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軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜  作者: タキ マサト
第一章 家族で異世界へ

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7話 光の紋様

 田崎と未来がジムニーの足回りを掃除していると、ケイが顔を出した。

『おはよう。ケイ』

 田崎が声をかける。ケイは物珍しそうにジムニーを見ている。すでに旅立ちの支度は整えていた。

「おはよう。パパ、ママ、ケイ兄ちゃん」

 碧も目をこすりながら起きてくる。


「パパ……やっぱり碧はお留守番?」

 期待と不安が入り混じった目で見つめられ、田崎は言葉に詰まった。

 この里も安全かどうかは、分からない。

 だが、連れて行けば間違いなく危険に晒すことになる。

 どちらが正解なのか、田崎の中で答えは出ていなかった。


「チョーローに相談してから……かな?」

 かろうじてそれだけ伝えると、未来が横から口を挟んだ。

「わたしも行きたいんだけど?」 

 田崎は頭を抱えた。

「これは家族旅行じゃない。どれだけ危険か分かってて言ってる?」

 やっぱり二人は置いていこう、田崎は心に決めた。

「運転手も二人いた方が良いでしょ?」

 未来が畳みかける。

「碧も連れていくのか?」

「当たり前でしょ? この子を置いていけるなんて、そんなわけないでしょ?」

「それもチョーローの判断を仰ごうか……」

 チョーローだったら止めてくれるはず、田崎は最後の望みを長老の分別に託した。


 朝食は石畳の広場で取ることになった。未来と碧はキノコのような小人の家や、小人の歌うような朝の挨拶に目を丸くしている。

 碧はすかさずスマホを取り出すと写真を撮り始めた。

「すぐ充電なくなっちゃうよ、碧」

「いいの! その前にたくさん撮るの!」

「わんわんわん!」

 ケイは四角い板を向ける碧に、不思議な視線を向けている。

 やがて広場に着くと、イリナとモーイがチョーローの傍に控えていた。


「タサキよ……わしは奥方と娘さんを里に残すべきだとは思う。常識で考えればな」

 チョーローは静かに切り出した。

「だが、奥方と娘さんが、おぬしを置いて里に残ることを望んでいないのは分かっておろう」

 チョーローは首を振った。

「影の制御が難しくなっているのも事実。わしがいない時に、この里もしばしば結界を破られた……何が起こるかは、正直分からん……わしらでは守りきれぬかもしれん」

――やはり、小人の里も安全ではないか……田崎は目を閉じた。

 ここが安全地帯でない以上、置いていくという選択肢は消える。

「タサキ。家族がバラバラになることこそが、この旅の大きな隙となる。おぬしの妻と娘は、この旅の弱点ではない。力になりうる。わしは止めぬぞ」

 田崎はチョーローの予想外の言葉に、覚悟を決めたように深く息を吐いた。

「……やっぱり不安だけどな」


 イリナが地図を広げた。

「……ここが聖都で、さらに東……。峠を越えて……この海の入江? ここが王都か……三、四百キロといったところか……」

 田崎は十二年前の経験を経て、ガソリン携行缶は常に車に積んでいた。

「ガソリン、持ちそうね。ダートでしょ? 血が騒ぐわ」

 未来も地図を覗き込む。その目はすでに、ランエボ乗りの鋭い目つきになっていた。

「……危険だぞ。昨日の羽猿だけじゃない。豹みたいな奴とか熊みたいな奴、ドラゴンみたいなのもいるんだぞ」

「あんたは逃げ切ったんでしょ? ジムニーとわたしを信じなさい」

 未来が言い出したら聞かないことはわかっていた。

「それに、リューシャさんにも会いたいしね」

 田崎は降参だとばかりにうなだれた。

「さあ! 小屋に戻って準備よ。あの工具箱は使えそうね」

 田崎は恨めしそうにチョーローを見た。

「ほっほっ。さあモーイよ。真面目に働かないと分かっておろうな?」

「ったく、チョーローには敵わないね」

 モーイはリーに飛び乗ると、リーに何事かを話しかけた。驚いたリーだったがすぐに大人しくなる。

 イリナも立ち上がり、田崎一家に話しかける。

 モーイがめんどうくさそうに通訳を始めた。

「わたしは、イリナ。十二年前、タサキに命を救われた。このご恩は聖戒にかけて必ず返します。そしてリューシャさんを助けにいってもらえることに深い感謝を」

 イリナは手を組み合わせてお辞儀をした。

「イリナの光の術は猿の獣どもに有効じゃ。ホーガイと聖都にもおぬしたちの知らせを送っておいた。役に立つじゃろう」

「……お人形さんみたい。かわいい……」

 碧がつぶやいた。そしてはっとしたように自己紹介した。

「わたし、アオ。よろしくね」

「わたしはミクよ。イリナよろしく」

 イリナは碧の肩ほどしかない背丈ながらも、凛とした存在感を放っていた。

 

