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王の裏切り、俺の無双劇〜 追放英雄ライル、王国を無双で討つ  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第39話 神を名乗る父、抗う子ら

 崩れた聖堂はもう、神域とも戦場とも呼べない奇妙な空気に満ちていた。

 天井は砕け落ち、光の粒子が雪のように降りそそぐ。

 床石は焼け焦げ、一歩進むたびに破片がぱらぱらと崩れる。


 その中心に――彼は立っていた。


 アルトレウス三世。


 胸の聖痕は異様な輝きを帯び、大地の白炎と呼ぶべき光が彼を中心に淡く脈打っている。

 表情は王としての威厳を保ちながら、どこか――人だった頃の影が薄ら残っていた。


「なぜ抗う。お前なら分かるはずだ……“正しい世界”の形が」

 父は静かに、しかし底冷えする声で言った。


 エリシアは痛む左腕を抑えながら、真っ直ぐに父を睨み返す。


「……分からない。あなたが民を救おうとした“本当の父”を捨てた理由だけは、どうしても……」

 声は震えていたが、それは恐怖ではなかった。


 一瞬だけ、アルトレウスの眉がわずかに沈む。


「弱さだ」

「え……?」


「かつての我は弱かった。

 あの頃の我は……お前を守ることすらできなかった。

 あの愚か者の“弱さ”が、すべてを狂わせたのだ」


 エリシアの胸に痛みが走る。

 ――弱さなんて、認めればいいだけなのに。


 父が、その一言だけを拒絶し続けたせいで

 国はここまで歪んでしまった。


 背後から、ゼスがぼそりと呟く。

「……家族喧嘩じゃ勝てる気しねぇよな、ほんと」


「黙れ若造、今は真面目な場面だぞ」

 ゼイルが小声で肘を入れる。


「いや、お前も小声で返すなよ」


 二人のさりげない軽口で、エリシアはようやく息がつけた。

 けれど――王はその余裕すら許さなかった。


「父上……私たちは止まりません」


 エリシアが杖を構えた瞬間――


「よし、姫さんの覚悟が出たところで……

 行くぞ、ゼス」

「おうよ!」


 影と風が同時に爆ぜた。


 ゼスが影を裂き、一気に七つの残影を走らせる。

 ゼイルは全身の筋肉をきしませ、心断流特有の“最適斬線”を読み取った。


「軌道読めよ!

 俺の影、全部お前に合わせてやる!」

 ゼスが叫ぶ。


「お前が合わせるんじゃない!

 俺が斬るんだよ、全部まとめてな!!」


 二人は地面すれすれを滑り、高速で王へと迫った。

 七つの影が同時に刺突の準備に入る。

 ゼイルはその全ての斬線を一瞬で“補正”し、収束させた。


「――《双影穿裂》!!」


 七点の刺突が一本に束ねられ、白光を突き破る矢のようにアウレリウスの胸を狙う。


 だが――


「雑技だ」


 アルトレウスが軽く手を振っただけで、

 透明の壁が広がり、二人の攻撃を反射する。


 ゼイルとゼスは弾き飛ばされ、瓦礫に激突した。


「ぐっ……!?」

「クソッ、どんだけ固ぇんだよ……!」


 アルトレウスは二人を一瞥し、

 その眼差しには“退屈”の色しかなかった。


 父はゆっくりと息を吸い、天へ右手を掲げた。

 エリシアの背筋が凍りつく。


 ――来る。

 父が本気で討ちにくる。


「――浄めよ。すべてを」


《神聖術 第六等級 光華暴流》

 

