嘘
「ほー?それで?」
目を合わせずとも分かる恐ろしい程の眼光。目が合ってしまえば玉袋が縮み上がるだろう。
「連れて帰ってきました」
「奴隷の窃盗、どれ程の罪かお前が分からないはずないな?」
「極刑です」
「そうだ。調べた所、あの子供と共に運ばれていた奴隷達はシュヴァルツ家に買われていたらしい。お前にあの狡猾な一族から逃れられると思っているのか」
威圧感が一層強くなり、産毛が総毛立つ。あの小柄な少年が発していると思うと今でも信じられない。
「答えろ、ナシメ」
「分かりません」
「…随分と無責任に拾ってきたのだな。最早あの子供に哀れみすら感じるよ。お前が捕まり、僕の権限でお前を助けることが出来ても、あの子供は助けられぬ。今の時代、人間と奴隷は別物だ」
「心得ています」
「ならどうして拾ってきた?本心を述べろ。勿論僕が納得するものを用意しろよ?」
そう言うなり、籐で編まれた椅子から立ち上がって出ていってしまった。
考える時間を寄越してくれたのだろう。そう考え、理由もとい言い訳を組み立てる。
決して、本意は知られてはならない。
着々と言い訳を積み木のように組み立てていき、本意を悟られそうなところを省き、不自然なところがないか確認していると、領主が戻ってきた。
「用意は出来たか?」
打って変わって弾むような口調で話しかけてくる。どうやら誰かを連れてきたようだ。
「奥の方は誰でしょうか。出来れば他言したくないのですが」
仄かな灯りが邪魔をしてよく見えない。
すると、大道芸人が観客の興味を引くように両手を広げてこちらへ歩いてきた。
おや、不思議だな。気分が悪くなってきた。
「おやおや、どの口が言ってるのかな。ああ、奴隷の子供を無責任に助け、自惚れている滑稽な人間の口かな?あぁ救えない!現実を知らない可哀想で可愛らしいナシメ!ふふふっやっぱりいつキミに会っても退屈しないなぁ!」
いつ出会っても気味の悪いピエロのような笑みを飛ばしてくるような野郎に喜ばれてもこっちは全くいい気はしないが。
「…うわぁ久し振りだね。元気にしてたんだ。こんな偏狭まで何をしに来たのかな」
「うん?知り合いなのか?まぁいい、僕の領主という立場を使ってこの人を呼んだのだよ。久し振りに空間操作をして少し気だるいんだがね」
「何故ですか」
「なんでもだ」
「横で聞いてるだけだって、可哀想なナシメくん。気にせずお話してくださいな」
気にせず話が出来るとでも?
細く開かれた瞼からは嗜虐的な光が伺える。怪しさ満載過ぎて話を切り出すことが出来ないのだが。何故領主がこいつを呼んだのか。何故同伴する必要があるのか。話が見えてこない。
「で?何故拾ったのだ」
焦れたのか、強引に話を進めようとしているのが手に取るようにわかる。我慢出来なかったのかな。
「私はあの王国の奴隷制度が気に食いません。あのような子供まで奴隷にされるのです。あの骨と皮しかないような体付きを見れば誰だって分かるはず。食事だってろくに出来ていないのです」
領主が横目で腐れ縁の知り合いを見た気がするが、ここで話を詰まらせるのは良くない。
「私は彼女を助けることを口火に、この腐った世の中を変えてやりたいと目論んでおります」
舐めるような視線を感じ、その元を辿ると、にやにやと三日月のように口を曲げてこちらを見つめていた。
しまった。こいつが居た。これはまずい。あの領主は結局子供であるから、世界の救世主みたいな規模で子供の喜ぶようなことを口にすれば大体は共感を得られるが、第三者がいるとするとこれは少々苦しいか…。
「ふーん、随分な夢物語だねぇ。国でも作るのかい?」
案の定、皮肉めいた言い方をする。
しかし言われて再確認した。こんな夢物語誰が綴れるというのだ。腐った世界を変えるというのは、言い換えれば、人の考え方を塗り替えるということだ。
もし奴隷制度が撤廃され、身分から解放されたとして、元々奴隷だった人々が奴隷ではなかった人々に受け入れられることを約束出来るのか。断じて否である。
まぁ、大人しくその運命に従えと言われても、真っ向から抗うだろうが。てか抗ったんだが。
「…だがナシメよ。お前は最早お尋ね者。そうなってしまえばこの地を去らねばならない。それがどういう意味か、分かるな」
この反応を待っていた。シンの野郎の介入で若干不安ではあったが、やはり子供だな。
心の奥底での高笑いが上り詰めてくるのを押さえ込み、極力欝気な表情を貼り付ける。
「はい」
顎に手をあて、考える素振りをしていたシンがとんでもないことを口走った。
「…うーん、七割本心三割建前と言ったところか」
「は?」
「ふむ、やはりな」
全身の毛穴が開く感覚に陥り、脇下に嫌な汗を感じる。
「何を言うかクソ野郎。これは全て私の本心だ」
「ドボンだ。君の本心はもっと利己的。表情作るの上手くなったね。あのマスクには流石の僕も噴き出しそうになったよ。でも君の本心は嬉嬉として喜んでるじゃないか」
「なっ!?」
「さて説明しようか。ねぇウソツキくん?」
爽やかな笑顔を浮かべながら、首元に剣の切先を突きつけてきた。
会話楽しい。
お読みいただきありがとうございます。




