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第8話 女神はトラクターの上で本気だす!

 力を取り戻した千代里と耕司は、敗者復活戦に挑もうとしていた。


 対戦相手は、黒髪を三つ編みにした女神。大黒天部門の勝者だ。

 顔の8割以上が隠れてしまうほどの巨大なメガネをかけている。

 メガネのフレームにはワイパーがついていた。


 こちらに気づいた様子のメガネ女神が、歩幅6センチで耕司らに向かってくる。


「クジでハズレを引いた私『アリシャ』がお相手します! はるばるインドから参戦しましたし、手加減はしませんよ~。重さ5キロのまるいメガネを掛けているせいで、まるメガミと揶揄されていますけど、こうみえて強いんですよ~」


 と、まったく知らないオジサンに話かけるアリシャ。

 5キロあるというメガネをクイっとあげる。


 ド天然なのか、目が悪いだけか。千代里に引けを取らないほど童顔の女神だが、無害そうにみえて何をしでかすか予想がつかない。

 アリシャの歩幅は6センチ。千代里の歩幅を大きく上回る。

 しかもメガネにはワイパーが付いている。


 あのワイパー、侮れない……。

 なんの根拠もない不安が耕司の中に湧き上がる。


「わたくしもハシビロコウのマネで本気を出します……」


 千代里も負けまいと虚勢をはる。

 瞬きと呼吸を止め、口角を5ミリほど上げてみせる。


 戦闘モードに入った2柱の女神の身長は1メートル。

 耕司には小学生同士の挨拶にしか見えていなかった。


 そんなことよりトラクターだ。

 敗者復活戦があるとは予想していなかった。

 耕司は祖父から借り受けた古いトラクターの点検をする。

 元は真紅だったボディーの色。

 いまではすっかり色褪せ、ニンジンのような色になっている。

 年季は入っているが日本製。持ちこたえてくれるだろう。


 信者が多く、資金も潤沢なアリシャの白いトラクターは外国製。

 スーパーカーを作っているイタリアのメーカーが製造したものだ。

 性能差は歴然だが、女ストはトラクターの良し悪しで決まるわけでもない。

 屋根で戦う女神の力量がものをいうのだ。


 いまの千代里ならきっと大丈夫だ。

 トラクターのハンドルを握る耕司の顔は、自信に満ちている。


 千代里の表情も同様だった。



 __試合開始の合図と共に、両者のトラクターが同時に走り出す。

 アリシャは、千代里を射程圏内に捉えると槍を突き出し、すぐに引っ込めた。

 短時間の間に数回繰り返す。

 一人時間差攻撃だ。


 千代里は避けることなく、冷静に槍の先端を目で追った。

 アリシャは、千代里の出方をうかがっていたようだ。

 1度目の走行では決着がつかず、双方のトラクターは反対側のスタート位置へと向かう。


 2走目もやるべきことは同じ。

 耕司はトラクターを安定して走らせることだ。


 __両者のトラクターが時速30キロに達する。

 すれ違いざま、千代里が先手を取る。

 アリシャ目掛けて高速で突き出された槍は、少し左に逸れる。


 つづけてアリシャが動く。

 アリシャの放った槍が、耕司の操るトラクターの側部を捉えた。

 槍の先端が吹き飛び、破片が耕司の顔面に降りかかる。


 __両者一歩も引かず、アリシャとの対決は100回目を迎えようとしていた。


 千代里が肩で息をし始める。

 ここまで長引くとトラクターが危ういし、次で勝負を決めたい……。


 会場内から千代里を応援する声が、ちらほらと耕司の耳に届いていた。

 多くはないけど、千代里の信者が増えたみたいだ。

 だけど、敵との力の差って何だろう?

 額から流れ出る血をぬぐいながら、耕司がボン槍と思っていたときだ。


「コースの整備をするから試合は中断だってさ!」


 短い足を懸命に動かす3頭神モードの毘沙門天が、耕司らに走り寄ってくる。


「おい少年、ケガしてるじゃないか!」


 毘沙門天がトラクターの左側から操縦席を覗き込む。

 負傷した左目をつむり、右手だけでハンドルを握る耕司の姿を検める。


 千代里は、いまにも泣き出しそうな面持ちだ。

 だが、何かを決意した様子で、左手をだらりとたらす耕司に言葉をかける。


「耕司さん。棄権しましょう……」

「次で決める。正攻法では勝てないと思う。ちょっとずるい手を使おうとおもうんだけど」

「はい……。でも、次でダメでしたら棄権します……」


 千代里は、仕方なく承諾した様子だ。


「応急処置は終わったよ。少年、次で決めて来い! 勝ったらお好み焼きをごちそうするよ!」

「いらないです!」


 耕司と千代里は、大きく首を横に振り、口をそろえて全否定。

 毘沙門天は「だっふぁ!」と漏らし、肩を落とした。

 捨て犬のような姿の女神を、どうやってフォローしようかと、千代里があたふたしている。


「疲れてるんで、甘いものがいいです……」


 ボソッと呟いた耕司の一言に、毘沙門天が息を吹き返した。

 張り詰めた空気を毘沙門天が和らげた矢先だ。


『各選手はスタート位置についてください』


 情け容赦ないアナウンスが耕司の耳を襲撃する。

 耕司は両頬を叩き、気合いを入れなおす。


 銀色のオーラを纏う千代里を乗せた古びたトラクターは、スタート位置へと向かう__。



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