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王の裏切り、俺の無双劇〜 追放英雄ライル、王国を無双で討つ  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第57話 紅蓮の狼煙

 交易都市サンドリア。


 昼間の喧騒が少しずつ落ち着きを見せる一方で、街の一角では、まだ酒場や娯楽施設から笑い声が響いていた。

 様々な人間が集まるこの街では、表の顔だけではなく、裏の顔もまた存在している。

 

 その中でも、血盟が問題視していた場所。

 それが――カジノだった。


 より正確に言えば、カジノを拠点として活動する、元アルヴェリア王国関係者たちである。

 王国を裏切り、現在はサンドリアの裏社会とつながっている。


 彼らは偶然そこに集まっているわけではない。

 明確な目的を持っている。

 その事実を、血盟はすでに把握していた。

 

 宿の一室。

 大きなテーブルを囲むようにして、ライル、ゼイル、ゼス、ミレーヌ、カラム、エリシアの六人が座っていた。


 テーブルの中央には、サンドリアの地図が広げられている。


「ここだ。表向きは単なる娯楽施設だ。

 裏ではかなりの規模で人員が出入りしている」

 カラムがカジノの場所を指す。


「資金の流れも妙ね。

 カジノの売上だけでは説明できない金額が動いているわ」

 ミレーヌが地図を覗き込む。


ゼス「おそらく、情報の売買も行っている」

 

 ゼイルが続ける。


「アルヴェリア王国に関する情報も、その中に含まれている可能性が高い」



 エリシアは黙って地図を見つめていた。

 彼女にとって。

 そこにいる者たちは、単なる犯罪者ではない。

 かつて同じ国に仕えた者たちなのだ。

 王国の制度を知り、兵士の配置を知り、国の弱点を知っている。

 その知識を敵へ売り渡している。


「……放っておくわけにはいきませんね」


 全員の視線がエリシアへ向く。

 エリシアは地図から目を離さない。


「この者たちは、すでにアルヴェリア王国を裏切っています」


「そうだな。しかも、今も活動している」

 ライルが答える。


 エリシアの表情から、普段の柔らかな雰囲気が少しずつ消えていく。


「ならば、殲滅しましょう」

 静かな部屋に、その言葉が落ちた。


 誰もすぐには答えなかった。

 反対する者もいなかった。

 

 ミレーヌは目を細め、エリシアの横顔を見る。


 王女として育った少女。

 かつてなら、こういう判断を口にすることすら躊躇したかもしれない。


「……賛成だ」

 最初に口を開いたのはゼスだった。


 短い。

 いつも通りの言葉。

 しかし、その声音には一切の迷いがない。


「俺も異論はない」

 ゼイルが頷く。


「捕らえて尋問するという選択肢もあるが、相手の規模を考えれば、情報が漏れる可能性が高い。

 すでにこちらの存在を察知している可能性もある」


「つまり、時間を与えるほど厄介になるってことね」

 ミレーヌが小さく息を吐く。


 ゼイルは頷いた。


「敵が準備を整える前に対処したほうがいい」


 カラムは腕を組む。


「……殲滅するのは決まりだな。あとは方法だ。

 裏切り者だけを狙って、気づかれないよう静かに片付けるか。それとも、拠点ごと叩いて、周囲にも連中の末路を見せるか」


 カラムは腕を組んだまま、静かに続けた。


「静かに終わらせれば、こちらの情報は余計に出ない。街への被害も抑えられる。

 ただし、連中と繋がっている人間まで把握するのは難しくなる。

 逆に、派手に潰せば、連中と関係している人間は行動に出る可能性が高い。

 こちらが何をするのかも、街に広まるだろう」


エリシア「どちらを選ぶにしても、街の人々を巻き込むことだけは避けなければなりません」


 その言葉に、ライルが頷く。


「……当然だ」


 その場にいた全員が同じ意志を共有していた。

 裏切り者を討つ。

 しかし、関係のない人間まで傷つけるつもりはない。


 扉の向こうから、やたらと大きな声が響いた。


「話は聞かせてもらったぜ!がっはっはっはっはっ!!」

 豪快な笑い声が響き渡る。


 全員の視線が、一斉に扉へ向く。

 ミレーヌが目を細めた。


「……グロスね」


 扉が勢いよく開く。


「お前ら、面白ぇ話をしてるじゃねぇか!!

