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洗礼

 「【治癒魔法】が使えるのですか?お願いします。ミファを治療してください」

 「いいですよ。その前に金額の話をしたいのですが」

 「ミファは重症だ。すぐにでも魔法を」

 「俺たちはBランクの【猿風】だ。幾らでも金は払ってやる。はやく……治して」


 二人の男たちは早く俺に治療せよと懇願する。

 ミファという女性。生きているのが奇跡と思う瀕死の様子。顔色は土色に変色し、片腕が無くなっている。止血しているようだが。息も絶え絶え。一刻も早く【治癒魔法】を使わなければ。

 早起きは三分の徳は本当かもしれない。ここで一気に名声を手に入れてやろう。

  

 ケンはミファの左手の破損した付け根に手をあてる。

 前回骨折した男の治癒ではほぼ一瞬で治癒してしまった。だが、それでは駄目だと思う。ありがたみも感じにくいだろう。そこで今回は『光』を使った『演出』をしたい。


 ケンの手が青く鈍い輝きを放つ。神秘の輝き。

 直視できぬほど輝き、群衆が目を開けると欠損した左腕が再生していた。


 「奇跡だ」

 「おお。本当に治しやがった」

 「欠損を再生させる【治癒魔法】って存在したのか?」

 

 ミファの目が開く。

 ケンが容体を確認する。


 「体に異変は感じるか?」

 「どこも痛くない。あれ?私の腕がある……!?みんなは。【猿風】のみんなは無事なの?」

 「俺達は全員無事だ」

 「良かったよ……本当に……良かったよ。私どうしたらいいか分からなくて。こちらの人が【治癒魔法】でミファを治してもらったの」


 【猿風】のメンバーは互いを抱き合い喜び合う。周りを囲んだ群衆も拍手をしていた。

 ケンは神様に与えられた【治癒魔法】の力を再確認した。

 魔法はすごいな。欠損部分を復活できるか半信半疑だったが成功した。【死者蘇生】以外何でもありというのは本当のようだ。それと、今回使った『光』。神様に体の一部を光るようにしてもらった。初めて使った。成功してよかった。今日の出来事は人々の記憶により強く残るだろう。『光』と『欠損』を再生させた【治癒魔法】の使い手のことを。おっと、まだ名前を言ってなかった。


 「俺は旅の治癒士のケンだ。金さえ払えば何でも治癒してあげよう。依頼は冒険者ギルドに」


 周りの反応に満足した。


 「【猿風】の方。そろそろ金額の話をしたいです」

 「ああ、少し待ってな」

 

 ミファが立ち上がるもふらつく。欠損を再生させることには成功したが失った血は戻ってこない。


 「ミファさん、しばらく安静にしてください。最低1週間は激しい運動は控えてください」

 「はい。治療してくれてありがとう。どうやら私は相当危険な状態だったようです」

 「いえ、これが俺の仕事ですから」

 「私が支えて宿に連れて帰るわ」

 「任せた」

 「ねえ、二ネ。私の杖とあなたたちの装備品は?足りないと思うのだけど」

 「廃原人戦で大部分の装備とアイテムは失ったの」

 「そんな。みんなでお金を出し合って買った物なのに」

 「ミファが無事なら問題ないわ」

 

 ミファを支えながら去っていく姿を眺める。

 

 「ケン。お金の話をと思ったがここは人が多い。落ち着いて話せる場所に移動したい」

 「分かった」


 男二人についていく。欠損を再生した治療費がは幾らが妥当か。Bランクパーティーの彼らは幾らでも払うといった。

 やがて人気のない場所で彼らの歩みは止まる。男は振り返り、ケンに問う。


 「ここでいいか?」

 「はい」

 「ケンは幾らを希望する」

 「金貨……100万枚」

 「100万枚だと!?ふざけてるのか」

 「いいえ、先ほどあなたたちは確か金は幾らでも払ってくれると言ってましたよね」 

 「……」

 「あれは言葉の綾だ。100万枚なんて普通の人間には無理だ」

 「そうですね」

 

 その反応で十分だった。金貨100万枚を集めるのは至難の業。本当にどうしようか。


 「金貨100枚で手を打ちます」

 「100枚だと?おい、幾らBランクでも無理なものはむりだ。金貨10枚なら払う」

 「10枚?死んでもおかしくなかったミファの傷を治癒したのは俺ですよ。それがたったの10枚とは冗談はやめてください。最低100枚は必要です。俺は片腕を再生させたんですよ?またお金を稼げばいいじゃないですか」

 「簡単に言うがな。遠征には金も時間もかかる。今回ダンジョンで多くの装備品を失った。再びそろえるだけで、どれくらい時間と金がかかるのか想像もできない。だから金貨10枚」

 「それはあなたたちの都合ですよね?もう一度いいます。金貨100枚以外は受け取りません」

 

 ケンは強気で行く。


 「ムカついてきたな」

 「だな」

 「契約は文章でかわしてないよな?それならこのまま払わなくていいんじゃね」

 「お、頭っいいー」


 まずい展開だ。彼らとは口約束しかしてない。しかもここには人が誰も見てない。後で、金を払って俺がまだごねていると言われても証明できない。

 

 「懇意にしてもらっている冒険者ギルドの職員に相談してきます。【猿風】の名前は覚えたので」

 「させねえ」

 

 いきなりケンに殴りかかる【猿風】の二人。

 ケンは10年以上肉体労働をしていて、体力に自信があるといっても素人。プロの戦闘屋に敵うはずもなくボコボコに殴られた。腫れあがる顔。口から血が滲み出る。鉄の味が口の中に広がり気持ちわるくなる。


 「お前の話なんて誰が信じるか。俺たちはBランクの【猿風】だ。『名声』も『富』もある」

 「じゃあな。余計な事を言わなければ殴られず済んだものを」


 富があるなら払えよと言い返せなかった。体の痛みで気力を失う。

 路地裏に座り込む。自身の怪我を【治癒魔法】で治そうにも、1日1回しか使えない制限のため何もできない。

 悔しいが今は耐える。『名声』と『富』を手に入れるまでは。

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