三章 美味シグナル
二人は少女の意外な行動に驚きながらも、受け入れるしかなかった。
「は、はいっ。」
大は少し裏返った声で答えた。
「世解食というのは、この里で作られている食材に呪いをかけながら作った食事のことです。」
「ざっくりといえば、この方が幸せになりますようにといったものですね。」
「それはまたファンシーな。」
大は従順に、この小さな郷の理に飲み込まれた。
「食材にはそれぞれ意味があって、その組み合わせや呪いの仕方を変えることで色々な効果があると言われて います。」
「私はまだ半人前なので、お客さんに出すものはお母さんが作ってくれています。」
少女は慣れたように話しているが、表情には緊張も覗える。
「世解食、凄い。」
大が感心している間、拓は微動だにせず現実に引きとどまろうとしていた。
「それでは、もう少しお待ちください。」
少女は席を立ち、奥へと消えていった。
「驚いた。」
拓は、そうシンプルに表現した。
「うん。」
「あの説明するためにわざわざ座ったのか。」
「嬉しかったね俺は、隣に座ってくれて。」
「完全にペース飲み込まれてたもんな。」
「そりゃ、郷に入っては郷に従えって感じ。」
「ただの定食、民宿だろ。」
数分後、少女が料理を運んできた。
「今日の定食は、このイワナの甘酢あんかけが一押しですよ。」
「拓さん、これは。」
「思ってたより豪華。」
「ていうのは失礼だな、申し訳ない。」
珍しく口を滑らせる拓。
「いえいえ、温かいうちに召し上がりください。」
「いただきます。」
「頂きます、っと。」
二人は互いに味噌汁を一口飲んだ後、一押しだというイワナを啄む。
大は開口一番に、
「甘酢餡のニンジンうめぇ。」
「確かにおいしい、けど最初に褒めるのそこかよ。」
拓は大の言葉にあきれながらも、舌から脳へと巡る美味なる電撃で目を大きく見開いていた。
「う、ふう おいしいです本当に。」
大きな快感が通り抜けていった結果、一口二口食べただけで息切れすら起こしつつある。
もはや摂取しているエネルギーをその場で消費してるのではないかと心配になるほど。
40分ほどして、すべての料理を平らげた。
すると二人は今までの感動が嘘のようにあっさりと店を出て行く。
「またいらして下さいね。」
再度、宿を目指す二人は奇妙な心境に置かれていた。
大は息を切らしながら言った。
「なんだろう、山でも登りたくなってきた。」
「ここ山だぞ。」




