03.ひなまつりのあとで
「あーあ。今年も出されなかったわねぇ」
豪奢な十二単を纏う女雛が、ため息じりにこぼした。
「そう言うわりに、嫌そうに聞こえないのは、気のせいかな?」
うすい保護紙ごしに、男雛が面白そうに声を返した。
「あら。だって、ここであなたと二人きりなのも悪くないじゃない?」
「そうだね。あの子たちが幼すぎるときは、いつ壊されちゃうかとヒヤヒヤしたものだ」
「だんだん丁寧に扱ってくれるようになったわよね」
「そのうち見てもくれなくなったけど、飾ってはくれてたな」
「季節物ですもの」
「きっと外は春なんだろうね。ふふ。外に連れ出されたときは驚いたなぁ」
「ほんとによ。叱られてからは、本物の桃の花を挿してくれたこともあったわね」
「かわいい声でなんども歌ってくれたよね」
「やぁね。思い出したら、泣けてきちゃったじゃない」
「楽しかった」
「……そうね。楽しかったわ」
男雛と女雛は、この家の子たちをずっと見守ってきたけれど、そろそろ自分たちはお役御免なのだろうとわかっていた。
十分に役目は果たしたので、男雛と女雛に悔いはない。たまに目覚めて、こんな風にぽつりぽつりと二人で話す日々もいいもので、二人は余生を穏やかに過ごしていた。
「ばぁちゃんの遺言にあったのって、コレ?」
「うっわ、骨董品じゃん! コレ、動かして大丈夫なの?」
賑やかな声に、静かな日は突然やぶられた。ぐんっと二人の入った箱が持ち上げられる。
ついに捨てられる日が来た、と男雛と女雛は覚悟したのだが。
「ミーシャ、あなたの曽祖母様から贈り物よ」
「うわぁ! かわいいおにんぎょう!」
「すごいな。ウィッグにキモノ。替えの服もこんなにある」
朽ち欠けていた二人は、今はすっかり塗り直され補強され、おすわりできる着せ替え人形に生まれ変わっていた。
顔もすっかり変わり、二人が再会したとき、お互い誰だかわからなかったくらいだ。
ミーシャの母が二人を入れて持ち運べるクーハンを用意してくれたので、ひなまつり関係なく二人はミーシャと一緒にあちこちに連れ出された。
「私たちが海を渡るなんて思わなかったわねぇ」
「また、こんな風にピクニックができるともね」
「ヒメはここ。トノはここ。はい、お花のケーキですよ」
野原に広げられた敷物の上に座るカントリー風の衣装の2人の視界には、野の花が咲き乱れていた。




