伯爵、王子と再会する
ここで、この国のことをおさらいしておこう。
俺が記憶喪失と言い張り、ベンジャミンたちに生活様式や常識などをいろいろと教えてもらった。たぶんそのときにこの国の王家についても聞いていたはず。
いや、無事に王城から屋敷に帰れたら、ちゃんとベンジャミンよりもヴァスコが適任かな? 再教育を受けることをここに誓いますよ。
この国は王制であり、国名はコーンウォール王国である。建国何年だったか忘れた。
王都はデボン。ぐるりと周りを人工の堀で囲まれているのは、前の世界のお城と同じで敵から攻め込まれたときの防御の役割があるからだろう。
河川が多いからか、各地からの貨物も船を利用して運ばれるパターンがあるみたいだ。主流は荷馬車だけど。
王都内も底の浅い小川が縦横無尽に流れている。これも人工的な川で、主に衛生的な役割を担っている。つまり下水だ。
建物は、ぎゅうぎゅうに詰め込まれている区画と、緑が多くデカイ屋敷が続く区画とバラバラだ。貴族街と平民街。ぎゅうぎゅうなのは商業区域だ。
そして、この王城に君臨する王家。コーンウォール王家は王と王妃。王太子夫婦その子どもたち。第二王子、第三王子。王女も二人いたかな? 王家にしては珍しく側妃や愛妾はいない。
うちの王様は一途なのか、鬼嫁怖いなのか……。ハッ! こんなこと考えていたのがバレたら不敬罪だーっ!
ちなみ王様はエイベル王、在位が二〇年越えだったと思った。王妃は国内の高位貴族出身でクリスティーナ様。美魔女だったと記憶している。
次期王様は俺よりちょっと年上。兄上よりも年上だったかな? コンラッド王太子殿下は王立学園を卒業後、友好国へ数年留学し帰国後婚約者であったジェニファー様と結婚。こちらのジェニファー王太子妃殿下も、国内の高位貴族出身だったかと。
王太子夫婦の間には二人の王子と一人の王女が誕生していて、世継ぎ問題もなく平和なモンだ。
問題は、この俺を王城に呼びだした奴。
第二王子、ダドリー・ルー・コーンウォール……様。
こいつはセシル君と同時期に学園に通っていたと聞いている。
春の社交シーズンでの夜会でも、俺は兄と王家の皆さんに挨拶をしている。そのときにお会いしたのが、王様と王妃様と王太子夫婦と第二王子だった。
……やべっ、俺が白豚に変貌しているだけじゃなく、もしかして、中身もおかしいと気づかれたか?
しかし、案内人は無情にもその扉を開けてしまう。まだ、心の準備できてないよおおおおぉぉぉぉっ!
「よく来たな」
案内人に促されるままに部屋へと足を入れると、背の高い一人の男が部屋の中央に立ち出迎えてくれた。
ダドリー第二王子殿下。金髪碧眼の王子らしい王子……いや、もうこいつも三〇代だから「王子」呼びも気恥ずかしいな。
そんなくだらないことを考えている俺でも、体は覚えている貴人への礼を無意識にとる。ちょっとね、動作が鈍いのはご愛敬。
「セシル・オールポートです」
「う……うん。まあ、座ってくれ」
ダドリー王子が勧めてくれたから、遠慮なくお高そうなソファーにドシンと腰をおろした。
暫し無言の時間が流れる。
ダドリー王子は俺の顔や体をじっと眺めてはフルフルと頭を左右に振り、またじっと見つめてくる。いやん、とか言わねぇぞ。
どうでもいいが、俺の従者であるディーンは魂を飛ばしたまま、俺の後ろに控えている。従者としては完璧な気配の消し方ではあるが、お前、大丈夫? 俺も王城からの呼び出しに不安なんだけど、お前が俺以上にポンコツになってると、俺がシャンとしなきゃってなるでしょうが。
「ふーっ。本当に……君がハーディングなのか」
「いえ、結婚して婿入りしたので、オールポートです」
伯爵です。高位でも下位でもない中ぐらいの凡庸な伯爵です。だから、おうちに帰して。
「いや、済まない。学園で一緒だったころと違いすぎて。混乱してしまった」
ハハハと力なく笑うが、混乱するならわざわざ呼び出すなよ。こっちは心臓がドキドキしてるわっ。
「君は卒業間近に退寮して、すぐに結婚してしまった。しかもその後は社交の場には現れず。奥方が亡くなられても王都には一度も姿を見せることはなかった。そのうち君と再婚したという平民の女性がオールポート伯爵夫人を名乗り社交界を荒らすし。伯爵領は少しずつ没落していくし。本当に……心配していたんだ」
あれ? こいつ、いい奴だった? てっきり、学園のころは天使かと見紛う美少年だったセシル君が、白豚に大変身したのを笑うために呼びつけたと思っていたのに。
「学園が一緒だった友人……君と親しい人は少なかったけど、友人たちも君のことは知らなかったみたいだし。なのに……春の夜会に参加した君が……あまりにも記憶の中のセシル・ハーディングと違いすぎて……」
おおーっ、セシル君ってば友達いない人? と疑っていたが友人がちゃんといたらしいです! ブラボーッ! ぼっちじゃなかったぜ。
しかし、このおっさん王子、俺が記憶の中の姿と違うから別人だと疑ってないか? いや、中身は異世界産の魂の俺だから別人と言えなくもないが。
「……不本意な結婚とその後の冷えた結婚生活などで、やむなくこの姿になりました。正直、なにかもどうでもよかったので」
正直に話します。セシル君の気持ちを。俺だっていきなり学生時代イケイケイケメーンが白豚にモデルチェンジしてたら、事情聴取したくなるし。
「オールポート伯爵家のことは知っている。その……災難だったと思っている」
むぐっと苦しげに顔を歪めてダドリー王子が告げる。これ以上、俺の事情は話さなくてもいいと。だったら王城なんかに呼ぶなよっ。
しかし、顔を歪めても、おっさんになっても、王子フェイスはキラキラしいなっ。
お前も、モデルチェンジでハゲてもいいんやで?




