44.おさまるべきところ
「・・・・・・俺は、騎士団を辞めようと思っている。」
「は?」
いきなりの告白に、私は素っ頓狂な声を上げたが、そう言われると、ディアの表情の色々の説明がつく。
「でも、王子に言われてくっついてくるんじゃないの?それって騎士団としてなんじゃなく?」
「正式な命令ではないからな。辞めるのを止められた感じだ。」
とりあえず先延ばしにって感じか。
「もしかして、そのまま帰らないつもり?」
「あぁ。」
だからこそのあの表情だ。
「この子は本当はどうなるの?」
「・・・・・・俺が帰らなかったら、わからん。」
ぎゅっと目をつむり、うつむくディア。
「他の人って乗れないの?」
「ディードは俺の一つ先輩の卵だった。だが、どうしても誰にも馴れなくて、処分することになるとこだったんだ。その時に俺が入って、与えられたんだ。」
それは押しつけというのではないだろうか?
「じゃぁ、また処分になっちゃうかもしれないってこと?」
「・・・・・・。」
ディアはじっと耐えている。でも、ディアの苦悩よりも、目の前の命が危ない。
「それって逃げるっていうんじゃないの?この子にはあなたが必要なんでしょ?!」
「っ!・・・・・・っ・・・・・・。」
声にならない様々な思いを飲み込んでいるその様子は、小さな姿と相まって、ものすごく哀れだった。
ベイダルさんの声が聞こえた気がする。持たざる者に優しくせよと。
「約束は守って。この子に乗せて。」
「え?」
「最後なんだよ?」
「・・・・・・わかった。鞍をとってくる。手を出したりするなよ。後、のけ反ったら炎を吐くかもしれないから、逃げろ。」
少年がそう言って、鞍を取りに行った。
「ねぇ、あの子とずっと一緒にいたい?」
無言で私をじっと見るディード。鳴き声を上げるわけでもなく、ただじっと見てくる。
「さすがにワイバーン語は無いのか。」
私がそうもらした時には、ディアが近づいてきていた。
物語ならここでディードが返事でもするところだろうが、特にそれもなく、ディアが鞍をつけるために柵の中からディードを出した。
「離れてろ。ケガでもさせたらお前の騎士に殺されるだろうからな。」
お前の騎士って言い方がなんかなぁ。と思いつつも、素直に離れた。あ、でもベイダルさんと初対面の時・・・・・・なんでもない。
「殺されるって、負けると思うの?」
「思わない。」
やなやつー。
「でも、こいつと死ぬなら、それもいいのかもな。」
小さく呟いたその言葉は、微かにではあるが私に届いた。聖女イヤーは地獄耳なのだ。
「これでいいが、どうするんだ?ここでのるか?」
「空を飛ぶに決まってるでしょー!」
私はそう言って、外に転移した。
オスカラートはまだ暖かいだろう。しかし、ベリンダールの夜は寒かった。
空気の流れを私たちの周りだけ遮断し、空気を温める。
「便利だな。」
それに気が付いたディアは、ディードのスピードを上げた。
ディアにしがみつきながら、景色を見る。
真っ暗で何も見えないようで、眼下に王都の光が見え、真上には満天の星。
空気の流れを止めているのもあるのか、馬に乗った時のような怖さはなく、ただただきれいだった。
「きれいだね。」
「あぁ。」
小さな声だが、空気の流れを遮断しているうえに密着しているので、よく聞こえる。静かな夜だ。
しばらく無言で飛ぶ。
ディードもディアも嬉しいのか、たまに宙返りなどする。
しかし、それも時間がたつと、ディアの体に力が入るのを感じた。別れの時を思っているのだろうか。
「本当に別れて良いの?」
「・・・・・・あぁ。」
「殺されちゃうかもしれないんだよ?」
「そうならないかもしれない。」
「本当にそう思うの?他の人には馴れてないんでしょ?」
「・・・・・・。」
「本当はわかってるんでしょ?連れてかないと、一生悔いるよ?」
「・・・・・・わかってるさ。でも、どうしようもない。」
ディアの体が微かに震えている。
「ちゃんと本心を聞かせて。本当は連れていきたいんだよね?」
「当たり前だろ。」
即答だ。
「うん。それなら、明日一緒にお願いしに行こ。」
「は?」
「聖女の頼みなら聞いてくれるかもしれないし。あ、ベイダルさんも連れて行こうよ。黒龍の言うことなら絶対聞いてくれるって!」
「お前、黒龍にそんなこと頼めるわけないだろ?お前は知らないかもしれないが、この国では神レベルの扱いなんだぞ?」
「あのベイダルさんがぁ?」
「当たり前だろ?!」
「じゃぁ、この国で聖女ってどんな感じ?」
「えっ・・・・・・まぁ、世界の宝っていわれてるけど・・・・・・。」
「この私がぁ?」
「・・・・・・自分で言うなよ。」
「否定しないじゃん!大丈夫だって!ベイダルさんもお菓子渡せば、ホイホイついて来てくれるから!」
「そんなわけ・・・・・・ありそうだな・・・・・・。」
「うん!だから、明日お願いしに行こ!大丈夫だって!最悪王家に洗脳魔法唱えるからさ!」
「それは止めろ!」
