」


「レレクス爺ちゃんで良いって言ってた」


「シクリィ嬢は気に入られているから良いものを……あの御方はペルスア国との戦争を終結させた大英雄、勇者と同じく伝説的な御方なのですから」


「ペルスア……ね」


 俺達をこの世界に連れてきたメレネオス王が統治していた国。軍事力が凄まじく、多国籍軍で常時10万の兵が居ると語られていた……とかなんとか。そんな国を相手にして、見事勝利に導いたテシオドスさんとやらは、現在御年89歳。今も尚存命中のようだ。そんな会話で暇を潰している最中も竜車は城下町を走る。そうしてやがて、俺達は巨城へと辿り着いた。走らせていた竜と荷車を所定の位置に止め、俺は若干フラつきながら降りる。なんだかんだ揺れが酷かったので、若干気持ち悪く、尚且つ結構全身が痛い……

 両膝に手を置きながら、改めて巨城を見上げる。此処からだと最早全貌が見えないな、そのぐらい大きい。これが全て学舎というのだから驚きだ……あーいや、学生寮も一緒だったか?やーばい全然頭が働かない。


「うむ、それでは学園長室へ行くぞ」


 そう言い放つヘーベに連れられて巨城の中へ入り、ゴージャスな廊下を歩く。曲がって曲がって上がって下がって、また上がって……なんでこうファンタジーの建物って不便な設計にするかな、バリアフリーとか考えてほしい。


「文明レベルを考えろ」


「まだ何も言ってないが」


「言わんでも顔にかいてあったぞ」


「マジかよ漂白剤で消さなきゃ」


「漂白してどうするよ」


「君達、言うまでもないことだが、この学園内の至るところに監視魔法が施された魔具が設置されている。行動と発言に気を付けたまえ」


「「うっす!」」


 あまりバカな事をするなと釘を刺されてしまった……仕方がないので、身なりを整えながら長い廊下を進む。そうして歩いていれば、一際大きな扉が右手に見えてきた。ヘーベはその扉の前で立ち止まり、此方に視線で確認を取ッた後にコンコンコンッとノックを3回行った。


「ヘーベ・ユリウス・イキシア。エイリル氏を筆頭とする4名と共に只今帰還致しました」


「──入りなさい」


「失礼します」


 どこか現代日本チックなマナーを守り、ヘーベは扉を開けて中へと入る。連れて俺達も中へ足を運べば、そこは荘厳な雰囲気の部屋であった。しかし、視線の先は内装ではなく、椅子に座った老人に釘付けとなる。衰えて尚発する威圧感、此方を鋭い針で刺してくるような感覚……傷だらけの顔も相まって、若干の恐怖すら覚える。老人は此方を一瞥した後、ゆっくりと立ち上がり、杖を突きながら此方へ近づいてきた。


「誰だ、お前らは」


「「へ?」」


 これは……俺と千冶に言ってるのだろうか?それとも老体特有の脳機能低下による質問か。少なくとも後者はあまり考えたくはないので、前者だと思って答えを返す。


「あー……コーレンマサルです」


「……ツツジチヤっス」


 それを聞いた老人は杖を突いた前屈姿勢でゆっくりと俺達に近づき──直後に素早く足払いを仕掛けてきた。俺と千冶は何とか僅かな予備動作に気がつき、跳んで足払いを回避した……が、それを見越していたかのように老人は跳び上がった俺達へ拳を振るう。俺と千冶はそのまま床に叩きつけられ、盛大に背中を打って倒れて視線は天井を映す。それと同時に、老人は床に倒れた俺達に対して、凄まじい殺気を放ってきた。背筋が凍りつき、吐き気がする感覚から、即座に飛び上がって老人から距離を取る。そんな俺達の様子を見ていた老人はニィッと笑い話しだす。


「ボチボチ及第点だな。よし、コーレンとツツジか、覚えたよ。お前さんらの編入を認める。部屋は東棟806号室、シクリィ嬢とお前さんらの3人部屋だ。ヘーベ、俺は今からエイリルと少しばかり話すことがある。お前さん、3人を部屋まで案内しといてくれ」


「はっ、お任せください」


「「………………」」


 今の一連の暴行が編入テストだった事に驚きつつも、不満をぐっと抑えて部屋を後にする。というか殴られた所と背中が痛くてそれどころじゃない。身に付けている魔具のお陰で衝撃は吸収されるんじゃなかったのか……


「災難だったな、少し歩くが大丈夫か?」


「「モータンタイ」」


「爺ちゃん、相変わらず手が早い」


「あの御方はよくも悪くも豪快な方だからな。とはいえ、あの不意打ちをよく躱したものだ」


「あれぐらい避けれんと師匠との手合わせん時とか死ぬからな」


「比喩抜きにな……」


 師匠、普通に俺達を殺しにくるから……その所為でと言ってはなんだが、戦闘経験は豊富になった。特段嬉しくはない。

 ヘーベに案内されて長い道を進んでいると、俺達と同世代の少年少女が増えてきたような気がする。ここが居住区だろうか?


「うむ、ここだな」


 そのまま歩き続けていれば、とある一室の扉の前でヘーベは立ち止まって此方へ振り返る。扉の横の壁には806と異世界の数字で描かれており、話が正しいのであれば此処が俺達の部屋なのだろうが……


「……中に人居るよな?」


「おん、3人居るな」


「騒がしい」


 中からはドッタンバッタンと騒がしい足音が聞こえてきており、どういうことかと俺達は戸惑う。あの爺さんボケてんじゃねぇだろうな?と心の中でひそかに悪態をついていれば、中から何かが盛大に倒れたかのような、一際大きな音が部屋から聞こえてきた。安否を確認するためにも、急いで扉を開けて中へ入ると──


「なんかすっごい音したけど大丈夫……か?」


 ──部屋の中を視認すれば、まあ、なんということでしょう。どこか見慣れた顔の幼馴染みが、見目麗しい女性2人に、ベッドの上で押し倒されているではないですか。


「あ、これはちがっ、はっ!? おまっ、鉱れ──」


「オジャマシマシターデハゴユックリー」


 扉を勢いよく閉めて廊下に出る。さて……


「久し振りに会った友人が女性に押し倒されてた件」


「判決は死刑で良いか」


「異議なし!」




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