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仕事

 痛む体を引きずり『止まり木』の宿に入る。個室の小さな部屋で横になる。数日分の滞在費を先払いしていてよかった。無一文で野宿はしたくはない。今日お金を稼ぐことはできない。雑用の仕事なら幾らでもあるが、一発で、でかい収入が入る仕事しかする気が起きない。【治癒魔法】を使えば最低金貨1枚以上は稼げる。金貨100万枚を稼ぐ目的がある以上、少しでも稼ぐべきだと思うが、この世界では【治癒魔法】を利用した仕事しか受けたくない。くだらぬプライドかもしれないが、下手に体を痛めて、自分に魔法を使うのは避けたい。1日1回しか使えぬ貴重な俺の【治癒魔法】おいそれとは使わない。

 認識を改めなければ。ここは日本とは違う。常識も違う。強い者が偉い世界だ。『権力』『富』『武力』。弱ければ食い物にされる。もうそんなごみ溜めの生活は御免だ。

  

 神様に聞いた内容を今一度思い出す。こちらには『貴族』という特権階級がいる。『権力』『富』『武力』全てを兼ねそろえた存在。あまり関わりたくない。しかし、お金は持っているので、いずれ接触することになる。

 

 今回の事は自分の情報不足だった。これからは依頼は冒険者ギルドを通してやろう。仲介手数料が発生するのは痛いが仕方あるまい。いずれ自分の『力』をつけるまでだ。当面の目標は金貨を稼いで俺に忠実な下部を手に入れる。南に位置する『海辺の町ラーロック』では『奴隷』が手に入る。金貨次第で手に入ると聞いている。


 翌朝冒険者ギルドに行く。いつもお世話になっている女性職員(名前不明)に昨日の事を報告する。

 

 「ギルドを仲介していない仕事は当人の問題です。私たちギルドは関与しません。次からはギルドの依頼として仕事をすることをおすすめします。とだけ言っておきます」

 「はい、次からはギルドを通し仕事をします。【猿風】のメンバーは何も問題ないのですか?力があれば何をしても許されるのですか?」

 「ケンさんの顔は腫れていますが、それが証拠にはなりません。ただ、警戒だけはしておくつもりです。以前にも【猿風】のメンバーの男たちが酔っ払い、乱闘騒ぎを起こしたことがあります。ご報告ありがとうございました」


 報告だけはした。

 今回の件の教訓を活かすため、ギルドの依頼書で仕事を探す。


 『ペットの治療 場所:レッド東通り2-42 期限:6/22 成功報酬:銀貨5枚小銀貨7枚』

 『ランジの治療(風邪・高熱) 場所:レッド東通り2-10 期限:6/20 成功報酬:銀貨3枚小銀貨4枚』


 【治癒魔法】を使えば金貨1枚以上稼げると思った。どうやら認識は甘かったようだ。この世界には『薬草』で熱を下げたり、傷が治ったりする効能がある。【治癒魔法】の使い手は少ないため、『薬学』の知識が発展してるのかもしれない。魔法がある世界だから何でもありなのか。

  

 気になる依頼書を見つけた。

 

 『バゾゾンの二日酔いの治療 場所:レッド東通り2-19  期限:6/19午前8時まで 成功報酬:金貨1枚銀貨3枚』


 二日酔いの治療に金貨1枚以上もか……。何か裏があるのか、考えても分からない。ギルドの依頼だ。怪しい依頼はないと思いたい。

 袋に触り現在の時間を調べる。

 【AM:6:42】 


 「時間がない……」


 依頼書をはがして手続きを済ます。何とか時間以内に目的の場所についた。走ったので疲れた。

 

 「ここか」


 依頼者がいる場所は表通りに位置する洋服店だった。

 ケンが店の中に入ると若い娘が「何か用か」と話しかたので、二日酔いの依頼を受けてきたと説明する。


 しばらくたつと、一人の初老に差し掛かった紳士が出てきた。


 「君がわしの依頼を受けてきてくれたのかね?」

 「はい」


 皮用紙を見せて証明する。


 「今日わししか務まらない重要な仕事があったのを忘れてて、飲みすぎて……うっ……」


 内容なんてどうでもいい。俺は金貨を稼げればそれだけで十分だ。


 「治しますね?」


 青白い神秘の輝きとともに初老の紳士は体調を回復させた。


 「……!苦しくない。治ったらしい。大した腕だ。もう仕事が間に合わないと思っていたよ。ありがとう」

 「また御用があれば直接依頼を出してください。俺に治せないものはありません」


 名前を伝えて仕事を終わらせた。

 金貨を手にいれた。

 朝食がまだだったので、人混みの中に入り、屋台で簡単な朝食をとろうとする。列に並び金貨を袋から取り出す。


 「お、すまん」

 

 子供とぶつかった。

 

 「あ……」


 手に持っていた金貨が無くなった。と思ったら子供の手にケンの金貨があり、そのまま逃亡する。


 「待て!」

 

 走って追いかけても人混みの中。小さい体を探すのは困難だった。土地勘があるようで完全に見失った。


 「何てことだ……」

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