CASE1 教授からの依頼
僕は今、教授からの手紙を読んでいる。敬愛する菊埜寛志教授。彼はもうこの世には居ない。教授との日々はとても充実していて、この喪失感は言い表せない。
教授のお葬式が終わって、僕たちの研究室に戻ってきても、僕は何も手に着かなかった。教授は僕の青春であり、教授との研究は僕の生き甲斐でもあった。それを失ってしまった。
教授のお葬式から1週間経った今日、僕は研究室の違和感に気がついた。いつもなら資料やら本やら何やらが乱雑に積み上がっている教授の机が、綺麗さっぱり片付いていたのだ。
「妙だな」
自分以外の人はこの研究室には入らない。教授が頑なに拒んだからだ。僕だけは教授の唯一の助手としてここに出入りできた。つまりこの机は教授が死ぬ前に自ら片付けたというわけだ。妙だ。
教授は・・・・・・絶望的に片付けができない。
研究室は僕が片付けないと一瞬で足の踏み場が無くなるし、大切な研究資料も僕が整理整頓をやらなければあっという間に姿を消す。その教授が自ら片付けをするなんて、ここに何かありますと言っているのと同じだ。
早速机を調べてみる。罪悪感は無い。これは教授からのメッセージに違いないという自信がある。なんだか宝探しをしている気分だ。整頓された書類、ファイル、引き出し、そのひとつひとつを丁寧に探っていく。
「やっぱり」
そして僕は見つけた。『原沼くんへ』と書かれた手紙を。僕は震える手でその手紙を開け、読み始めた。読み始めてすぐに僕は動けなくなった。教授の文字がここにある。教授の言葉がここにある。涙が込み上げてどうしようもなかった。教授が最期に遺した物が僕へ宛てられた物だったのが、この上もなく嬉しかった。
『原沼くんへ
これを君が読んでいるということは、私自身がもうこの世に居ないということだろう。そしてこれを読んでいるのは、真っ先に私の研究室を片付けるであろう君のはずだ。私も君の人となりはよく知っている。どうか私の最期の頼みを聞いてほしい。
私は倫理的禁忌を犯して、ある実験を行った。
まだ大学の苦学生だった頃、私はある人物と出会った。私はその者の抱える病、その者への私自身の心理変化、その者を巡る人間関係、そのすべてに惹きつけられた。自分の研究分野を大きく変えてでも『その者』について解き明かしたくなったのだ。
そのために私は30年という時間を掛けて秘密裏にある装置を完成させた。世間には公表していない。するつもりもない。私は個人的理由からこの装置を使った極秘の実験を実行した。
その装置と、実験のレポートは別の場所に隠した。今年の12月13日を過ぎると装置はただの鉄くずになって、実験のレポートも読めなくなるようにした。もし君が探し出せたら、その秘密の実験について全てを明かそう。そして私の最後の頼みを君に託す。見つけたヒントは好きに使ってくれて構わない。
君なら絶対に見つけると信じているよ。では、任せた。
菊埜 』
「教授の誕生日。明日じゃないですか。まったく人が悪い。絶対今日中に見つけますからね」
まずは手紙と一緒に入っていた小さな銀色の鍵を手に取る。教授のロッカーの鍵だ。僕はまるで、自分がミステリー小説に出てくる名探偵になった気になって心からワクワクしている。秘密の鍵は間違いなくカチャリと音を立てて、ロッカーの封を解いてくれた。
『CASE2 簡単な謎解き』へ続く
次話もお楽しみに!




