第七回『実体崩壊』
所詮『概念』というものも『形』がある。それを壊すことなどいともたやすい。
俺はその日、すべての仕事をキャンセルした。
『概念破壊』が春夏冬詩集の事件に何らかの関与というか接触があるような気がしたので、そのことが気になり、俺はその日、そのことを調べることにした。
「まずは・・・」
俺は、春夏冬詩集が襲撃された場所に行ってみようと思った。
春夏冬詩集とは正直言って、一度しか会ったことがないため(その一度があまりにも大きな一度なのだが)
アジトや居場所が全くわからないので、一番新しい春夏冬詩集の痕跡がある場所に行くことにしたのだ。
家を出て、車で1時間でその現場に着いた。
しかし、残念ながら、痕跡は全く残っていなかった。
『警察』か、はたまた『裁判官』によって隠蔽工作が行われたためである。
裏の世界の事象を、表の世界に影響させてはいけない。
逆もまた同じで、裏の世界と表の世界は完璧に切られた世界だ。
そのため、裏世界という存在を表世界の住人に知られてはいけないのだ。
裏世界を知られないために『警察』と『裁判官』は動き、隠蔽工作を行うのだ。
たった少しの血もない。たった少しの肉片もない。たった一つの臭いもない。たった一つの痕跡もない。
「参ったな」
正直言うと、期待はしていなかった。だが、ここに何もないとなると、一から探さなければならない。
「最悪だ」
「そうか」
背筋がゾクリとする。一気に寒気が襲い、一気に体温が下がる。
この声。この人をじわりじわりと破壊していく声。存在。非現実の中の例外。零。
俺はゆっくりと振り返る。そこには、
《概念破壊がいた》
「久しいな。友よ」
俺は一歩下がる。そしてコートの中からナイフを取り出し、構える。
黒いスーツに、短く切った髪。人ではないような真っ白な肌。そして強い眼光。
概念破壊は、両手を上にあげた。
「やめろ。俺は貴様の戦う気はさらさら無い。確かに貴様が『心理』にどれほど近づいたか、知りたいところではあるがな」
「てめえ・・・・ッ!!!!」
俺の心の中から憎悪の感情が溢れる。今すぐに殺してやりたいと思うほどに。
そんなことを思っていると、概念破壊はゆっくりと口を開く。
「それに、今の貴様では俺には勝てない」
その言葉を聞いて、俺はナイフを下げた。正直言って、悔しいことにやつの言うとおりだからだ。
「なんでこんな所にいやがる?」
「フッ・・・・強いて言うならば『確認作業』といったところだ。春夏冬詩集が死んだかのな」
「やっぱりテメーのせいか!!なぜ殺した」
「簡単なことだ。あいつらは『自分たちが干渉できない所』に干渉しようとしたんだ」
「・・・・どういうことだ」
「そのままの意味だ。今回に関して言えばあいつらは入手できない情報を手に入れてしまった。だから必然的にあいつらは殺されたんだ」
「一体何の情報を手に入れたんだ」
「フン・・・・・まあ貴様だったら『手に入れてもいい情報』だろう。その資格がある」
「なんだその情報ってやつは」
「春夏冬詩集が手に入れてしまった情報。
それは
『千枚 時見』が生きているということだ。
俺の千枚時見のガイネンが破壊された。
死んだはずの人間が生きている。
自らが行った決断を
約束を
断罪者として生きていこうと誓ったときを
世界を
固定概念を
破壊されたのだ。
「どうしてだ・・・・だってあの時、確かにあいつは死んだはずだ」
「フン・・・・固定概念を破壊されてしまったら、そういうものだ。信じれないだろう。だが生きているんだよ」
「なんでだ・・・・」
「フン・・・それは自分で考えるこった」
「それでは、希望と破壊と堕落と情熱を込めて」
「さようなら」
俺は概念破壊に触れることもできず逃してしまった。