プロローグ
薄暗い地下アジト。
重たい扉が勢いよく開き、一人の男が獣人の少女を肩に担いで入ってきた。
「ボス、連れてきやしたぜ!!」
少女の両手足は縄で拘束され、首には黒い首輪、手首には銀色の枷が取り付けられている。
抵抗する様子はない。
いや――抵抗できないのだ。
「ちょいと、ヤバかったですが、このとおり……ガッハハハハハ!!」
男は少女を床へ放り投げる。
その先には、同じように拘束された獣人やエルフの女性たちが何人も横たわっていた。
全員、生気を失ったように俯いている。
「おうっ!ご苦労さん!!」
本来なら、人間の冒険者など相手にならないほどの戦士たち。
しかし彼女たちは、特殊な拘束具によって力を封じられていた。
手首には、マナの流れを断つ『封魔の枷』。
首には、マソの循環を阻害する『封素の首輪』。
二つを装着された者は、本来の力を失い、人間より弱い存在へと変えられてしまう。
「よしっ!!」
部屋の奥で待っていた頭目が立ち上がる。
「これで依頼の商品が、全部揃ったな!!」
部下たちが、顔を見合わせる。
「じゃあ、明日にでも届けに行くか!!」
「やったぁーーっ!!」
歓声が地下室に響いた。
と、その時だった。
重たい扉がコンコンと軽く叩かれる。
「……誰だ?」
頭目が眉をひそめる。
部下がゆっくり扉を開けると、そこには3人の冒険者らしき人物が立っていた……そして、縛られた獣人の少女。
先頭の青年が、軽く頭を下げる。
「失礼……獣人の娘を探していると聞いて、連れてきたんですが?」
部屋中の視線が一斉に集まる。
頭目は3人を見回し、鼻で笑った。
「冒険者パーティか?」
「まぁ……そんなところかな。」
青年の隣には、縄で縛られた獣人の少女。
美しい銀髪を垂らしたまま俯いている。
「ほう……売り物を持ってきたってわけか。」
「どれどれ?」
頭目は、顎に手を当てる。
「なかなか……上玉じゃないか。」
頭目が、下卑た笑みを浮かべる。
「気に入ったかな?」
「まぁな。」
そう言った瞬間。
頭目は少女の顎へ手を伸ばした。
「どれ、顔でも――」
ガシッ!!
頭目の手首が掴まれた。
俯いていた少女が、ゆっくり顔を上げた。
黄金の瞳が、静かに頭目を見据える。
「我に……。」
ミシミシ……
拘束具が音を立て始める。
「汚い手で触れるでない!!」
バキィィィン!!
封魔の枷が砕け散る。
続けて首輪が弾け飛んだ。
「なっ……!」
頭目が目を見開いた瞬間。
陽摩羅の蹴りが、腹へ炸裂する。
「失せろ。」
ドゴォォォォン!!
頭目は、仲間を巻き込みながら壁まで吹き飛び、地下室全体が激しく揺れた。
ケイタは、肩をすくめて笑う。
「いや……触ろうとしたのは、アウトだよ」
「でも、少しくらいは我慢できないかな?」
陽摩羅は鼻を鳴らす。
「ふん……こんな薄汚い者どもに触れられるくらいなら、我は暴れる方を選ぶわ!!」
「まぁ……そうなるよね♪」
ケイタが苦笑すると同時に、両腕が黒い刃へと変化した。
「じゃあ……もう、始めようか。」
ケイタが一歩踏み出した。
「殺れぇぇぇーーっ!!」
頭目の怒号と同時に、十数人の男たちが一斉に襲いかかる。
「遅い。」
その姿が消えた。
「なっ──」
次の瞬間。
カンッ!
カンッ!
カンカンカンカンッ!!
地下室に金属音だけが響く。
男たちが剣を振り下ろそうとした瞬間――
全員の武器が、綺麗に真っ二つになっていた。
「えっ……?」
誰も状況を理解できない。
「武器が……。」
「折れてる……?」
ケイタは首を傾げる。
「その程度で戦うつもりだったの?」
「ば、化け物だ!!」
「違うよ。」
ケイタが、微笑む。
「君たちが弱すぎるだけ。」
「くっ……素手でやれ!!」
男たちは雄叫びを上げ、一斉に飛び掛かる。
「やれやれ。」
ケイタは、軽く肩を回した。
「陽摩羅、好きにしていいよ。」
「待っておったぞ!!」
陽摩羅が豪快に笑う。
次の瞬間。
ドゴォォォォォン!!
