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034 湖畔で水浴びキャッキャウフフと思わせてワニに追いかけられる回なのですが、どうでしょう?

「すごく久しぶりに本編中で喋った気がしますよ、右手さん……」

「更新時間の遅さから、作者の説破つまりっぷりが伝わりますね、左手さん……」

「何でも緊急指令が入ったとか。でもまたすぐに夕方に戻りますよ、右手さん……」


 前回までのあらすじ。


 ある日突然勇者パーティーを解雇されたうえに婚約破棄された女神、エンリ。

 彼女はなんやかんやあったのちに、自分はいわゆる悪役令嬢ポジションでこのままでは悪役として処刑される運命にあると知る。

 エンリは悪役ながらも持ち前の人の良さを生かし、朗らかに錬金術師をしながら王都の片隅で、ご飯屋さんを経営しながらスローライフする生活を送っていた。

 するとたまたまエンリの醤油ポーション卵かけご飯を食べた隣国の王子が、


「エクセレント! ボクはこんな美味しい食べもの口にしたことがない! 是非我が王国の姫になっておくれよジュテ~ム!」


 隣国に移ったあとのエンリは王子を内政でサポートしつつ、公爵男爵子爵剣聖騎士団長のイケメン達に次々とプロポーズされ、幸せな日々を送る。

 ついでにエンリを追放した王国は滅亡した。

 頑張れエンリ! 君はまだまだイケメンを落とせる!


