護衛
ケンに絶対忠誠を誓う奴隷を買うために『海辺の町ラーロック』へ遥々やって来た。理想の奴隷は筋肉ムキムキのおっさんが良かった。強そうな護衛を連れていれば、周りも積極的にはケンに危害を加えようとはしないだろうと思ったからだ。だが、結果は……。
「俺は治癒士のケンだ。旅をするのに護衛がいないと不安でな……。ここには腕っぷしが強い奴隷がいると聞いてね……。ところで、名前を教えてもらってもいいかなお嬢さん?」
「……」
「……あれ?俺の言葉が通じないのかな?店主どういうことだ?」
「へい、南大陸で怪物級の魔物と戦闘中になって恋人とはぐれ、……て?詳しい話は分かりませんが、いろいろあって心に傷を負って声が出なくなってしまったようなんです。でも腕は確かです。なんせA級の冒険者【炎剣のヘルガ】ですから」
(この奴隷は声がでない?
奴隷の店。
これだ。ここなら体や心に傷がある奴隷がいるだろう。俺の【治癒魔法】なら何でも治せる。ここいらで一儲けさせてもらいますか。
A級冒険者か。相当な腕前だろう。俺の治癒魔法で声も治してやり恩も売れる。そうすれば護衛の仕事も真面目にこなしてくれるだろう。・・・・・・?俺の冒険者ランクはどうなってるんだ?何度も依頼を受けてきたはず。流石に一番下の階級(F)ではないと思うが。)
ケンがずっと黙っていたからだろうか。奴隷商人の店主がこちらを伺うような顔で猫なで声で聞いてくる。
「お客様……。どうなさいましたか?やはり、声がでない奴隷はまずかったですか?」
「あ、あぁあ。声の方は特に問題はない。(俺の魔法で治せるからな)【炎剣のヘルガ】といったな。ヘルガは剣士なのか?」
「へい、そうでやす。【炎剣のヘルガ】と【氷剣のニコロ】は恋人同士2人で組んでおりまして。剣の腕前はかなりのものかと」
ケンはヘルガを観察した。
赤い髪だから【炎剣】という二つ名がついてるのか?違うだろうな。体は細いが、背は俺と同じくらいある。それと、かなり若いな。年下と会話は苦手だとケンは思った。だがこの若さでA級は……買いだな。目が死んでるが、まあそれは今はいいか。
「彼女を買おう。契約内容を確認したい」
「ありがとうございます……」
ヘルガが奴隷に落とされた理由は、行方不明になった恋人ニコロの捜索に、大金をつぎ込んだかららしい。
金は多少かかったが安全には変えられない。値段は2億円だった。本当はもっと高かった。だが、重症の患者をミアに治させてまけさせてやった。
宿に着いたケン達一行は部屋に入る。
「お前に、ヘルガの心の傷を【治癒魔法】で治せるか?」
「…………出来ません(聞いたことない。もしも治せるならそれは奇跡と言い換えてもいい)」
「以前【治癒魔法】を直接教えてないと言ったよな。いい機会だ。俺の背中を見て学べ」
ケンの右手が一瞬青白く光る。手の光がヘルガを全体的に包みこむ。
「どうだ?【治癒魔法】は成功したはずだ。答えろ」
「……ぁ、は……い。声が出る?」
「そんな。嘘。あり得ない。本当に治してしまうなんて!」
戸惑うヘルガとケンを部屋に残して、ミアは部屋を出て行ってしまった。




