連鎖
小僧を捕まえるのを諦めたケンはとぼとぼと屋台に戻る。
「せっかく稼いだ金貨が。なんで……やはり、日本とは治安が違いすぎる。ここは異世界だった。気軽に金貨を見せた俺が悪かったかもな。もっと注意をしないと……」
屋台の店主がケンに声をかける。
「兄ちゃん、大丈夫か。災難だったな。あいつらはここら辺りで『いたずら』ばかりする小僧達だ。逃げ足だけは速くてな。俺の店の商品も何回か盗まれてるんだよ」
「今のが『いたずら』で済む話なのですか?子供だといっても窃盗は犯罪ですよね?金貨1枚もですよ!!必ず捕まえて、騎士の方に突き出してやる」
ケンの怒りは収まらない。一日一回しか使えないという制約の【治癒魔法】で、2日連続でただ働きは御免こうむりたい。だって、金貨1枚だぞ?(10万円くらいの価値)3年間で金貨100万枚稼がなくてはいけない中、このような不運が、連鎖のようにたて続けに起これば、イラつくのは当然。少しでもお金を稼がなければいけないのに。昨日、【猿風】に殴られた顔の痛みを我慢して他人に【治癒魔法】を使った。このようなことになるなら、自分に魔法を使ったほうが良かったのではと心の中で思った。
「兄ちゃん……悪いが騎士に通報はおすすめしない」
「何でですか?」
「この辺りに詳しくないんだろ?」
「はい、俺は最近この交易都市に流れ着いたばかりです。それが何か問題なのですか?」
「う~む。そうか。よほど情報が来ない田舎にいたのか。『ラバック王国』は戦争や魔物や災害の被害が比較的少なかったが、他の国は違う。特に南の大陸は魔物の大量発生でもう駄目だな。人間がまともに住める地ではなくなった。日に日に北のこの大陸に脱出する人間が多くなっている。……それでも踏みとどまって、魔物を退治してる強者もいるがな。あの有名なSランクパーティー、【木炭】の魔法使いのジグルウスの目が――」
客がケン以外いなくなったため、屋台の親父は気前よく、外の『情報』をケンにペラペラと話してくれる。
「そうですか。つまり、ここ『ラレッド交易都市』に移民・難民が押し寄せてきて、餓鬼の窃盗くらいじゃ騎士の連中は動かないということですか」
「おい、あまり大きな声で言うなよ。騎士も仕事はしてるが、いろいろ人手不足で対応ができない現状なんだ」
南の大陸で魔物が大量発生したことがすべての問題である。南大陸の北部分は辛うじて人間が住める場所らしい。大物の魔物や金貨を求めて、強者の冒険者たちは命がけで戦っているとも聞いた。負傷して戦えなくなった冒険者を俺が治せば……と思ったが、面倒だ。わざわざ海を隔てて稼ぎに行くのも馬鹿らしい。『今』は……。
「いい情報を聞けました。ラドッドを一つください」
「肉を大盛にしてやるわ」
「ありがとうございます」
残りの銀貨で支払い小銭をお釣りとして受け取る。
パンに挟んだ肉の料理『ラドッド』を食べる。
「美味しい」
今日はもう魔法を使えない。仕方なく、ラレッド交易都市を適当にぶらぶらと散策してみることにした。お腹に違和感がある。結果は下痢だった。恐らく屋台の料理でお腹を壊したと思う。ついてないな。
次の日起きたら体のだるさ、発熱を感じた。ケンは異世界に来て初めての病気にかかった。苦しかったので自分自身に【治癒魔法】を使ってしまう。自分に魔法を使ってみて、改めて神様から貰った【治癒魔法】の便利さ、すごさを思い知る。一瞬で体調が良くなった。
「体調が元に戻ってよかった……しかし……」
貴重な魔法を自分に使ってしまった。これでは今日はお金を稼げない。
冒険者ギルドに行き、割のいい仕事の依頼がないか調べに行こう。
ケンは一月たっても、【治癒魔法】を使った仕事はうまくいかず、思うように金貨を稼げない日が続いた。