「一緒に行かないとしちゃうかも。だから、ちゃんと見張りに来ないと!」
「・・・・・・わかったよ。」
「うん!」
ディアの体から力が抜け、震えも止まっている。私からはどんな表情をしているかわからないが、きっと悲壮感は消えたと信じたい。
私たちはこっそりとディードを戻し、お家へと転移したのだった。
翌日、私たちは最後の挨拶という意味も込めて、またベリンダールの城へやってきていた。
「そんなわけでオスカラートへと帰るんだけど、ディアのワイバーンを一緒に連れていきたいの。」
私の言葉に、部屋の空気がぴしりと固まった。
目の前には、第二王子どころか、王一家が並んで座っている。
さすがの王妃は微笑みを崩さないが、王子二人は緊張した顔で王の顔をチラリと伺う。その様子に、やっぱりこの国にとってのワイバーンが、かなり重要だということが分かる。
「そうは申されましても、国境を超えることをオスカラート側が許さぬでしょう。」
王は冷静に返してきた。まぁ、ベリンダールの竜騎士が事前の了承も得ずにワイバーンごとオスカラートに行けば、下手すると戦争になりかねない。
「じゃぁ、あのワイバーン、私にください。私のワイバーンとして連れてきますから、大丈夫ですよ。」
私もにっこりと返してみる。
「ワイバーンの維持に、どのくらいの費用がかかるかご存じですか?」
暗にこれまでにどれくらいつぎ込んだと思ってるんだってことだろう。
「さぁ。ですけど、ディアの話を聞くに、このままだとあのワイバーンは使い物にならないでしょう。だったら、これから無駄にお金を使うよりもこちらに渡していただいた方がよろしいんじゃないですかね?
それとも、殺処分するのかしら?だったら、より一層こちらで引き取りたいです。」
「そうなのか?」
私の言葉に、王が第一王子を見て聞いた。どうやら、騎士の管轄は第一王子のようだ。
「はい。あのワイバーンは彼にしか馴れていません。それは騎士団が全員知っております。」
第一王子の口からもディアの言葉を裏付ける証言が出たのは、意外ではあった。しかし、それだけ馴れていないということなのだろう。
「ふむ。」
考え込む王を見て、隣でお菓子をもぐもぐしているベイダルさんが口を開いた。
「あれは賢い個体だね。普通なら人間に見向きもしないけど、この子供を自分の息子だと思ってるみたいだな。」
「「え。」」
思わず私とディアがハモってしまう衝撃の事実が語られた。かなり甘えていたように思えるんで、なんだか複雑である。
ちなみに、この部屋にくる前に三人でディードを見に行ったので、ベイダルさんもディードを知っている。
「悩むことも無いだろ。あれはこの子供にしかついて行かないから、この子供にやるのが筋だよ。お前じゃだめだ。」
おい、こっちにそう振るな。話の流れが分かってるのか分かってないのか判断できんわい。
「と、黒龍様もおっしゃってるので、ディードは連れていきますね。いや、この際、ディア個人のワイバーンとしますね。」
紛れてディアのものにしてしまう流れに変換する。王は無表情だが、まだ頷かない。ならとどめだ。
「まさか、昨日黒龍様に大切に扱うと約束したばかりなのに、その約束を破るつもりではありませんよね?」
これには王も頷くしかなかった。さすが黒龍効果。効果はバツグンである。
こうしてディアは、ディードを無事ゲットしたのだった。
「というわけで、ワイバーンも仲間になりました。」
馬車で待っていたシュレインさんとアマンダさんにそう告げると、何ともいえない顔になった。
ちなみにディアは上空で旋回している。
「聞いていなかったのですが。」
そう、二人には話していなかったのだ。まぁ、個人情報的なのあるしね!
「いやぁ、殺処分になりかねないみたいだったから、もらってきただけだよー。」
「そんな簡単にもらえるようなものではないと思うのですが・・・・・・。でも、良かったです。」
シュレインさんの表情が柔らかくなったので、私も頷いた。
「やっぱり、おさまるべきとこにおさまるのが一番だもんね。ディアも嬉しそうでよかったよ。」
「いえ、聖女殿が盗んでこなくてよかったという意味ですよ。」
おい。
でも、そういうシュレインさんが本当に嬉しそうな笑顔なので、突っ込み辛くてやめておいた。シュレインさんの喜びポイントよくわかんない!
「ベイダルさん、助けてくれてありがとうございました。」
そう言って頭を下げると、ベイダルさんは小首をかしげた。
「ん?お前のものにならなくて拗ねるのかと思った。」
やっぱこいつ分かってなかった。
「いや、あれはそういう意味じゃないんだよー。最初からディアの為に欲しかったの!」
「ふぅん。まぁ、別に何したわけでもないしいいよ。ワイバーンも幸せそうだったしな。」
この黒龍本当に偉いのか?器の大きさは確かではあるが。そう自問しながら、王都を出るべく馬車へと乗り込むのであった。
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