 裏切り者どもを潰すんだろ?」

 グロスは部屋の中央に置かれた地図へ大股で近づく。


カラム「静かに片付けるか、拠点ごと叩くか。その二つで意見が分かれている」


「だったら、決まりだな!派手にやろうぜ!!」

 グロスは拳を握り、満面の笑みを浮かべた。


「……なぜそうなる」

 ゼイルが額に手を当てる。


「簡単な話だろうが。

 裏切り者どもの拠点なんだろ!

 だったら、正面からぶっ潰せばいい!!」


「それでは街への被害が……」

 カラムが言いかける。


「分かってるって。

 街の人間には手を出さねぇ、建物の外までぶっ壊す必要もねぇ…だがな、敵のいる場所まで遠慮する必要はねぇだろ!!」


ミレーヌ「……中だけ派手に、ということ?」

ゼス「……分かりやすい」


「だろ!?」

 グロスが嬉しそうに笑う。


 ゼイルは深いため息を吐いた。


「……理屈としては分からなくもない」


「おっ、ゼイルも賛成か!」

「賛成とは言っていない」


「……私は、それでも構いません」

 エリシアが静かに告げた。


「エリシア?」

 ミレーヌが振り返る。


「ただし、街の人々には、絶対に被害を出さないこと。それが条件です」

 その瞳には、はっきりとした決意が宿っていた。


 グロスは大きく頷く。


「任せろ!! カジノごとぶっ壊して、まとめて吹っ飛ばしてやる!!」

 グロスの声が部屋いっぱいに響く。


 カラムは額を押さえた。


「だから、それでは街への被害が……」


 ――ドゴォォォォォンッ!!


「「「「「「……ッ!?」」」」」」

 轟音が、サンドリアの街を震わせた。


 窓ガラスがビリビリと震える。

 机の上に広げられていた地図まで、衝撃で僅かに跳ねた。

 遠くから聞こえてきたはずなのに、その爆発音は妙に大きかった。

 続いて、遅れて地面が揺れる。

 宿そのものが、ほんの僅かに軋んだ。


「な、なんだ!?」

 カラムが顔を上げる。


 ゼイルがすぐさま窓へ向かった。


「……爆発?」


 黒煙が立ち上っている。

 夜空へ向かって、赤い火の粉が舞っていた。


「……あれは」

 ミレーヌが目を細める。


 ライルは立ち上がった。

 黒煙の向こう。

 そこから感じられる魔力を、ライルは知っていた。


「……この魔力、セリアか」


 グロスの顔から笑みが消えた。


「いねぇと思ったら……一番乗りで祭りの狼煙、上げやがったか!!」

 口元が大きく吊り上がる。


「待て、グロス!」

 カラムが声を上げる。

 

 しかし遅かった。

 グロスはすでに扉へ向かって走り出している。


「セリアに先越されて黙ってられるか!!」


 バァンッ!!

 扉が勢いよく開く。


「今夜は祭りだぁぁぁぁぁっ!!」

 グロスの叫び声が、廊下の向こうへ消えていく。


 「……セリアさん。先に始めてしまったのですね」

 エリシアは、窓の外から立ち上る黒煙を見つめていた。

 その表情には、呆れとも諦めともつかない感情が浮かんでいる。


「どうやら、そのようね」

 ミレーヌが苦笑する。


 カラムは頭を抱えた。


「……作戦会議をしていた意味がなくなったな」

ゼイル「完全にな」


「作戦も何もない……最悪だ」

 カラムが呟く。


 ライルはすでに腰の剣へ手を添えていた。


「……行くぞ。セリアが先に動いたなら、もう止められない」

 

 本来なら、事前に決めておくべきことは山ほどある。

 だが、すでに敵の拠点ではセリアが暴れている。

 そしてグロスは一人で飛び出してしまった。

 ここで悠長に作戦を立て直している時間はない。


「……仕方ないな。現場で対応する」

 カラムがため息を吐く。


「そういうことね」

 ミレーヌが立ち上がる。


 ゼイルも武器を手に取った。

 ゼスは無言で扉へ向かう。


「行きましょう」

 エリシアも決心した。


 カラムは部屋を出る直前、地図へ視線を落とす。

 赤い印がつけられたカジノ。


「……頼むから、街まで吹き飛ばすなよ」

 カラムの呟きが、誰もいなくなった部屋に静かに落ちた。

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