第4話 王都への逆襲の兆し
荒野は沈黙していた。
盗賊も魔物も傭兵も、すでに一人の剣によって沈黙させられたからだ。
血の匂いをまといながら歩く男――ライル・アーヴィング。
その歩みは重いはずなのに、まるで荒野そのものが道を開けるように静かだった。
「……怒りは、まだ収まらない」
彼の脳裏に浮かぶのは王城の光景。
王の薄笑い。
仲間たちの冷たい視線。
剣を向けられ、裏切りを言い渡された瞬間。
心臓の鼓動が速まる。怒りがまた、力へと転じていく。
(王都――必ず戻る。いや、戻るのではない。潰すのだ)
半日後。
ライルは山間の小さな村に辿り着いた。
村の人々は怯えていた。王都から派遣された徴税兵が、重すぎる税を取り立て、抵抗する者は無残に殺されるという。
「王都の兵は、民を守るどころか……搾取しているのか」
ライルは呟き、怒りで歯を食いしばった。
夜。村外れの焚火の前で、老人がライルに語る。
「……昔は立派なお方だったと聞く。だが今の王は、欲に取り憑かれた。兵も傭兵も、皆が私腹を肥やすために動いておる」
その言葉に、ライルの中で何かが決定的に弾けた。
「ならば俺がやる。王も兵も、すべてまとめて叩き潰す」
炎に照らされたライルの横顔は、もはや騎士ではなく、復讐鬼のそれだった。
翌日。
村に王国兵がやってきた。
「税を納めろ! 金がない? なら女を寄越せ!」
「抵抗する者は吊るせ!」
怒号と共に、村人が蹴り飛ばされる。
子供が泣き叫び、女が髪を掴まれ、老人が剣で脅される。
ライルは、もう黙ってはいなかった。
「やめろ」
その声は冷たく、重く、王国兵たちの背筋を凍らせた。
「なんだ、貴様は?」
「ただの流れ者だろう。首を落として見せしめに――」
剣を抜いた兵士の言葉は、最後まで続かなかった。
ライルの剣が一閃し、その首を吹き飛ばしたからだ。
――血が噴き上がり、周囲の兵が悲鳴を上げる。
「ひ、一撃で……!?」
「おい、囲め! そいつは反逆者だ!」
十数人の兵が一斉に襲いかかる。
だが、彼らの刃は一度もライルに届くことはなかった。
一歩踏み込み――斬る。
振り向きざまに――斬る。
剣を振り払えば、その軌跡にいた者は全員血を撒き散らして倒れる。
戦いは数分で終わった。
村人たちは恐怖と驚愕で声を失い、ただ血に濡れたライルの背を見つめる。
「……これが王国の兵か。腐りきっている」
彼の声には怒りと冷笑が混じっていた。
その夜。村人が恐る恐るライルに食事を差し出した。
彼はほとんど口をつけなかった。ただ剣を研ぎ続ける。
「ライル殿……どちらへ?」と老人が問う。
「王都だ」
「おやめなされ……王都は堅固。兵は数万、城壁は高く……」
「だから何だ。俺の剣で斬れぬものはない」
静かに言い放つと、村人たちは誰も言葉を続けられなかった。
その瞳には迷いがなく、ただ一つの目的――復讐しかなかったからだ。
一方その頃。王都。
王は玉座に座り、冷たい声で命じていた。
「ライル・アーヴィング……あの男が生きているという噂がある」
「はっ。しかし、すでに傭兵を差し向けました。まさか奴が……」
「甘えるな。奴は化け物だ。徹底的に追え。奴が王都に迫れば、我が地位が危うくなる」
王の目には恐怖が宿っていた。
忠誠を誓った男を裏切り、追放したはずの男。その復讐の影が迫っていることを、彼は直感していた。
再び荒野の夜。
月明かりの下で立ち止まったライルは、剣を掲げ、冷たく呟く。
「王都……待っていろ」
怒りは力となり、力は剣を導く。
王を斬り、仲間を叩き潰すその時まで――彼の歩みは止まらない。
荒野に吹き荒れる風が、血の匂いをさらっていく。
その中で、ライルの瞳は王都を射抜くかのように輝いていた。




