この星の歴史
「それでは此方へどうぞ」
案内していた職員が黒い扉の前に立ち、ドアの横についていた金属板に付いている数字が10個並んだ丸い金属のボタンを色々押して居た。
ドアからカチャッと音がしてドアノブを回してドアを開けた。
「ワタシはここまでですので、そのまま中にお進み下さい」
そう促されて中に入ると後ろのドアが閉まり、またカチャッと音がした。
家具や柱もない、何も無い空間だった。
ただ中は施設と違ってとても明るかった。
とりあえず中に進んだ。
何処からともなく、さっきの職員と同じような服の上に白いコートの様な服を重ねて着ているオスが居た。
胸のポケットに直径2センチ位、長さ15センチ位の筒状の金属の細長い棒の様な物を入れている。
メガネをかけていて、歳は多分俺と近いか少し上かもしれない。
「本日はようこそお越しくださいました。ワタシはドコタと申します。」
「ハイ、よろしくお願い致します。」
「先ずは塔の内部に案内する前に、塔についての説明と、この星について説明させて頂きます」
やった!最初に知りたかった事を教えてもらえる!
落ち着いてきていたが、また高揚してきた。
「その後、塔の内部にご案内して、『完全な人間』になっていただく為、あなたにあなたの真実を見つめ直して頂きます。」
「は…い…」
真実の俺?完全な人間の為?
真実って何だろう…
特に思い当たる所が無くてよく分からなかった。
そう職員が説明すると、床から黒い板が伸びてきた。
高さは俺位有って、幅は俺が両手を広げた位…
結構薄い板だった。
柄や模様など何もなく、ただツルッと黒く艶々していて、まるであの塔みたいだった。
少し驚いていると、頭の中に直接声が響いてきた。
「それでは、先ずこの星の現在の姿になる迄をご説明致します」
人間の声に似せているが、抑揚がなく機械的だった。
そして目の前に無い筈の映像が頭の中に入ってきて、見えてきた。
「此方は現在の姿になる前のこの星の姿です」
説明と共に流れてきた映像は今のこの星の姿からは想像が付かない、緑も何も無い、岩や土が剥き出しで、嵐が吹き荒れていた。
「以前は今の様に緑豊かで水も豊富で人々が沢山住んでいました。しかし、外宇宙から大きな隕石が落下して、この様な姿となりました。」
説明と映像を見せられてもなんだか昔子供向けの物語で読んだ架空のお話みたいで、正直現実味が無かった。
「その頃の人間はある程度高度な文明も有りましたが、隕石の衝突までは避けられませんでした。」
「隕石がいつ到達するかは早くに予想出来ていたので、ある程度の犠牲は仕方ないとしても何とか人類が生き延びる方法を各国で模索しました。」
「ある国は最後まで最大の武器を用意して隕石のルートを反らせる努力をしました。」
映像で、軍人が行進しながらミサイルなどと飛行機を沢山映し出した。
「ある国は諦めて最後まで人間らしく何も変えずに、国民に何も伝えずに普通に生活する事にしました。」
暖かそうな地域の海岸で楽しそうに酒を飲みながら踊っている人々の映像が流れた。
「ある国は宇宙に脱出する計画をしました。」
ロケットの準備をしている人々と宇宙服で宇宙で作業している映像が流れた。
「その国はこの星では世界の警察と呼ばれて権威と秩序を率先していたリーダーの様な国でした」
「その国はこの星に近い月に人類を住まわせるステーションを早急に建設しました。」
月の表面に沢山の無機質な建物が建つ映像が流れた。
「この星と重量は少し違いますが、環境を整えると近い状態で生活出来る形になりました。」
空は真っ暗だが、ガラス状のドームの中に緑が植えられ小川が流れていた。
「そこに選ばれた人類を住まわせ、再びこの星に帰る事が出来る準備をしました。」