9 痛いの痛いのー飛んでけポーイ!
あーもー収拾つくかこんなの。
ちょっと面倒なので申し訳ないが、にぎやかな人は無視させてもらう事にした。
「...痛いの痛いのー、飛んでけポーイ...」
あっちのお山にポイポイポーイ。
小さな小さな声で呟いた。
決して頭を打っておかしくなった訳ではない。
頭は大丈夫だ。問題ない。
回復魔法である。俺式の詠唱である。
...ほ、本当はクッソ格好良い、結構な長さの詠唱定型文(勝手にそう呼んでいる)があるのだが、俺が最初に回復魔法を発動させたのは極々幼い、まだ舌がうまく回らずこの世界の大人達の言葉も理解しきっていない時期。
よくコケてはビャアビャアと泣いていた。
まだ身体の幼さに気持ちが引っ張られる頃だったので。
そんな時、母様が「痛いの痛いの飛んでけーポーイ」と、痛みを投げる動作付きであやしてくれた。
この世界でもこう言うのかと前世と通じる部分をみつけて無性に嬉しくなり、
「いたーのーぽい、ぽいぽぉー!」
と両手をぶんぶん振りながら真似した所、俺の全身が一瞬青白く光った。
後はお察しの通りである。うん、すり傷キレーに治ってた。
母様大喜びな。
「う、うちの子は天才よ~~!アナタ~~ッ!」
(砂煙あげながら父様の走る。俺のこと片手で抱えながら)
父様号泣な。
「ああ、神よ...ッ!貴方は我が家に本物の天使を授けてくださった...」
(号泣しながら抱きしめてくるもんだから、俺の顔までびしょびしょになった)
どうも回復魔法持ちは結構珍しいような話しをしていたが、我が家だとおじい様が使えた為、自然と俺の魔法の指導はおじい様がするようになった。
「レイ~、ほれ、もう一度ぽいぽい~してみような~。は~!孫は可愛いなぁ~!」
「呪文の詠唱?大丈夫じゃよ~、上手にできとる。大事なのはイメージじゃ。ポーイしてみようなぁ」
そう、本当にイメージは大事だった...。
成長し、もう流石にポイポーイは恥ずかしいんだけど...、と魔法書にあった呪文を読み上げ格好良く魔法を発動!と試みたんだが...、回復出来なかった。魔法が発動しなかったのである。
一番大事な最初の練習から、ずーっと「ポイポーイ!」と繰り返していた為か、長文を詠唱しているとその間に余計な事まで無意識に考えてしまうようで。何度も練習したのだが、上手くいったりいかなかったり。
確実に発動させるには慣れたポイポーイがいいのだと悟った。
これに関してはちょっとおじい様を恨んでいる。
まあ、詠唱定型文も地域によって違ったりするらしいから、方言みたいな括りにしとけばいいかと勝手に思っている。
最初は「飛んでけーポーイ!」の時に、痛みを投げたフリの動作もないと発動しなかったんだ!
めっちゃくちゃ練習して、両手を盛大に振る動作だったのが、人差し指をくるっと回して飛ばすイメージをすれば大丈夫になった。なるべく格好良さげに動かしている。
詠唱も口の中でモゴモゴぐらいの、極小さな声で大丈夫。だから、無詠唱で魔法を使ったようにも見えるんじゃないかと勝手に思っている。
無詠唱、格好いい...!
結果、短い呪文で素早く魔法を発動できるので、満足はしている。
しかし、痛みを投げるイメージで割と重症な骨折や火傷から、切り傷すり傷打撲なんかの一般的な怪我、熱や咳もだいたいはよくなっているんだから、もしかしたら俺の転生チートはこの回復魔法なのかも知れないな。
俺の周りにはおじい様しか回復魔法持ちいなかったし。学校にも近所にもいなかったからレアなんじゃ...?と思って聞いてみたが、珍しくはあるが、王都には割と回復魔法持ちもいると言われて、そんなもんかーと少しガッカリした。
おじい様は教会と隣接した診療所で神父を兼任しながら回復魔法を活かして医師として働いている。
父様に神父の仕事を譲っているので、診察中以外は所で病院に集まった近所の爺さん婆さん達とお茶を楽しんでいる。
病院にご老人が集まるのも、どの世界でも一緒なんだろうか。
「今の光は...回復魔法?」
おっと、思い出に浸ってしまっていたようだ。
久々更新かつ話しが進んでおりません。
ちょいちょい色々と修正が入っておりますが、内容に変化はありません。