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幕間話 事件解決


 黄赤色の空が地を照らす黄昏時、身なりの良い青少年が村から去ろうとしている不審者を引き留めていた。


「師よ、お久しうございます。折角こうして出会えたのです、少しお茶でもいかがでしょう?」


「誘い方が回りくどいわ。これ以上厄介事に巻き込まれてたまるかよ。私は降りかかるかもしれん火の粉を払っただけだ、一銭にもならん危険が伴うボランティアとかやってられん」


「そう仰らず……そうです! 貴方に対して指名依頼をしたいのですが」


「ギルド通せ、話はそれからだ。受けるかどうかは別の問題だがな」


「……どうしても駄目でしょうか?」


「ああ」


 願う青少年に対し、彼は素っ気なく言葉を返す。ここに彼の義妹が居たのならば、また違った答えを出していたかもしれないが、生憎彼は1人きり。捻くれた思考を前に、教え子の情は通用しなかった。


「では此度の件。解決に協力していただけるのであれば、この僕が1度だけ、お声掛けいただければ、その際は貴方に出来る限りの協力をしましょう」


「──お前ね、お偉いさんの嫡男が軽々と言って良いことじゃないぞ」


「重々承知しております。僕は貴方だからこそ、このような取引を持ち掛けているのです」


 青少年は、整った顔を引き締めて彼の仮面をじっと見つめる。彼は十数秒ほどその場で逡巡し、深く大きな溜息をついた。


「……はぁーーーー! わぁーったよ! ったく、相変わらずお前ら貴族の連中は可愛げねぇこって」


「それほどでも」


 青少年はニコリと微笑み右手を出して握手を求め、彼は呆れたように手を取り承諾した。




 日が暮れて夜が更けてゆく頃、とある3名が机を囲うように座り、事件解決のための話し合いを行っていた。


「落ち着いたところで、互いに名とこの地に来た目的を共有しようじゃないか。ぼ……私はヘーベ・ユリウス・イキシア。この地で我が愚弟の消息が絶ってしまってね。捜索をしにこんな辺境まで来たのだが……まさか、このような事態に遭遇するとは」


「災難だったな。改めて、私はエイリル。ギルドの依頼を解決した帰り道、爆発音と火の手が上がったところに出会し、急いで消火活動をした。後は先の通りだ」


「俺はエルド。仕事で村に立ち寄っていたんだが……前触れなくあの事件が起きた」


「ふむ……一応聞くが、犯人に心当たりのある人物は居るかね?」


「──事件後。本部と連絡を取った折、彼方は何か知ったような口だった。しかし増援の期待は出来ず、その上この事件から手を引けと言われてしまった。恐らく口振りからして、犯人は相応の影響力を持った者だろう」


「つまりは貴族か。にわかには信じがたいが……しかし君は良いのか? 今から行うことは組織の命に背くことなのだが」


「今の俺は休暇中。組織の命令に背いてはいない」


「そうか……この地を治めている者の嫡男として礼を言わせてくれ、ありがとう」


「礼なぞ不要だ、俺は俺が思う正義を実行するまで」


「ふっ、それは頼もしいな」


「……それでどうする? 捜索は明日にするか?」


「「無論今夜だ」」


 まるで心を読んでいるかのような言葉の応酬。このメンバーで犯人を捕縛するという確認を取った途端、必要最低限の会話で話を進める。


「プランはあるのか?」


「俺はあの爆発に使用されたマナを解析した。知っての通り、生物は常時体外にマナを放出している。漏れだしたマナから犯人の追跡が可能だ」


「そうか、私もその手の魔法は扱える。犯人が逃げた方向は──」


「「──南東だ」」


「流石。それでは直ぐにでも出発しようじゃないか」


 各々荷物を纏め、南東に向かい歩き出す。辺りは疾うに暗くなり、探知魔法を使っていなければ進むべき道も、戻り道すらも分からなくなっていただろう。整備されていない森の中を進み続け、暗闇の中を静かに歩く。


「む、反応が……」


「チッ、ジャマーストーン。それもこの量か」


 ジャマーストーン。一定範囲内のマナを全て吸収し、空気中に放出することで一帯のマナ濃度を一定に保とうとする習性がある石。よってマナを放出して使用する魔法は、マナを消費するのみで効果は発動しない。そのため、彼らが使っていた探索魔法は、途中でマナ痕がプツリと途切れて追跡が出来なくなってしまったのだ。