「碧とケイとリューシャとオムカを助けて、大人三人。子ども三人……とリー。小人はいいとして……ジムニーに全員乗れるか?」

 田崎の心配は尽きない。

「警察もいないし、なんとかなるでしょ?」

 そこには大人しそうな未来はもういなかった。まるでこのために結婚したといわんばかりに腕をまくった。



  *



「チョーロー? あの薬は使えるわね。このジップロックとタッパーに山ほど詰めて頂戴、あと葉っぱも」

 未来がチョーローに話しかけたと思ったら、田崎に振り向いた。

「あと圭一? 軽トラの工具箱丸ごと車に積んでおいて。あと食料ね。買い出しの分だけじゃ足りない。この里の食材もクーラーボックスに突っ込んどいて」

 矢継ぎ早に指示を出す未来。

「お? おう」

 急に忙しくなる田崎。


 碧はリュックを背負ってスマホで写真を撮っていた。ケイに撮った写真を見せては、その驚く表情を見て得意顔をしていた。

 小屋を写真に収めた時だった。

「碧。写真ばっか撮ってないで手伝え」

「……なに、これ綺麗……」

 田崎が画面を覗き込む。

「なんだろう? 何かの模様みたいだけど」

 小屋の写真の背景に、ぼんやりと赤い模様のような光が浮かんでいる。スマホから目を離し、森を見るが肉眼では見えない。

「耳鳴り……? なにか聞こえる……」

 その模様を食い入るように見つめる碧の表情が、次第にぼんやりとしてくる。

「……呼んでる」

 碧の瞳から光が消え、虚ろな色が浮かんだ。

 吸い寄せられるように、碧は森へ駆け出した。

『アオ!?』

 虚をつかれたケイが叫び追いかける。碧は森の中に躊躇なく入っていく。まだ午前中とはいえ森の中は暗い。

「碧?」

「碧ッ!!」

 田崎は嫌な予感がして手に持つクーラーボックスを放り出すと、ケイを追うように走り出した。

「圭一?」

 後ろで未来が異変を感じ取った。

「未来ッ、チョーローを呼んできて!」


 まるで操られているかのように木々の間を抜けていく碧は、時折立ち止まっては首を振る。何かに耳を澄ませるようにして駆け出していく。

『アオ! ***!』

 ケイの声が届いているのかいないのか、森の奥に入っていく。

「碧ーっ! ケーイっ!」

 田崎がケイの後ろを捉えたとき、ケイの左手の紋様が脈打つように光り始めた。

 その顔が苦痛に歪み、左手を押さえる。

 それでもケイは碧の後を追った。田崎がその後に続く。

 碧は立ち止まっていた。そこはぽっかり開いた円状の広場だった。

「この辺……」

 碧はスマホのカメラを向ける。広場の中心にある大木の切り株の洞が、赤く脈動するように光っているのがスクリーンに映し出された。

『アオ……?』

 無表情のまま碧は木の洞に両手を突っ込んだ。両手が出てきたとき、手に持っていたのは石板だった。

「あった……」

『アオ…… ****!』

 ケイが息を飲み、石板を碧の手から取ろうとしたとき、石板がカッ、と光り始めた。

 それはまばゆい光となり視界が白く染まった。

「まぶしい……」

 碧が目を塞いだとき、ケイの左手の紋様も光りだした。

 ペキッ……石板が割れる音とともに、石板の紋様が碧の左手の甲に浮かび上がる。

 ケイの左手の光は止まらない。

 ケイは顔をしかめ苦しみ出す。

 田崎もまぶしさに目がくらんだ。

「痛いよお……」

 碧がうめいて、意識が飛んだように崩れ落ちた。

「碧?!」

 その碧の倒れる音を耳が捉えたとき、


 チリン…… 鈴の音が鳴った。


 バサバサッ!! 上空に亀裂が入り、どんよりとした空がそこだけ不気味に覗いていた。

 空気を切り裂く翼の音が広場に響く。

 数匹の羽猿が急降下してきた。


 田崎はその鈴の音と羽ばたきに、心臓が冷たい何かに鷲掴みにされた。

「碧ッ!! ケイ!!」

 光の中に黒い影が降り立ち、倒れた碧とケイに覆い被さる。

 碧とケイをその太い足でがっしりと掴んだ二匹の羽猿と、それを守るように数匹の姿があった。

「碧ーッ!! ケーイッ!!」

 田崎の頭に一瞬にして血が上った。

「うおおおおおッ!!」

 羽猿に猛然と突進した。


「碧ーーーッ!!!」

 一匹の羽猿を突き飛ばすと、碧を掴んで飛び立とうとしている羽猿に手を伸ばす。

 碧のだらりとした手に田崎の手が届いた。


 冷たい……!?


 その手を掴もうとしたとき、後ろに羽猿が迫っていた。あっと思った瞬間、田崎は後頭部に鈍い衝撃を受けた。

 一瞬遅れて激痛が走り、視界が霞んだ。

 気がつかないうちに膝をついていた。次いで上半身が倒れ、口が土を噛む。


「碧……」

 手を伸ばした先に、ケイと碧を掴んだまま上昇していく羽猿の姿があった。


 ぐんぐんと小さくなる羽猿の姿がぼやけていく。


「碧……、ケイ……」


 田崎は意識を失った。



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