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SAMURAI EDGE

「鈴木重定だな?」


階級章をギラギラと輝かせた男が俺の前でふんぞり返っていた。一丁前に腰に刀を帯びて、後ろには銃を持った兵を何人も侍らせて。

そんな事で強くなったつもりなのだろうか。裸の大将が、滑稽で仕方ない。


「これまで迎えの人間三十八人を撫で斬りにした罪、決して軽くは無い。

 だが、その刀さえ差し出せば。貴様の命、助かるようこの私が図ってやる。」


俺が黙ってやっているのに気を良くしたのかは知らないが、勝手な事を言って俺のこの刀を渡せとほざきやがる。

冗談じゃない。折角親父が取り返してきたものを、何で貴様等なんぞに渡さにゃならん。

この状況においてその襟元の階級章がどれ程の意味もなさない事を、こいつは分かっちゃいないらしい。

それに、その条件の中には俺のメリットが、何処にもないじゃないか。


「黙れよ。豚が。」


階級の豚の表情が、見る見るうちに紅潮していく。どうやらこの男は自分の腐り切っているプライドが余程大事なようだ、やはり滑稽だ。

然しこの刀はこいつらにとってそこまで重要でも無いのか?この俺に対して派遣した人間にしては、余りにも。


「……っ!話し合いには応じんようだな!撃て!強行回収だ!!」


鈍過ぎる。

奴等の握っていた歩兵銃が輪切りに切り分けられる。恐怖への声を挙げる間もなく、奴らの身体がそれと同じように幾つにも分断され倒れていく。

びちゃびちゃと脂と鮮血が土間に飛び散っていく。やはり外に出てから斬り殺すべきだったか、掃除が面倒だし、食欲が湧かん臭いがへばり付く。

漸く事の重大さに気付いたか、男が軍刀に手をかけるが、もう遅い。


「き、貴様!大日本帝國の、ひ、う、ぁぁぁああああ!!!」


其の手から、第一関節から一つずつ斬ってやった。連鎖する様に第二関節が、指が、手が、腕の輪切りが完成してドサドサと山を作っていく。

…外に放置しておけば、野犬なりなんなりが食ってくれるだろう。運ぶのは面倒だが、仕方ない。

最期に、首がストンッ、と落ちたのを確認して、重い腰を上げる。外にはまだ何人も兵がいる。面倒臭いが、一人一人斬っていくしかないか。






「うぅぅぅ……えっぷ……!!」


「だ、大丈夫ですか中……うぇぇ……。」


大日本帝國 某県某市山奥。

エッリ・ハーパライネン中尉と、樋野陽子は、そこにいた。作戦が通達されてから僅か二日後の事である。

現在において、日独の間で交流を行う余裕など、殆ど無い。

唯一潜水艦を使った物流を現在五次まで行われたが、その半数以上が成功とは言い難い結果となっている。

それでは、その状況において、何故彼女達はこの短時間で日本への渡来に成功したか、と言えば、一重に異能の力である。


「い、イカロスは、こ、こんなので本当に太陽まで……うぇぇっ。」


聖遺物、イカロスの翼。蝋で固め、高く飛び過ぎた天使の模倣。その蝋の欠片を利用して作られた、異能の力を有する翼を以って、彼女等は此処に降り立った。

神話レベルの物と言えば、その力は欠片と言えど絶大と成る。アーネンエルベが入手できた物は僅か一粍にも満たない物が一つだけだったが、それでも。

日本とドイツの間を高速で、生身で行き来する事の出来る程の速度を引き出す事だ出来た。

その弊害として、彼等は乗り物酔いにも似た症状を発してしまったが…この恩恵の前には、些細な事だろう。


「ちょっと休もう、そこの木陰で…ヨーコちゃんも。」


「そ、そうですね……吐くのは流石に勘弁なので……。」


そう言って、フラフラと樋野陽子が手近な木の下へと歩いて行った。特に何か変わったところもないが、立派な杉の木だった。ハーパライネンがその背を追う。

一瞬、ハーパライネンが立ち止まった。異臭がする、鼻腔を焼くような、何かとても君の悪い臭いがする。

そう、例えば……腐敗した死体、のような。


「す、ストップ、ヨーコちゃん!」


然し樋野陽子は、ハーパライネンよりも激しい吐き気に包まれているせいか、その異臭に気付く気配は無かった。

杉の木の根元まで来た時。樋野陽子の顔から、一気に血の気が引いていた。口元に手を当てて、嘔吐くのを必死に抑える。

ハーパライネンが彼女の異常に気付き、駆け寄る。その肩を抱いて、彼女の見たと思われるその木の根元へと視線を送れば。


「……何て事だ。もう此処は相手方のお散歩コースの内って訳かい……!」


少女の肩を抱く手を強める。出来立ての死体なら幾らでも見せたことはあったが、確かこういうのは見せたことが無かったし、自分もこんなのは出来れば見たくなかった。

何人分だろうか。バラバラになり過ぎて最早見当もつかない。内臓が食い千切られている。これも野犬か烏辺りの仕業だろう。

脳味噌だったのだろう部分、筋肉だったろう部分、至る所に蛆虫が這い回る。地獄の窯の底の底を覗いたような気分を、樋野陽子は味わっていた。

だが、それに対してゆっくりと落ち着きを取り戻すような事は出来なかった。

パキッ、と。木の枝が折れる音がした。


「声がすると思えば。女子が二人か。甞められた物だ。」


その人物は彼女等二人の後ろに立っていた。エッリ・ハーパライネンがゆっくりと振り向くそれに続いて樋野陽子も視線を移す。

正に侍と言って差し支えない姿だった。当世具足を身に纏い、腰には八咫烏が柄に描かれた刀を差し、面頬を身に着けた男。

まるで遠い昔から這い出てきた幽鬼の様だと、樋野陽子はそう思った。


「勘弁してくれよ……こっちの準備は何にも整ってないってのに。」


ハーパライネンが、陽子の肩を抱えたまま後退る。何時もの不真面目な態度も、今だけは鳴りを潜めるを得なかった。

困惑と焦りと恐怖が入り混じる二人を前にして。その鎧の武者は、腰の刀をゆっくりと引き抜いた。

刃は太陽の光を反射して、美しく、恐ろしい、見る者に畏敬すら抱かせる。雑賀孫市が握った名刀、否。妖刀 八丁念仏団子差し。


「雑賀衆、鈴木孫市重定。御敵、首級(くび)頂くぞ。」

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