 光が咆哮した。

 天空に十字光が現れ、

 それは聖堂全体を覆うほどの巨大な象徴だった。


 そこから放たれたのは――


 奔流。


 水ではない。炎でもない。

 “浄化の圧”そのものが白い津波となり、前方へ押し流していく。

 空気が蒸発し、瓦礫が溶け、

 触れたものすべてが“存在として洗われる”。


「これ……防ぎきれない……っ!?」

「おいおい、押し流す気満々じゃねぇかよ!」

「ここで死ぬのはゴメンだっ!!」


 三人は飛び散るように逃れようとしたが――


 光は速すぎた。


 エリシアの外套は肩口から蒸発し、

 ゼスの鎧が一部剥がれ、

 ゼイルの防具は刃のように切り裂かれていく。


「くっ……!!」


 地面を転がり、壁に叩きつけられながら、

 三人はどうにか死の奔流を抜け出した。


 そこへ、父が静かに歩み寄る。

 一歩踏むたびに、床が白く浄化されていく。


「世界の穢れを断つには、力が要る。

 我は“神に選ばれた”のだ」


「違う!!」

 エリシアの叫びが聖堂に響く。


「選んだのはあなた自身!

 力にすがり、弱さを認めなかった――ただそれだけです!」


 アルトレウスの瞳が揺れた。

 父としての感情がまだ残っている証拠だった。


「弱さは、不要だ。

 お前も世界も……守る価値がある者だけが残ればいい」


 そのひと言で――

 エリシアの中の“娘としての迷い”が断ち切れた。


 ゼスとゼイルが、同時にエリシアの隣に立つ。


「よーし、エリシアが覚悟決めたぞ。全力で殴れるな」

「おう。あとは親子げんかの決着つけるだけだ」


「誰が親子げんかですか!!」


 三人の声が聖堂に軽く響く。

 その、ささやかな“人間の会話”が――王の逆鱗に触れた。


「……くだらん」


 アルトレウスが小さく呟いた瞬間――


「ゼイル!」

「分かってる!」


 影が地面に落ちた。

 ゼスの影が四方へ散り、数百の“影刃”として宙を漂いはじめる。


 そして――


「時差入れるぞ。 三、二、一」


 時の歪みとともに、影刃が“ばら撒かれた未来”から一斉に飛来した。


 ゼイルはその全てを見切り、斬り、加速させる。


「――《双影時雨》ッ!!」


 空間一面が斬撃の雨に変わる。


 斬線は重なり、増幅し、

 聖堂の空気そのものを格子状に切り裂いていく。


 しかし――


「雨粒のように落ちようとも……神は濁らぬ」


 半球状の光壁が王を包み、降り注ぐ斬雨を次々と蒸発させていく。


「っ……!?」

「マジで化け物かよっ……!」


 ゼスとゼイルの合体技ですら

 一歩も踏み込ませられなかった。


 けれど――

 その後ろに、もう一人が立っていた。


「二人とも……準備はいい?」


 エリシアの光輪が淡く輝く。

 その澄んだ光は、不思議と二人の呼吸を揃えた。


「王女、光もっと寄越せ!」

「影の軌道、俺が固定する……!」

「うん……! 全部預ける……!」


 三人は三角陣形を組む。

 光、影、心がひとつの円環に溶けていく。


 エリシアの光が二人を包み込み、

 ゼスの影がその光の道筋に速度を与え、

 ゼイルの心断が“必中の斬線”を生む。


 三者が同時に踏み込んだ。


「「「――《三星陣・光影心撃》!!!」」」


 光と影と精神が収束し、一本の刃となって王の胸へ直撃する


「父上……! お願い……戻って……!」

 娘の叫びは、もう届く距離にあった。


 けれど――


「……くく。よかろう。

 ならば――貴様ら、まずはその命を捧げてやる!」


王の体から赤黒い血紋が噴き出した。


同時に、ゼイルとゼスの足元の影が“押し潰される”ように消え去る。


ゼス

「クッ……!?」


ゼイル

「影が……潰されてる!? なんだこの圧……!」


 そして――

 王が次の段階へ踏み込む。


《神聖術 第七等級 聖血極臨・零相》発動


 白が爆発した。

 本当に、白だけが世界を塗りつぶした。


 色が死ぬ。

 時間が飛ぶ。

 位置が消える。


エリシア

「く……っ……!? 見えない……!」


ゼス

「なんだよこれ……! 動きが……全部“消えて”……!」


ゼイル

「違う! 消えてるんじゃねぇ!

