領主、領都を案内する
トレヴァー君の純真無垢な疑問に何も答えられずモゴモゴしていると、兄上がさり気なく誤魔化してくれた。
あー、びっくりした!
さすがに、無理やり手籠めにされて結婚した奥さんからの誘いから逃げるために太ったんだよと、少年には言いにくい。
兄上たちは、そこんところのセシル君の事情はわかっているみたいだな。
「兄上、明日はどうされますか? そのままハーディング領へ帰られますか? お時間があるなら領都クレモナを案内したいのですが……」
紹介してくれた人たちが働くホテルも見せたいし、トビーたちの美味しいスイーツもご馳走したい。
「そうだな。役所も見たいし、案内してくれるか?」
「はい!」
気持ちが鼻息に出ていたのか、鼻の穴を膨らます俺の姿に苦笑して、兄上は明日の約束をしてくれた。トレヴァー君も期待してくれ。トビーの甘いおやつやヘクターたちの美味しいパンが食べられるぞ! 明日のお楽しみにしてもらうため、今夜のオールポート伯爵家の晩餐では、ジャコモに腕を奮ってもらおう。
ジャコモの料理やスイーツも絶品だからね!
……まぁ、俺はそんなに食べられないけど……ちっ。
今日ぐらいはダイエットは休んでいいかなぁと揺らぐ心も、トレヴァー君のキラッキラな瞳を見れば戒められるってもんだ。
こうして、オールポート伯爵家は久しぶりのお客様にワイワイと賑やかな夜を過ごした。
さて、次の日の昼前にオールポート伯爵邸を出て、やってきました領都クレモナ。
王都側にデデーンと役所があり、オールポート領南側へと繋がる大通りがメインストリートであるプリマヴェーラ通りである。
イメージとしては、昔お城でオホホホと笑う淑女が集った国のおシャンティな通り。前の世界でその通りは美しい通りで有名で歌まで歌われるほどだった。
長く続く通りの沿道には緑鮮やかな木々が植えられていた。並木道っていいよねー。う~ん、プリマヴェーラ通りにも馬車が通るところと歩道の境目に木々でも植えるか?
この通りは南の農作地帯リグーリに至る道で、役所から南へと緩やかな下り坂になっている。歩いていてほとんど気づかないほどの傾斜だけど。
左右にはオールポート伯爵領自慢の名店、ホテルが威風堂々と営業を……って、まだ全体の七割程度の店しか開いてないなぁ。
前オールポート伯爵夫妻が亡くなって活気がなくなったオールポート領は、その時点でここの商店街は約八割程度の営業だった。
例のセシル君の後妻を名乗る下品ママと陰険執事コーディたちの悪党仲間が、店を奪い取り怪しげな店を開いて、なんとなく活気があるように体裁は整えられた。
んで、悪者退治をしたら逃げ出した奴らもいたが、この商店街の店はほぼ五割を切る有様となった。
今回、兄上からの紹介と王都からの引き抜き、元々ここで商売をしていてコーディたちに追い出された者が店を始め、なんとか七割まで復興しました!
予定では、秋までに九割の店が営業できそう。
「問題は、噴水広場で交差するエスターテ通りとか、プリマヴェーラ通りと並行しているセレーノ通りとヴェント通りの店の状況は喜ばしい数字なのに、高級志向の店舗が埋まらないことなんだよなぁ」
今のところはラグジュアリーホテルとトビーの店。主に女性向けの服飾小物の店。帽子とか靴とかカバン、手袋とかを売っている。この世界ではまだまだ値段の高い書籍を売る店。同じく絵画や花瓶とか調度品とかを売る店。
あと、二~三店舗、ハイソなお店が欲しい。しかし、王都のタウンハウスの使用人であるヴァスコから送り出されてくる人は、どちらかというと庶民向け。
やっぱりハイソな店を営む人って、そこら辺に転がってないもんだよ。
兄上たちをゾロゾロ連れて歩いて、ちょっと疲れたので改装中のトビーの店でひと休みしましょう。
「ここが新しくオープンするカフェです。一階では持ち帰り用の焼き菓子やプリン。あとスツールに座ってお茶が飲めます。二階はトビーの作る美味しくてかわいいスイーツが味わえます」
お前はこの店のオーナーか! と自己ツッコミしてしまうほどのセールストークだった。うむ、ちょっと気分が浮かれていたみたいだ。
白豚、反省。
しかし、この改装中でもわかるファンシーな店内と美味しくてかわいいスイーツというコピーに心をソワソワさせている人がいる!
「気」が乙女モードの兄上だ。
うん、かわいいものとか好きそうだもの、兄上。
ちなみに、兄上のパートナーであるイライアス様の「気」は確認していない。トレヴァー君の「気」もしていない。
そんなもの確認しなくても二人はいい人だと信じられるもん。
シャーロットちゃんがトレヴァー君の隣の席に座って、今日見たお店の感想を言い合っていて楽しそう。うんうん、かわいい、かわいい。
店内をキョロキョロと見回しては、テーブルや椅子のデザインに顔を綻ばせ、カーテンや照明のかわいい彫刻にはわわわっと感激している……兄上もくっそかわいいな!
「ところでセシル。まだ空いている店舗のことなんだけど、知り合いにいい子がいるんだ」
ニンマリと笑ってイライアス様が俺に囁く。
べ、別に、イライアス様の本性を見るのが怖いから「気」を確認したくないわけじゃないからね!
ひえええええええぇぇぇぇっ!




