第44話 血盟再集結、そして次なる敵の名は
王都に訪れたわずかな静寂――
アルトレウス三世を討ち倒してから二週間。
血盟の仲間たちは散り散りに動き、誰もが自分の“傷”と“怒り”を抱えたまま日々を過ごしていた。
再び“ひとつ”になる時が近づいていた。
◆王都北門
王都に、ようやく「音」が戻り始めていた。
石槌が打ち鳴らされ、瓦礫が運ばれ、人の声が行き交う、生きている街の音だ。
夕焼けに染まる石畳を踏みしめながら、彼は背中の黒焔剣に手を伸ばす。
(終わったはずなのに……)
アルトレウス三世は討った。
王国は再生へ向かい始めている。
それなのに、胸の奥に残るこの違和感は消えない。
「……まだ、やれることは山ほどあるな」
王国の復興支援、城下の警備、そして鍛錬。鍛錬。鍛・錬。
「……休ませてくれないらしいな、世界は」
誰に言うでもなく呟き、ライルは歩みを進めた。
◆魔導学術院
セリアは山ほどの書類を抱え、ため息をつく。
「はぁ……まさか王政が一夜で崩れるなんて。
こんな政治の混乱、前代未聞よ……」
そう言いながらも、彼女の手は止まらない。
復興計画、権限整理、魔導インフラの再構築。
どれも放り出せば、また“歪み”が生まれる。
(……この混乱を収めなきゃ。
ライルが前を見ているなら、私も立ち止まれない)
小さく息を吐き、ペンを走らせた。
◆瓦礫区画
「そこ! 勝手に動くな!
旧王国軍の残党はこの区画に集約だ!」
カラムの声が響く。
腕を組み、険しい表情で状況を見渡しながら、彼は即座に判断を下していく。
混乱はまだ残っている。
だが、放置すれば暴力に変わる。
「……俺が踏ん張らなきゃ、意味がない」
誰にも聞こえないほど低く呟き、再び声を張り上げた。
責任とプレッシャーの重さを背で受けながらも、
彼は迷いを押しつぶすように前だけを見ていた。
◆裏通り
「助かるわ。ほんと、あなたたちは優秀ね」
ミレーヌは黒衣の男から封筒を受け取り、妖しく笑う。
中身を一瞥した瞬間、表情が一瞬だけ硬くなった。
(……来たわね。予想より、ずっと早く)
「ふふ……やっぱり、平和ってのは長続きしない」
踵を返し、闇に溶けるように去っていった。
◆聖堂
純白の光に満ちた空間で、エリシアは静かに祈っていた。
「……父の残した力。
まだ、完全には消えていませんね」
胸に手を当て、目を閉じる。
罪を背負う覚悟はある。
だが――それでも。
ゆっくりと瞳を開き、彼女は立ち上がった。
◆荒野
グロスは拳で巨大な岩を砕き、豪快に笑った。
「ッはは! こんな程度、ウォーミングアップだな!」
その背後から、草むらをかき分けてルネが現れる。
「ちょ、ちょっと待って!?
