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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
43/102

43.ようこそマイハウス

「もう何を言えばいいのかが分かりません。」

 シュレインさんがつぶやいた。

 日本のマンションを模した部屋を、騎士二人が遠い目で見ており、その横で好奇心旺盛にドラゴンとアマンダさんがキョロキョロしている。

「聖女様!見て周っても?!」

 アマンダさんがこらえきれなかったようで、大興奮の声で聞いてくる。

「いや、ちょっと待って。これだと人数的に部屋が足りないんだわ。というわけで、精霊王様たち、お願いです!お部屋を増設してください!」

 私の声に反応し、精霊王たちがわらわらと出現する。といっても、私とベイダルさん以外には見えていないのだが。


 お風呂とトイレとベランダを各部屋に増設し、ついでに下にも階を伸ばしてもらった。

 よもや部屋が埋まるとは思わなかったので、今後のことも見据えて拡張できるようにしたのだ。

 万が一、ベイダルさんの弟も住むなんてことになってもいいように、あらかじめ空き部屋を余計に作ってもらった。きっと多分埋まらないに違いない。・・・・・・と、信じてる。

 騎士二人の稽古場や調合も下の階でやることにしようということで、それ用の部屋も増設してもらう。

 それと、馬車を泊める空間と馬を置いておく庭と小屋も作ってもらった。これで馬車と馬を連れてこれる。

 

 しかし、それを見てディアの顔が陰った。

「どうしたの?」

「いや、別に。」

 そっけなくそう言って、ディアはリビングへと引っ込んでしまった。

「ワイバーンがいないからでしょう。」

 隣に立っているシュレインさんが、ディアを見送りながら小さく言った。

「あぁ。」

 私は少し悩んだが、角部屋に同じような庭と小屋をつながるように作ってもらった。

「いないのに作ったら余計なことになるかな?」

「聖女殿らしくないですね。」

「え?」

「いえ、聖女殿なら、盗んででも連れてくればいいじゃないって言いそうだと思ったので。」

 人の事を何だと思ってるんだこの人は。

 でもまぁ、その通りな気がする。

「出発前に、ちゃんと王子に話通すかぁ。」

 シュレインさんは返事をしなかったが、ふっという小さな息の音が聞こえた。


「さて、自分の部屋の掃除は自分でやってね。掃除用具入れはあそこ。使い方は後で言うね。先にお風呂とトイレの使い方を説明するわ。」

 設備についての説明を全員にする。アマンダさんは目を光らせてそれを見ているが、他の人たちはわかってるのかどうかが分からない。

 まぁ、急に文明レベルが上がったら意味が分からないもんなぁ。しかもウォシュレットって何だよってものだろうし。

 でも、一応すべてが魔道具という形で再現されている。それに、基本はボタンやレバーで操作できるので、大丈夫だろう。

 料理は私が作ればいいかな。しかし、その食料もどこからか調達しなければならない。

 とりあえずはベリンダールで買い出しに行くことにしよう。

 その後は、どこか大きな街に転移して、そこで買い物だけしていけばきっとバレないに違いないと思いたい。



 その日はとりあえず、買い物をすることになった。

 あ、冷蔵庫なのだが、実家で使っていた冷蔵庫と同じものだった。

 開けられる部分が六つあるのだが、実家のは冷蔵室・野菜室・飲み物室が大きくしめており、その横に細長い冷凍庫・氷が出てくるところ・冷凍庫という並びだったんだけど、その最後の冷凍庫が異次元室になっていた。