 “位置を飛び越えてる”んだよ……ッ!」


王が振るった神槍が弧を描いた時には、

その斬撃はすでに三人の“後ろ”に着弾していた。


遅れて、壁が一直線に消し飛ぶ。


アルトレウス三世

「どうした。

 反応できぬか、三位一体の戦士たちよ?」


 エリシアは息を荒げながら立ち上がる。


エリシア

「……っ……私は……まだ……!」


ゼス

「エリシア、下がれ!

 正面から受ける気じゃ無理だ!」


ゼイル

「死角もクソもねぇ……どこを向いても、王が“いる”!」


 王の位置は一定していない。

 “存在している座標”が連続的に切り替わっている。

 追えない理由は速度ではなく、“世界側の処理落ち”。


アルトレウス三世

「ひれ伏せよ。

 貴様らには、神を拒む権利すらない」


 王が神槍を構えた。

 エリシアの胸がざわりと震えた。


――来る。

――避けられない。

――この一撃で、私たちは……。


ゼイル

「チッ……ゼス、準備しろ!

 最後まで足掻くぞ!」


「当たり前だろ……! 倒れるのは“あっち”だ!」


 だが王の槍は、無慈悲に振り下ろされる。


アルトレウス三世

「終わりだ――人間ども」


エリシア

「……!」


ゼス

「……ッ!」


ゼイル

「くそ――ッ!」


 その時だった。


『――カシュッ』


 本当に小さな音だった。

 世界が暴走する白に支配されている中、その音だけが異物のように響いた。


 次の瞬間――

 王の頬を黒い羽が掠めた。


アルトレウス三世

「…………何だ?」


 羽は、黒い月のように回転しながら、王の肩の下へ突き刺さる。


 その傷は小さい。

 だが――“完全なる神速状態の王に傷をつけた”という事実は、絶対的だった。


エリシア

「……あれは……!」


 天井の梁で何かが動いた。


 “黒”。

 夜そのものを切り取ってきたような影。


 ひらり、と舞い降りたその女は――

 まるで処刑台に立つ死神。


ミレーヌ

「……神様ごっこも、終わりにしようか」


アルトレウス三世

「……何者だ?」


 ミレーヌは軽く笑う。


ミレーヌ

「要人殺し専門――《黒鴉》って名乗ってた頃もあったね」


 王の眉が揺れる。

 その揺れの意味が分かる者は、王国の裏側を知る者のみ。


 刹那、 天井が爆散した。

 瓦礫を蹴散らし、二つの影が降ってくる。


「やれやれ。

 若造どもが死んじゃ、寝覚めが悪いな」

 グロスが巨大戦斧を片腕で担ぎ、ニヤリと笑う。


「矢、準備完了っ!

 い、いまこそ……絶対当てますっ!!」

 ルネは声だけ本気で必死。


「生きてれば上出来。

 死ぬなら……もうちょい派手に散りな」

 ミレーヌは主武器であるか鎌を肩に乗せ、月のような弧を描く。


「遅ぇぞ、姐さん……」

 ゼスが苦笑しながら振り返る。


「冗談言ってる場合じゃ……ないんだけどな……」

 ゼイルがため息をつく。


「ほれ、立て。

 王殺しの宴を開幕するぞぉぉ!」

 グロスが斧で床をドンと鳴らす。


 アルトレウス三世が冷笑する。

「雑兵風情が……神に挑むつもりか?」


「神だの王だの関係ないさ。

 “殺せるかどうか”が大事――でしょ?」

 ミレーヌが鎌を構える。


 ルネの弓が光を帯び、

 グロスの戦斧が雷のような唸りを上げ、

 黒鴉の鎌が月弧を描く。


 エリシア、ゼス、ゼイルも再び立ち上がる。


「……まだ……終わってない……!」

「久々に燃える状況だな」

「じゃあ――続きといこうか、王様」


 アルトレウス三世は鼻で笑った。

「ならば、全員まとめて滅ぼそう。

 我が前に立つ者は――無価値だ」


 ミレーヌが楽しげに口角を上げる。

「じゃあ証明しよっか。

 “雑兵でも王は殺せる”ってね」

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