なんで森に帰る途中で、あんたと合流してんの!? っていうか、道合ってるよね私!?」
「おう、偶然だな。悪ぃか?」
「悪くはないけど……なんかやだー!」
言い合いながらも、二人は妙に呼吸が合ったまま同じ帰路を進んでいく。
こうして一週間。
血盟は散り散りになりながらも、“想い”だけは一つに向かっていた。
そしてその夜。
重く澄んだ空気が、再会の時を告げる。
王都外れの古い屋敷。その地下。
血盟の新拠点となった広間には、すでに数人の姿があった。
扉を開いたライルが歩み入る。
「……全員揃うの、一週間ぶりか」
セリアが柔らかく微笑む。
「顔がそろって本当に安心したわ。
この一週間、生きた心地しなかったんだから」
「当たり前だ。死ぬ気なんざねえよ」
グロスが胸を張る。
ルネは胸に手を当てる。
「ほんとよ。グロスが死んだら、絶対に嫌!」
「……お、おう?」
珍しく歯切れの悪いグロスに、笑いが起きた。
そんな和やかな空気のなか。
ただひとつ、異彩を放つ気配があった。
ゼイルとゼス。
二人だけが、表情を引き締めたまま微動だにしない。
「悪いが、笑ってる場合じゃねぇ」
ゼイルの低い声が空気を切り裂く。
空気がピリリと引き締まる。
ゼイルが分厚い資料の束を机に叩きつける。
バサッ。
ゼスが腕を組んで言う。
「……これは、マジで笑えねぇ内容だ」
「な、なにそれ……ディエルの?」
ルネが青ざめる。
「ああ」
ゼイルがうなずいた。
「元王国諜報局長。ディエル・フェンロットの隠れ家だ。
そこで見つけた“儀式資料と取引記録”……」
ゼイルは一枚の紙をゆっくり持ち上げる。
その目は怒りに濁っていた。
『聖血統の儀は、エルディナ連邦総帥より提供』
空気が凍りつく。
ミレーヌの声は震えていた。
「……実験場にされてたってこと?」
「“儀式の試行回数”と“成果の報告”。
全部ディエル経由で連邦に流されてる」
ゼスが吐き捨てる。
カラムが拳を震わせる。
「つまり……王国はただの……」
「捨て駒だな」
ゼイルが冷たい声で締める。
その瞬間、誰の胸にも“怒り”が生まれた。
ゼイルが次の資料を示す。
「そして……もう一つ。
連邦は今、魔族と最前線で交戦中。
人類最高戦力が集まる“守護の盾”だ」
「……守護の要?」
エリシアの顔が強張る。
セリアが苦く続ける。
「もし連邦が倒れたら……
世界は魔族に飲み込まれる。
――それが現実よ」
ルネが小さく震える。
「え、そんな……じゃ、敵に回すのは……」
「だが俺たちの国を弄んだのも連邦だ。
どう落とし前つけるんだ?」
グロスが唸るように言う。
全員の視線が、
ライルへ向けられた。
ゼイルが静かに問う。
「……ライル。
どうする?
連邦は人類の盾だ。
俺たちが敵に回れば、世界の均衡が崩れる。
それでも……動くのか?」
室内の空気が一瞬で重くなる。
誰も息をするのすら忘れた。
ライルはゆっくり拳を握る。
胸の奥に積もった怒りが、熱になって込み上げた。
(奪われたものが多すぎる。
仲間の涙も、国の崩壊も、全部“実験”の一言で済まされるのか)
深く息を吸い――
ライルは言い切った。
「魔族がどうとか……そんなのは後回しだ」
「!」
全員の瞳が見開かれる。
「俺たちを実験台にした。
仲間を傷つけ、 国を壊した。
好き勝手に踏みにじった。
だったら、礼を返してやるのが筋だろ」
ゼイルが確認するように問う。
「……つまり」
「ああ」
ライルは迷いなく言った。
「次の敵は決まってる。
エルディナ連邦総帥だ。
そいつをぶっ倒して、全部終わらせる」
沈黙を破ったのは、グロスの雄叫びだった。
「よっしゃあ!! 待ってたぜその一言!」
ミレーヌが静かに微笑む。
「復讐の理由、ようやく“形”になったわね」
ルネが頷く。
「うん。私は……どこまでもついていくよ」
セリアはライルの横顔を見つめ、
そっと微笑みを深めた。
「相手が誰であろうと、私たちの正義を通すだけ」
ゼスが肩を竦める。
「お前がブレねぇから……俺たちも迷わねぇんだよ」
最後にエリシアが静かに言う。
「……私も行きます。
父を狂わせた罪。
その根は、連邦にありますから」
ライルが拳を中央へ突き出す。
「血盟は、負けねえ」
全員の拳が重なり合う。
「――血盟、前進!!」
鼓動のように、空気が震えた。
それは、新たな戦いの幕開けの音だった。
直後、魔導通信器が眩い光を放つ。
映し出されたのは、
連邦領と魔族領の境界線。
そこに走る“巨大な光の裂け目”。
グロスが息を呑んだ。
「……始まるぞ。
戦争じゃねぇ。
**世界規模の狂宴**だ」
血盟が次に挑む相手は――
魔族から人類を守る最後の護り手であり、
王国を実験場にし笑った“黒幕”。
エルディナ連邦総帥
アーク・エルディナ=ヴァルガード