 開けてみると、普通の冷凍庫に見えるのだが、冷凍されずに時が止まるのである。しかも、空間魔法がかかっていて入れ放題。

 うん、深くは考えまい。

 というわけで、どんなに大量の食材も、ここにぶち込んでおけば永遠に新鮮なのだ。


 この世界にはもちろんビニールハウスなどないので、野菜は旬の時以外食べれないか、加工保存しないといけない。

 しかし、ここに入れておけば、一年中どの野菜も食べ放題である。

「やばい。これなら買えるだけ買って、買い物に行かなくて済むじゃないか・・・・・・。」 

 ひきこもりが捗る冷蔵庫だ。


 ディアに街を案内してもらいつつ、様々なものを買っては運び買っては運びしていく。

 家具がついていても、細やかな日常品が必要になってくるし、ベッドのマットレスはあるものの、シーツやかけ布団が無かったのだ。

「うひぃ、結構買うことになっちゃったね。アマンダさんすみません。」

「いいえ。私も住まわせてもらいますしね。それに、ここの羽毛布団は素晴らしいです!ぜひ私も使いたいので!」

 姉妹ムーブしなくてもよくなってしまったので、通常運転に戻っている。まぁ、二人はメリル様って呼んでるけど。

 そんなこんなで、店が閉まるギリギリまで様々に買い物をすることになってしまった。


「俺は一旦自分の部屋に戻る。出発はいつなんだ?」

「うーん、宿屋を引き払うのは明日の朝にしちゃおうかなって思うんだ。お金もったいないし。だからさ、今日から泊まっていかない?荷物は今持ってこれるかな?」

「・・・・・・そっちがそれでいいなら。」

 そうと決まったので、今日は食事をテイクアウトして先にベリンダール組二人を私の部屋に送って、宿屋の部屋に帰ってからオスカラート組三人で転移する。


 食事をとってから部屋割りをし、それぞれが自分の部屋に荷物を運ぶ。

 ベイダルさんは面倒くさいだろうと思ったので、私がベッドメイキングだけしてあげた。



「荷物はそんなにないから、一人で行ける。」

「そうはいっても、結局は送り迎えしないといけないからなぁ。」

「確かにな。」

 そう話ながら、私とディアはベリンダールの城の一角に転移した。

「魔法ってのは本当に便利だな。」

「そうだねー。で、ここは?」

「ほら、そこがワイバーンの厩舎だ。」

 ディアが指さす方に、大きな倉庫のようなものがある。大きな入り口が見えるが、誰も立っていない。

「警備の兵士とかいないんだね。盗み放題じゃん。」

「あほか。そんなことしようものなら食われるよ。」

 確かに。

「ここで待っていてくれ。こっちまでは人も来ないからな。」

 そう言ってディアは城の中へと入っていく。


 私は厩舎の方へと寄っていく。私の気配に気が付いてか、中から複数の唸り声がする。

 厩舎の大きさから、かなりの数がここにいるだろうと思う。とはいっても、二十はいないくらいだろう。

 騎士団の人数はもちろんそれ以上にいるはずなのを考えると、ディアは先鋭の一人なのだと思う。

 そんな先鋭の中から二人いなくなって、ディアもどういうつもりか離れようとしている。

 騎士団長も責任をとるらしいし、この国の守りが薄くなることは確かだろう。

 そんな中で、ワイバーンまでは持っていけないだろうか。


 私がそんなことやこれからの一ヶ月の生活を考えていると、ディアが帰ってきた。

「え?!荷物ってそれだけ?!」

 ディアはそこそこ大きめのリュックを背負っているだけだった。こんなの修学旅行の荷物程度だぞ?

「元からそんなに私物は無いんだ。騎士団の支給品は持ってこれないからな。必要なものは買えばいい。」

 そう言われたら、私も聖女として城へやってきたものの、服が数着あったくらいだった。しかも買うお金すら持ってなかったしなぁ。何かあったら稼げばいい!って思ってたからね。


「お前、あまりそっちに行くなよ。中のワイバーンが警戒してるだろ。」

「唸り声が聞こえるね。」

「聞こえててそのままでいるな。ワイバーンは神経質だからな。騎士団のメンバー以外には懐かない。」

「触らせてくれたから大人しい物なのかと思ったわ。まぁ、誰にでもホイホイついて行ったら困るもんね。」

「あれはちゃんと俺たちがそばにいたからな。」

「あ!そういえば、乗せてもらえなかった!乗せてくれるって言ってなかった?!」

「すまない。それどころじゃなかったからな。」

「今!今!!」

「あほか。それに、ここのカギは副団長が持ってる。」

「それなら大丈夫!」

 私はそう言って、ディアの手を取った。

「ちょっとだけワープ!」

 私の声に合わせ、厩舎の中に転移した。ドヤァ。

「ばっ!お前ダメだろ!!」

「えへへー。壁くらいなら抜けれちゃうからつい。それに、ちゃんと挨拶しておいた方がいいんじゃない?少なくとも春まで帰ってこれないんだよ?」

「・・・・・・そうだな。じゃぁ、離れるなよ?」

 ディアは私の手を引き、厩舎の奥へと歩き出す。私にはどのワイバーンも同じように見えるが、ディアのワイバーンは一瞬でどの子かわかった。なぜなら、ディアの気配を感じてか、奥からキュンキュンと甘えた声で無く子がいたのだ。


「凄くなれてるんだね・・・・・・。」

 ディアに撫でられ、気持ちよさそうに頭をこすりつけるワイバーンを見て、若干あっけにとられた。犬猫レベルじゃん。

「いつも一緒だったからな。今日は来れなくて悪かったな。」

 そう言うディアの目が、愛おしそうな、寂しそうな光をともす。

「ディアがいない間は他の人が乗るの?」

「・・・・・・そうだと思う。」

 なんだかはっきりしない返答だった。言葉尻もそうだが、口調の歯切れの悪さと、顔の歪みがそうではないと言っている。

「何かあるの?ワイバーンが嫌がっちゃうとか?」

「・・・・・・。」

「それって大丈夫なの?ちゃんと世話はしてもらえるんだよね?」

「あぁ。大丈夫だ。」

 それならいいのだが、ディアの顔が何ともいえない表情なので、疑わしさが半端ない。


「・・・・・・俺は、騎士団を辞めようと思っている。」

「は?」

 ディアの告白に、私は素っ頓狂な声を上げたのだった。

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