「……何かを守るみたく円形にジャマーストーンが配置されているな。随分と手の込んだ事を、中心は上手いことジャマーストーンの範囲外に……コイツは──」


「師よ、なにか思うことでも?」


「……ああ、この気配は──」


 エイリルが説明しようとした最中、突如上空から火の玉が飛来する。着弾地点に立っていた3者は各自別方向へ跳び避け、各々攻撃を防御しようと魔法を発動させた。火の玉が地面に落ちた途端、凄まじい轟音と共に地面が抉れ、クレーターが出来上がった。その爆発と同時に、爆破によって生み出された破片が全方位に襲来し、まるで散弾が撃たれたかのような弾痕が地面や木々に刻まれた。

 続けて同様の火の玉が数発飛来してくる事に気がついた3者は、目配せをして走り出す。

 森の中を走る中、上空から無数の石が降ってくるものの、その程度ならば問題ないと怯まず前に進み続ける。ジャマーストーンの効果範囲内ゆえ、魔法によって爆発する火の玉は飛ばせないのだろう。もしくは隠れ蓑としての森を燃やしたくないか。いずれにせよ、犯人は魔法によって生み出された石を上空から降らせる程度の足掻きしか出来ないのだ。

 彼らは急ぎ中心へ足を進め、やがて木々の間から開けた場所に立った1人の少年を視認する。それと同時にヘーベは驚愕して足を止め、戸惑いながらも納得したように口を開いた。


「──なっ、いや、そうか。貴様、だったのか」


「知り合いか?」


「………………」


「すまない、君達は──────」


 少年が魔法で石を飛ばし続ける中、ヘーベはエルドとエイリルに伝えるべき事を伝え、少年の方へ足を進めた。


「おやこれはこれは、久しいですね兄上」


「落ちぶれたな、愚弟よ……言葉には気を付けたまえ。私は貴様を家族だとは思わぬ。あの凶行……なぜ貴様はあんなことを」


「凶行? はて、善行の間違いではありませんか? 俺はただ、悪魔契約犯罪者が逃げ込んだ村から犯人を炙り出そうとしたまでです」


「下手な理由付けはよさないか。貴様はただ、得たばかりの強大な力を試したかっただけであろうが! どのような手を使った! 今の貴様に、あの大魔法。使える筈もあるまい!」


「そんな怒鳴らないでくれよ兄上。俺はただ、認めてほしいだけなんだ……見てくれよ! こんな事も出来るようになったんだぜ!」


「何を……!?」


 少年は両手を空に翳すと、天から無数の火の玉が墜ち、爆音と共に森を焼き尽くした。木々は燃え、暗闇は炎によって照らされる。へーベは熱に焼かれながら、険しい顔付きでじっと弟を見つめていた。


「見てくれよ兄上! こんだけ多くの魔石があれば、俺はどんな奴よりも強いんだ!」


「……ッ、シャガ! 貴様ァ!」


 少年は、誇らしげに色とりどりの魔石を身に纏わせて笑う。その数は数百にも上った。ヘーベはその数に驚き、最悪の考えが頭を過る。

 魔石とは、マナを生成する器官であり、生物の頭部に存在する。生物が死した時、魔石はマナの生成を停止させ溜め込む機能しか残らない。その魔石に溜め込まれたマナは、蓄電池から電気を取り出すかのように扱うことが出来る。溜め込めるマナの量は、マナの保有許容上限によって変わることから、魔法を扱う生物且つ、より長生きの個体からならば、相応に大量のマナを保有しているのだ。

 あの数の、それもほぼ全てが均一の大きさの魔石が数百も。


「お前は! 民をなんだと思っている!」


「財産だろ? 嫌ってほど聞かされて覚えたよ……だからこそ、消滅する前に俺達が消費するべきじゃないか」


「違う! 民とは、我ら土地を治める者が守るべき存在! 財産とは、その見返りとして彼らが得た一部の財を此方に納めるからこそのことだ!」


「うるっさいなぁ! 大体今は長生きの人が増えたせいで、なんの生産能力もない人が俺達の財を消費していく一方じゃないか! そんな足を引っ張るしか能がない人間も、俺達高貴な人間の役に立つことが出来るんだ! これって素晴らしいことじゃないか!」


