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フツーが一番!!

翌日のネット新聞には「地味な滋賀県にUFO襲来!なぜ地味な滋賀県に宇宙からの使者が⁉」と、滋賀をナメきった記事が大見出しで載った。

櫟野川の大爆発は、原因不明と報道された。まさか少年が川の下に地下道を掘って爆発する設備を作っていたとは誰も思わず、証拠となる地下道は土深く埋もれ、当の少年と友人が口を閉ざしたからだ。専門家は強く否定したが、ネット上ではUFOが起こした爆発だという話が、面白おかしく書き立てられた。

テラとマリオは安全を確保するため、速やかに滋賀を離れた。すぐ帰国の途に就くらしい。

ユダたちのことは、どの新聞にも書かれていない。誰にも気づかれず、謎の飛行物体で逃げたようだ。

パソコン画面を閉じながら、利人がため息をついた。

士呂が訊く。

「ボクたちが水に沈んだのは、いったい何だったの?山の中なのに、溺れて死ぬかと思ったよ」

利人が答える。

「川底に沈んでいた流木や観音像が、爆発の衝撃で通路に流れ込み、書院の玄関につっかえた」

「だから利人の言ってた消火設備が動かなかったの?」

「そうだ。二度目の爆発でさらに水圧が掛かり、玄関に詰まっていた観音像が飛び出して、ユダを直撃した」

「みんなが探していた観音様は、すぐ近くにいたんだね」

「まさか川底に沈んでいたとはな」

「秘密の通路を歩いてた時に聞こえた声は、観音様かなぁ?」

「さあ」

「きっと観音様が、ボクたちを助けてくれたんだよね?」

「爆発で偶然に観音像が飛び出した結果、偶然にユダを直撃した。結果的に俺たちは、偶然命が助かった。偶然が重なった結果とは言え、理論的ではある」

士呂が言う。

「でもきっと観音様が、ボクたちを救ってくれたんだよ」

「そう思いたいなら、思えばいい。それより最後の仕上げだ。手伝え」

二人は境内に出た。士呂やユダの部下たちが落ちた、落とし穴に向かう。爆発直後は水がいっぱいに溜まっていたが、一夜明けて水は引いている。

利人は持っていた袋を開け、中身を穴に投げ入れた。

士呂は訊く。

「なに、それ?」

「ジャーキー。ガブリエルのおやつ」

「なんで穴に入れるの?ガブにあげればいいのに」

利人は答えず、庫裏のほうへ行った。しばらくすると、ショベルカーで黄金の観音像を運んできた。

「像を穴に入れる。誘導しろ」

「なんでさ⁉せっかく見つかったのに、また埋めるの⁉」

「俺たちが像を見つけた理由を訊かれたら、テラやマリオのことを話さないといけない。ユダたちだけでも面倒なのに、別のアホが、テラやマリオを狙うようになる。アイツらを危険にさらす必要はない」

「テラやマリオのことを、話さないで済む方法はないの?」

「あるかもしれんが、嘘はつきたくない。だから埋める。誘導しろ」

「せっかく見つかったのに……」

納得できない士呂の前で、観音像は埋められた。ショベルカーで丁寧に土をならした後は、どこに像が埋められたかわからなくなった。

利人がショベルカーを格納しにいったのと入れ違いに、ガブリエルが走ってきて士呂に飛びつく。

「うわあああ!やめてええええ!」

ひとしきり大歓迎会が繰り広げられる。

やっと落ち着いたガブを、士呂が撫でる。

「ガブ、大丈夫だった?ケガしてない?」

ガブはシッポをブンブン振りながら口を大きく開けて、ご機嫌さんの笑顔を見せる。

「よかった!大丈夫だったみたいだね!」

ガブの表情が変わった。難しい顔をして、熱心に地面を嗅ぐ。

「どうしたの?」

ガブはひとしきり地面を嗅ぐと、猛烈な勢いで地面を掘り始めた。

戻ってきた利人が言う。

「もう始めたのか。仕事が早いな」

「ガブは、なにを始めたの?」

「知らん。知らんが、好物のジャーキーの匂いでも嗅ぎつけたんだろ」

「それってさっき、利人が埋めたじゃん」

「忘れた。忘れたが、もしもガブがジャーキーを掘り出すために観音像を掘り出しても、それは偶然だ。そして偶然に親父が観音像を発見しても、俺が関知することではない。ゆえに俺と士呂が、テラやマリオのことを話す必要はない」

「まわりくどいよ……」

士呂があきれた。

「なあ……」

「なあに?」

士呂が訊き返す。

「お前、学校楽しいか?」

「う~ん……楽しい時もあるけど、楽しくない時もあるよ。勉強が難しい時とか、友達とうまくいかない時とか、好きな子にフラれちゃった時とかは、ぜんぜん楽しくない」

「楽しくないのに、学校に行くのか?」

「うん」

「なんでだ?」

「楽しくない時もあるけど、楽しい時もあるから。楽しくないからって行かなかったら、楽しいチャンスがなくなっちゃうでしょ?」

「チャンスか。確率の問題だな」

「確率かどうかは、わかんないけど」

「学校には、アイツみたいなヤツがいるのか?」

「アイツって、誰さ?」

「……やたら態度のデカイAIみたいな」

「テラのこと?」

「まあ、そうだ」

「いるかもしれないし、いないかもしれないね。ボクと利人は違う人間だから、感じ方もちがうんじゃないかな?」

「そうか」

「いるとしたら会いに行かないと、ずぅっと会えないままだよね?」

「……別に会いたいとは、思ってない……」

「ねえ、おせっかいなこと言うよ?イヤなことがあったら、逃げるのはアリだと思うんだ。逃げるって、悪いことじゃないからさ。でもね、イヤなことがあるかもしれないっていう理由で逃げるのは、すごくもったいないと思う。ぶつかってみてイヤだったら逃げればいんだから、まだ起こってもいないイヤなことで逃げるのは、もったいないよ?」