「……おい」


 コハルはエンリ様のほっぺたを、ぺちぺちと叩いた。


「起きろ、駄女神。よだれ垂らしながら寝てんじゃねー」


 ぺち。

 ぺちぺちぺち。


「うーん、むにゃむにゃ……。そんな騎士様、貴方は実母の再婚相手なのに、きゃっ……」


「寝てるんじゃねーよ、昼だぞ! 起きろ!」


「……はっ!? 誰か一人を愛することが、こんなにも辛く苦しいなんて――!?」


「全然起きてないな、全然」


「あれ? 王子様は? イケメン聖騎士団長は? エンリのTOKI・MEKIはいつ始まるんですか?」


「始まらないし、始まる予定もない」


「うわごとのように、前回のあらすじを話していたわ。どこぞの悪役令嬢ものみたいな」


「捏造されまくりのエピソードでした、エンリ様……」


 ガラゴロガラゴロ。

 揺れる馬車の中で、エンリ様はきょとんとしていた。


「イケメン王子は?」


「いねーよ。そんなもん」


 ガラゴロガラゴロ。


「ああん♪ コ・ハ・ルく~ん! エンリの王子様になって~!」


「うわこらひっつくな!」


 ガラゴロガラゴロ。


 馬車が進んでいる。

 バビロン王から命じられた、パーク・ダンジョン・ハチオージの攻略を終わらせたコハル達。


 地下10階層から地上まで脱出するのに、朝までかかった。

 途中のショートカットでアンズがフロアを壊しまくったせいで、ボルダリングかというくらい壁を登らされた。

 ハーフウルフのアササギがいなければ、エンリ様を担いで外に出ることはできなかっただろう。


「身体がベトベト……お風呂に入りたいわ」


 ダンジョンコアに取り込まれたレンリが、自分の全身を見つめ、ため息を吐く。

 ヤバ気な液体に飲まれていたせいか、ちょっと臭う。


「では、沐浴の可能な泉に向かいましょう。そこなら、食料の調達も可能かと思われます……」


 馬車を引くコカトリスを操りながら、アササギがそう言った。


「はわぁ、お腹空きました~」


 外の警護を行っていたアンズのお腹が鳴った。

 レンリ、アササギ、アンズ、エンリ様……そしてコハル。

 出発時のパーティーから、誰も欠けていない。

 王都を出発してから一週間も経過していないが、ダンジョンでの激戦を考えると一人も欠けないというのは奇跡に思えた。


「結局……あのダンジョン潰して、何か良くなったのかな?」


 コハルは外を眺めながら、そう呟く。

 冒険者であるなら、絶対に持ってはいけない疑問だ。


「邪神と契約した種族は、邪神と運命を共にする定めです。どちらにしろ、彼らは死ぬしかなかった。変えられない宿命なんですよ」


 エンリ様が、こともなげに応える。

 疑問を抱くことすら時間の無駄、そんな気がした。


「オレは……そう思わない。運命が変えられないなら――オレが、神でも邪神でも、殺してみせる」


「ふふ、頼もしい勇者様ですね」


 そんな二人の重い会話をぶち壊すように、


「はわぁ~♪ ご飯楽しみ~♪」


 というアンズの声が聞こえた。


「アンズちゃんの純粋さに、救われるときがあるわ」


 スキップしながら周りをぐるぐるしているアンズを見ながら、レンリが微笑む。


「ああ見えて魔獣だけどな……」


「少なくとも、私達を幸福にしてくれる魔獣よ。全員不幸にしてしまう悪魔より、ずっといいわ」


 馬車が止まる。

 泉に到着したようだ。


 周囲を森に囲まれた、美しい泉。

 こんこんと水が湧いていて、思わず見惚れるほど神秘的だ。


 ザバァ。


 と、魚を咥えたアササギが出てくる。

 馬車が停止してから、その間わずか30秒。


 水辺に置かれた籠に魚をしまうと、再び水中に潜る。


 ザバァ。


 今度は人数分持って上がってきた。

 ハーフウルフすげぇ。


「コハル様、すぐに食事にします。塩焼きでよろしいですか……?」


「なあ、アササギ。その……」


「はい、何でしょうか? コハル様……」


「ハーフウルフは、全裸で料理しないといけないしきたりがあるのか?」


「失礼いたしました、コハル様。半裸じゃないと興奮なされないのですね。裸エプロンでよろしいですか……?」


「ああ……いや、男物のブカブカシャツで一つ、頼む。……って、違う!」


 美しい裸体を晒ながら、アササギが魚を掴んでいた。

 尻尾の先からぽたぽたと雫がしたたり、木漏れ日を反射させる。


「コハル君。それ以上見たら、殺すわ」


 レンリに目隠しされた。


「違う! 獣人というのはどういう風に尻尾が生えてるか、その、気になって……」


「アササギはコハル様の奴隷です。気になるのなら、夜中に……たっぷりと……」


 レンリに思いっきり耳を引っ張られる。

 これ以上アササギのそばにいると、レンリから殺されそうだ。


「ああ♪ 愛の迷路を突っ走る二人、素敵です♪」


 エンリ様もちょっとキャラがおかしかった。


「食事の支度が調うまで、水浴びをなされたらどうでしょう……?」


「うん、真っ暗で見えないけど、ありがとうアササギ」


「ローブが血だらけですよ。着替えは用意しておきますので、ごゆっくり。レンリ様と……」


「……はい?」


 ぐいっと、目を塞がれたまま身体が引っ張られる。


 ざっぱーん!


 ローブを脱ぐ間もなく、泉の中にたたき落とされるコハル。

 雑な扱いだった。


 そんなにオレのこと嫌いか、レンリ。

 と、コハルは沈みながら思った。

 水深は結構深くて、見る間に水面が遠ざかっていく。


(あ……これ死ぬかも……)


 はるか頭上を、魚影が掠めた。

 口からこぼれる泡が、上昇する度に膨張していく。


 泉の底まで到達すると……。

 つんつんと、ほっぺたを叩く人影があった。


「ぷはぁ!」


「はわぁ、お兄さんが沈んでました」


 先に泳いでいたアンズに救出される。

 って、アンズまで裸じゃないか!


 目のやり場に困り、陸の方向を向く。

 背中にアンズのおっぱいが当たっている気がして、色んな意味でヤバい。


「あ、レンリちゃんが水浴びしよーとしてる」


 ――!?


 コハルは思わず、陸を凝視した。

 今まさにローブがレンリの白肌の上を滑り、普段見ることのできない肌があらわになっている。

 はだけた髪が粉雪のように周囲に光を撒いて、眩しい。

 コハルがまだ泉の底に沈んでいると思っているのか、無防備な姿だった。

 これは幸せアクシデントというものだろう。


「レンリちゃん……綺麗……」


 アンズまでもが目を奪われるほどの、レンリの裸体。

 美しいを超えて、神々しさすら感じる。

 水面の反射が差し込む銀髪に、汚れを知らない雪のような白い肌。

 愁いを帯びた可憐な面立ちとあらわになった少し小ぶりな胸。

 エルフとは、かくも美しいものなのか。


 コハルは息を呑んだ。

 タオルすらまかずに、泉に足を落とすレンリ。

 一糸まとわぬ姿。


「――って、コハル!? アンズちゃん!?」


 そこでようやく二人の視線に気づいた。


「ちょ――!? ちょちょちょダメ!? 見ないで!!」


 慌てて両手で胸を隠すレンリ。

 よほど慌てたのか、水しぶきを立てながら泉の中央に走る。

 刹那――。


 どっぱーん!


 巨大なワニの口が、レンリを丸呑みにした。


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