18.理想の人型ロボット
キサラ博士の研究室に入ると、いつも笑顔で出迎えていた姿がなくなっていた。
「博士、あの子はもう売りに出したの?」
「おかしな言い方をするのね。特性付与に問題なければ依頼主に返すでしょう?」
「そうだけど。今回も博士のお眼鏡にはかなわなかったんだなぁって思ったのよ」
人間種が減った今、結婚して、子供を二人以上産めば、かなり自由にできる時代になった。
子供を作れなければ差別されるということもない。なにしろ人間種は少ないので、生きてるだけでいいのだ。
希少な人間種の子供は、生まれればすぐに親元から離され、適切な環境、選び抜かれた里親のもとで、怪我や病気をしないよう大切に育てられる。
申請すれば自分の子を育てることも出来るけれど、子育て希望者は多いので、必ずしも実の子を育てられるわけではない。
子育てを希望していたのに子を取り上げられた親は病んでしまうが、そんな不安定な親に子を預けることはできない。病ませたいわけでもないので、代用品として、人型ロボットが売り出された。
当然ロボットは成長しないが、こまめに交換して、擬似子育て気分を味わうのだ。
物理的に子供を作れない親や、二人以上産んだ後なら、人型ロボットと結婚して一緒に生活することもできる。
人間種が健康に暮らせるよう、最大限の配慮がなされていた。
子を作るのも、同じ夫婦の組み合わせでなくてもいい。子を産めば夫婦関係を解消して、人型ロボットと再婚してもいいのだ。
労働力としてではない人型ロボットは、さまざまなタイプが必要とされ、生産が追いつかなかった。ボディは量産できるが、中身に時間がかかってしまう。
平均的な中身だと、別の人型ロボットに乗り換えたときに違和感を覚えると、不満が出たからだ。
そこでわざと性格をつける『特性付与士』なる職業ができた。世間では『調教師』と呼ばれている。
キサラ博士は名人と呼ばれるほどの売れっ子調教師だったが、博士自身が人型ロボットを愛用することはなかった。
「博士の理想は高いのね」
「そんなことないわ。私は機械のままでいてほしいのに、みんな人間みたいになっちゃうだけよ」