「ふざけるな! 彼らは長年培ってきた経験を、知恵を、我ら次世代に伝える役目が残っている! 価値とは生産能力だけではないのだ! それをお前は……!」


 感情のまま、少年に向かってヘーベは走り出す。丁度、ジャマーストーンの範囲外に入った時、少年は地面を操り、ヘーベを捕獲する。


「兄上……貴方も俺を認めてくれな──ッ!?」


 意識がヘーベに集中した隙をつき、エルドは少年へ体当たりをしかけた。意識外からの攻撃で体勢を崩した少年は、どうにか立て直そうと地面を抉り逃げようとする……が、気づけば少年は宙に浮かんでいた。何が起こったか分からぬまま、それでも尚足掻こうと、エルドを内側から爆発させる魔法を唱える。


「ッ『エクスプロード……ビクティム』!」


「エイリル!」


 詠唱の最中、エルドは上空に浮遊していたエイリルに目配せをし、己の捕縛魔法によって縛った少年を捕われているヘーベの方へと放り投げた。エイリルは少年とヘーベを魔法で回収し、爆破範囲外へ急ぎ移動する。そしてエルドは光の中へと姿を消し……衝撃音の直後に肉の焼ける臭いが辺りに充満した。


 爆発によって生じた煙でも隠せないほどの、特大のクレーターが出来上がり──その中心には五体満足のエルドが倒れていた。皮膚は爛れてはいるものの、それでも尚原型を残すどころか生きていたのだ。エイリルは即座に回復魔法をエルドに使い、身体を火傷1つない状態へ戻して、少年とヘーベを傍にそっと降ろす。


「……なんで、なんで死なないんだよ! 身体の内から爆発させたんだぞ!」


「ゲホッ、はぁ……俺には、死ぬ訳にはいかない理由があったんでな──シャガ・ユリウス・イキシア、お前を現行犯で逮捕する」








「成る程、それでここにお貴族様が捕まったわけですか……そういえば、その後ヘーベさんはどうなったんです? やらかした当人のお兄さんなんですよね?」


「ヘーベはシャガが葬ったご遺族全員に対し、お詫び行脚するそうだ。奴の行った行為はけっして許されることではない。ゆえにこそ罪も恨みも一身に受け止め、連鎖を断ち切らねばならんとも言っていた」


「それは保護者がやるもんじゃないんですかね……」


「権力で揉み消したそうだ。だからこそ自分がやらねばとな」


「へぇー。まあ、エルドさんもクビにならず、これ以上の被害者が出なくて良かったんじゃないですか?」


「……ああ、そうだな。そういうお前は大丈夫なのか? 護送中、マルコーシアを逃がしたんだろ?」


「減給です。不肖ロオレル、まさかあの状態から逃げられるとは思わず……」


「クビにしなかったのは、今は戦力を削りたくないってところだろう。迷惑をかけてしまった分、行動で返さなければな……よし、俺は今からパトロールに行ってくる」


「えぇー! せめてボクが始末書書き終えるまで待ってくださいよー!」


「俺はもう書き終えたんでな。頑張れよ」


 街に出ると、事件後に再び手渡されたリンゴを懐から取り出す。そのリンゴを眺めた後、音を立てて一口齧れば、口の中に広がる爽やかな酸味と仄かな甘みが、ジーンと心に染み渡り、疲労を癒してくれた。

 エルドは胸を張り、街の中を歩き出す。己が正義を突き通すために。






 零れ話──死亡した村人

 この世界において、基本的に魂は死亡してから6分後に■■から消滅するため、幾ら回復魔法を掛けようがその人物が蘇ることは無い。しかし、エイリルは駆けつけた際にちょっとしたズルを行った。そして事件解決後、何とか蘇生を完了させたのだ。前者のズルは兎も角、蘇生には超莫大な出力が必要となる。そのため通常、彼1人では不可能な芸当であった。




 ストックを全て消費したため、以降は不定期更新になります。申し訳ないデス。 By 作者

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