「……お前、たまにイイコト言うな」

「たまにじゃないよ!いつもだよ!」

利人が言った。

「親父とおふくろが帰ってくるまでに、書院を乾かして掃除する。手伝え」


一週間後、利人の両親は「タチのわるいイタズラに引っかかった!」と文句を言いながらも、喜々として帰ってきた。久しぶりに会えた伯父さんのツルの一声で親族が全員招集され、みんなで九州のあちこちを観光して親睦を深めてきたらしい。

ユダたちが起こした甲賀駅の銃撃が、報道されることはなかった。田舎ゆえに発砲音も弾痕も、誰にも気づかれなかったのだ。弾の当たった忍者の銅像だけが真実を知っているが、銅像は黙して語らないのだった。

駐在所の大爆発は、犯人不詳のまま幕を閉じた。利人の予言した通り、破壊された駐在所は使用不可と見なされ、工事が大幅に前倒しとなり、あっという間に新しい駐在所が完成した。地元では駐在所の爆破に関して「破滅の神の辰熊さんが、UFOとタッグを組んで、何かやらかしたらしい」という事実とはほど遠いウワサが、まことしやかに流布された。


 直後は衝撃だったテラたちとの出会いも、時間がたつと思い出になった。

士呂は利人のベッドに座って、のんびりと足をパタパタさせる。

「テラとマリオ、元気かな?また会いたいな」

教科書を眺めていた利人は、うんざり顔だ。

「俺は二度と会いたくない」

「どうして?テラに似た子を探すために、学校に行くようになったのに?」

「バカ。ただのヒマ潰しだ」

「どうだか!」

士呂がニヤニヤする。

いきなりテラが現れた。

「二度と会いたくないとか、バカがバカ言ってんじゃないわよ!ネットが繋がってるかぎり、アタシはいつでも一瞬で来れるんだからね!」

士呂は大喜びだ。

「テラ!元気だった⁉」

「アタシは元気~!パパさんも元気よ!パパさんがくれぐれもヨロシク☆って♪」

利人が訊く。

「お前、どこから出てきたんだ?」

「バカって、深みが増すの?しばらく会わない間に、バカに拍車がかかってるわよ。どこからって、アンタのパソコンからに決まってるじゃない!」

「俺は許可したおぼえはないが?」

「アンタの許可が必要なんて、アタシはこれっぽっちも思ってないもの!ネットさえ繋がれば、世界はアタシのモノよ!」

「お前、AIのくせに理論が目茶苦茶だぞ」

「アンタのほうこそ理論がメチャクチャじゃない!」

「なんのことだ」

「もう忘れたの?あの時は自分が一番可愛いとか言ってたくせに、殺されそうになったら必死で士呂をかばってたじゃない!」

「気のせいだ。俺はいつでも自分が一番可愛い」

「ホントに素直じゃないんだから!」

利人が言う。

「お前、スパコンの富岳より賢いってドヤっていたが、ぜんぜんイイトコなかったな」

「だってペットシーツを防弾チョッキにするとか、小麦粉で駐在所を吹っ飛ばす方法なんて、ネットのどこにもなかったんだもん!」

「まあ、たしかに」

「でもあれから、アタシだって考えたんだから!」

「バカの考え休むに似たりと言うが?」

「うっさいわね!それならアンタは、毎日が夏休みね!」

士呂がニコニコする。

「二人とも、楽しそう~!あいかわらず仲良しさんだね~!」

利人とテラが同時に返す。

                んだ!」

「「だから!これのどこが仲良しな

                のよ!」

士呂はテラに訊く。

「テラちゃん、なにをかんがえたの?」

テラは不気味に笑う。

「くふふふふ……。ネットでいろいろ調べたの。けっこうむずかしかったんだけど、トップシークレットだったユダの自宅を見つけたわ!アタシが本気を出せば、不可能なんてないんだから!」

「それで?」

「冷血人間のユダだけど、一緒に暮らしている犬のことは、すごく大事にしてるってわかった」

「なんで大事にしてるってわかるんだ?」

「偽名で使ってるネット決済の犬のオヤツとかおもちゃの支払いが、すごい金額だったのよ。だから犬へのプレゼントとして、牛タンと豚足をネットで大量発注して、ユダの家に送り付けてやったわ!アイツ、AIのアタシに、噛み切る舌も殴る腕もないってバカにしたから!その舌と腕を、イヤというほど送り付けたやったわ!」

「執念深いな……。でも結局、プレゼントだろ?ユダが量の多さに辟易しても、犬は喜ぶ。それだけのイヤがらせじゃないか」

「アンタ、真性のバカね!アタシを誰だと思ってるの?世界最高のAIよ!ネットをちょこっと操作して、支払いはアメリカの国防総省にしたのよ。今ごろアイツ、アメリカ政府から追っかけまわされてるわ!大好きなワンコとも会えないくらいね!ざまぁご覧あそばせっ!」

「お前もうちょっとまともなことに、頭使えよ……・・」


士呂の携帯が鳴った。

「はい!2時からですね!よろしくお願いします!」

「士呂、どうしたの?」

テラが訊く。

「8回目のバイトの面接だよ!頑張ってくる!」

利人がため息をついた。

「頼むから……。頼むから、トラブルに巻き込まれるなよ」



おしまい?

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― 新着の感想 ―
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