一章 二人モラトリアム
「無人販売所だって。」
「へぇ、どうです拓さん、料理人としては。」
「見ただけじゃそこまでは。」
二人の男子大学生。拓と大。
普段は共にトウキョウの大学に通う友人同士。
大学の四年、時は八月なかば、内定はない。
電車を乗り継ぎ今いるのは田舎の田舎。
「ほんと料理人にでもなればいいのに。」
「そこまでまともにやる気が起きない、何かきっかけがあれば或いは。」
大はおおきな溜息をつく。
「あぁ、なんだろうこの気持ち。」
「ただのモラトリアムだろ。」
大の方は、他の友人からも【ダメ人間】のレッテルを張られている。
拓はしっかり者と言われているが、就職活動は全く行っていない。
「このまま、ぼぅっとしていたい。」
大がそう言うと、二人そろって遠くの大山を虚ろな目で眺める。
二人はおおよそ若い男子とは思えぬほどの弱々しい足取りで、今日の宿を目指し歩き出す。
「あちぃ、拓さんどうですかこの暑さは。」
「よくわからないインタビューやめてくれよ。」
「はぁ、はぁっ、先が見えない何も見えない、まさに今の俺のようだ。」
「俺もそれは変わらねぇよ。」
トウキョウでは騒がしくキャンパスライフを送っていた。
はめを外すことは多かったが、仲間内でもこの二人は少し特殊。
授業の内容に興味がなくても、不正はせずに授業には必ず足を運んでいた。
まともに授業に出ない仲間達ほど、早く職を決めていたのだった。
「お前は何だかんだいっても どうにかできるんだよどうせ。」
「大のほうが大丈夫だと思うけどな。」
「丈夫なのは体だけだ、それもいつまでか分からない。」
「そうだな、俺たちまるでゾンビみたいだ。」
無人販売所から20分ほど歩いたところで、二人の視界に入ってきたのは二階建ての古い建物。
「看板、【日替わり世解定食】。」
「せかいていしょく?」
「どうするよ。」
「他に食べるところなさそうだし、ここで昼食とろうか。」
近づくと新たな情報。
「あ、ここ民宿もやってるんだ。」
「こっちの方がちけぇ。」
大がうなだれるのも分かる。より遠くにある予約した宿への距離を考えれば一時の不満。
それにこの民宿、なにぶん古い建物ではあるが清潔感がある。
民宿【世解】、二人は重い足を『これで最後』と言い聞かせ踏み入れた。
扉を開ければ凛とした鈴の音が響く、そして。
「いらっしゃいませ。」
二人は固まった。
「お二人様、お食事ですか?」
迎えた少女、歳は十四、十五といったところか。
まだ止まぬ鈴の音より凛として涼やかな少女に目を奪われていた。
「あっ、はい二人・・・食事です。」
拓がそう言うと、なだめる様な目をして微笑む少女。
「この里で採れる食材ばかりを作った定食、是非食べていってください。」
「とても、楽しくて不思議な気持ちになれると思いますよ。」