拳が一人の腹へめり込む。
男は後ろの仲間ごと吹き飛び、五人まとめて壁へ激突した。
「ぐはぁぁぁっ!!」
「次っ!!」
戦斧を振り上げた大男。
陽摩羅は片手で刃を受け止める。
「軽い。」
ミシミシ……
戦斧が握力だけで潰れていく。
「そ、そんな馬鹿な!!」
「武器は大事に使うものじゃ。」
陽摩羅は大男の足首を掴み、そのまま振り回した。
「どりゃぁぁぁぁぁーーっ!!」
ゴン!!
ゴン!!
ゴン!!
仲間を次々となぎ倒しながら、大男は部屋中を飛び回る。
「うぎゃぁぁぁ!!」
「逃げろぉぉぉーー!!」
その時だった。
「逃げれないわよ。」
ミイアが、微笑む。
指先から、青白い雷が無数に走る。
バチィィィィッ!!
逃げ出した男たちは、一歩も進めないまま床へ崩れ落ちた。
「少し痺れたかしら?」
「し、死ぬぅぅぅ……。」
最後の一人が、出口へ飛び込む。
「助かった!!」
「残念!」
ルカが静かに首を振る。
「まだだね!」
男の身体がピタリと止まる。
「な、なんで動け……。」
ルカは静かに近づく。
そして。
「ほいっ!」
ドゴォォォン!!
軽く蹴っただけだった。
男は扉ごと吹き飛び、地下アジトの外まで転がっていく。
静寂。
誰一人、立っている者はいなかった。
ケイタは周囲を見回し、小さく息をつく。
「終わったか?」
陽摩羅は腕を組み、不満そうに鼻を鳴らす。
「弱すぎて、準備運動にもならぬわ。」
ミイアが苦笑する。
「陽摩羅ちゃん、それ毎回言ってるわよ。」
「事実じゃ。」
ルカが小さく頷く。
「う~ん……今日も一分かからなかったね?」
と、その時。
黒いローブを纏ったベルプリが、静かに姿を現した。
「皆さん、そろそろお開きのようですよ~♪」
ケイタが振り返る。
「どうした?」
「冒険者ギルドの監察官の皆さんが、こちらへ向かっています~。」
「思ったより早かったな。」
「この獣人さんたちの拘束は、全部解除したわ。」
ミイアが最後の首輪を外しながら言う。
「よし。」
ケイタは仲間を見る。
「じゃあ、そろそろ引き上げよう。」
四人は頷き合い、その場を後にした。
それから、しばらくして――。
「急げ!」
冒険者ギルド監察官たちが、地下アジトへ飛び込んでくる。
そこには、倒れた犯罪者たち。
そして解放された、獣人やエルフたちがいた。
隊長は、深く息を吐いた。
「……また、間に合わなかったか。」
部下が苦笑する。
「匿名の、通報どおりでしたね。」
「今日も、誰が解決したのか分からないな……。」
そして、その頃。
朝焼けの街道。
ケイタは少女の姿へ戻り、陽摩羅はいつもの陽毬へ。
ミイアとルカも幼い姿へ戻っていた。
事件など最初から存在しなかったかのように、四人は笑いながら歩いていく。
「オタンコ、お団子が欲しいのじゃ!」
「だから、俺はオタンコじゃね~よ」
「ほれ!」
ケイタは、錬成したお団子を陽毬に渡した
「美味しいのじゃ!これは、いくら食っても飽きないのじゃ!!」
陽毬は、いつもの様に、ルカの頭の上でお団子を食べている
「もう!陽毬、お団子の汁が垂れてるでしょ?」
「細かいことを気にするでない!コマ!」
「もう!俺は、コマじゃない!」
「ふふっ……陽毬ちゃん、ご機嫌ね」
ケイタ達の家は、もう、すぐそこだった……




