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今日のショートショート〜掌短編集〜  作者: 高山小石


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16.アーカイブス

「あれ?」


 気がつくと私は本屋さんの中にいた。


 近所にある行きつけの本屋じゃないのに、なんどか来たことがある気もする。なのに、どこの本屋だったかが思い出せない。


 奇妙に感じながらも、ここが大きな本屋だというのは知っていて、せっかく来たのだからと、面白い本はないかと書棚を見て歩くことにした。


 丁寧にならべられた表紙や背表紙を見てまわるだけでも楽しい。

 客の入りはまばらで、さわさわとした気配だけがある静かな空間だ。


 絵本コーナーで、開かれてオススメされていた一冊の絵本に足が止まった。


「あ、この絵……」


 ずっと昔、私が幼稚園に通っていた頃に読んだことのある絵本だった。


 おさげの元気な女の子が、オオカミに食べられないように、逃げたり隠れたり攻撃したりするんだけど、あるときからハンバーグを作る話だった。


 大好きで何度も読んでもらったのに、タイトルもオチも覚えていない。描かれていた『フライパンにのったハンバーグ』がとても美味しそうで、ハンバーグの記憶しか残っていない。


 どうしてかというと、絵本を読んでもらううちにハンバーグが食べたくなって、ねだって作ってもらったのだけど、それが想像していた味じゃなかったのが衝撃的だったからだ。


 おそらく、絵本を読んでもらっている時に私の口に広がっていたのが、実際のハンバーグの味じゃなかっただけなのだろう。


 口がよだれでいっぱいになるくらい想像していたのが、当時の自分が想像できうる最高の美味しい味だったようで、「あの味が食べたい」と何度もハンバーグを作ってもらったものの、実食するたびにショックを受けていた。


 結局、その味は、話を読んでもらうとき限定でしか味わうことができなかった。


 懐かしい絵本に手を伸ばしたところで、私は布団の中で目覚めていた。


「いま、なにか夢を見ていたような?」


 口の中にいつか食べたことのある美味しい味だけが残っていた。

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