第3話 こってり500種の野菜ジュース
世間は休日とあって、公園には多くの人が訪れている。
ジョギングをする人。
犬に引きずられ、どちらの散歩か分からない感じの小学生。
鉄球をぶつけて股間の鍛錬をしている禿頭の老人。
鍛える箇所は頭皮だろ! と、中学生がツッコむ、そんな面白い光景に目もくれない千代里は、ひとりの少年に照準をあわせた。
千代里は歩幅3センチで歩いてくると、ぼん槍と蒼穹を眺める16歳くらいの少年の前に立つ。
凝り固まった表情筋を両手でほぐす。
千代里は、無理槍に笑顔を作った。
先ほど購入した缶飲料『こってり500種の野菜ジュース』をあおると、話しかけてほしそうに、千代里は少年の前を行ったり来たり。
ちょこまかと動く千代里の姿は愛らしい。
ジャンル的にはロリッ子美少女部門に入るだろうか。
立ち止まっては、少年をじっと見つめる。
アホ毛を出したり戻したり。
そんな千代里に気付いた少年の警戒心は、すぐに吹き飛んだ。
「どうしたの?」
この子とは、どこかで会ったっけな?
いや、気のせいか……。
変態と勘違いされないよう、少年は極上の笑顔を作った。
「これに出たい。おカネない。神技みせる。おカネかせぐ」
ぎこちない口調で千代里が返す。
この間、千代里はアホ毛を伸縮させている。
そそくさと、七福神決定戦の開催告知を少年に手渡した。
「そっか。なにか芸をして稼いでるんだね」
「ハシビロコウのマネ。さっき300円もらった」
少年に会う前に千代里が神技というモノマネを披露して得たお金だ。
実際は30円である。
握った手を開き、3枚の10円玉を見せつけた。
「他に何か芸はできるの?」
「見る。私のあたま……」
千代里は己の頭頂部を指さし、得意のアホ芸(アホ毛の出し入れ)を披露する。
1メートルほどのアホ毛が、「ズルズル」という効果音つきで千代里の頭頂部に勢いよく格納された。
「わかった! 筆記用具のマネでしょ!」
少年が自信に満ちた表情で叫ぶ。
ノック式ボールペンを思い浮かべたのだろう。
「掃除機のコード。ざんねん」
千代里は、コードが掃除機本体に吸い込まれる様を再現したのだ。
眦に涙をためた千代里は、顔面をシワくちゃにしてみせる。
別の神技に切り替えたようだ。
「それはなんのマネ? いや、僕は怒ってるワケじゃないよ……」
千代里は無言で、さらに顔面に力を集中させる。
「わかった! おじいさんのマネ?」
「タマ袋……おじいさんの……」
「そっちかいっ!」
大人しそうな少年と少女の槍取りを見て、近くを通りかかった人がクスクスと笑う。
ロリ美少女が下ネタを繰り出すこの状況は、マニア垂涎のプレイかもしれない。
だが、少年は恥ずかしさのあまり、顔から火を噴き、頭頂部がバクハツしそうだった。
「いますぐやめなさい! 女の子がそんなこと言っちゃいけません!」
「ダメ? おじいさん。タマちゃんの袋。シワない」
「猫っぽく言ってもダメだから……」
千代里は、タマからシワシワを取ったらしい。
千代里の顔からも数本シワが取れている。
「シワを伸ばしてもダメだから! お願いだから瞬きして! というか、そのアホ毛を引っ込めて!」
相も変わらず、千代里は瞬きをしていないし、息もしていない。
出入りするのは頭頂部のアホ毛だけ。
千代里のアホ毛は、すでに2メートルを超えている。
千代里の顔に寄ったシワが一層強化され、ウメボシ顔へと変貌した。
「ウメボシを食べたパグみたいな顔はヤメなさい。マユゲが繋がってるじゃん!」
小学生くらいにしか見えないウメボシ顔の少女を、このまま放っておく訳にはいかない。
本当の変態に誘拐されでもしたら一大事だ。
少年はチラシに一瞥くれると、中高校生御用達『ナイロン製のサイフ』をズボンのポケットから取り出した。
マジックテープをビリっと剥がし、サイフの中身を検《あらた》める。
ゲームソフトを買おうと思ったけど……。
少年は一瞬思いとどまり、目の前に佇む少女の顔へと視線を移す。
千代里は眦に涙を溜めて、少年をジっと見つめている。
「ごめんね。わるいけど、お金は貸せないや」
悪い大人にオカネを集めてこいとか命令されてるのかな?
いやいや、いまどきそんなマッチ売りの少女的な話しなんてないよね。
でも、さすがに放っておけないよな……。
「5千円は僕が貸してあげるから……」
「のろしを付ける。たたき返す!」
「ケムリはいらないって。できれば熨斗をつけて。あと、叩き返さないで普通に返して……」
少年の言葉が耳に届いていない千代里は、興奮気味で「ふんす!」と鼻から息を吐く。
恩人ともいうべき少年の手を引っ張り、千代里は嬉々とした面相で受付会場である町内会館へと向かうのだった。




