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王の裏切り、俺の無双劇〜 追放英雄ライル、王国を無双で討つ  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第32話 信頼が裂く影

 崩落が始まった瞬間、世界が縦横無尽に軋み、震え、悲鳴を上げた。


「ゼイル、こっちだ!」


 ゼスが叫ぶと同時、天井の石材が砲弾のように落下してきた。

 ゼイルは一切の迷いなく影に溶けるように滑り込み、崩れ落ちる瓦礫の“隙間の隙間”を通り抜ける。


「ついて来い、ゼス!」

「言われなくても!」


 二人は回廊の奥へ駆け抜ける。

 しかし数歩踏み込んだ先で、闇が形を成し始めた。


 ――残影兵。


 ディエルが逃亡時に残していった影の兵士たち。

 100体以上はいる。

 全員が“剣を抜く音すらなく”襲ってきた。


「っ、多すぎる……!」


 ゼスの額から汗が噴き出す。

 ゼイルは短く息を吐いた。


「怯むな。影は切れる」

 ゼスが最初に跳び込む。


《影走り》!


 足元から影が噴き出し、走力が一瞬だけ跳ね上がる。

 彼は三体の残影兵に突進し、回転しながら刃を振る。


 ――ザシュッ!


 影の体が切り裂かれ、煙のように霧散する。


「ゼス、後ろだ」


「っ!?」

 ゼイルの警告の瞬間、背後から影の槍が伸びた。

 ゼスが振り返るより早く、ゼイルの短剣が“影そのもの”を裂いた。


「油断するな。影は音を立てない」

「わかってる……いや、わかってなかった、師匠」


「……呼ぶな」

 

 しかしゼイルの口調には、いつもより刺がない。

 ゼスは小さく笑い、再び構えた。

 残影兵がさらに膨れ上がるように増殖する。


「切っても切ってもキリがない……!」

「ディエルの“残留念”だ。本体を逃した分、ここで暴れている」


 ゼイルは腰を落とし、息を整える。


「ゼス、俺が前に出る。“影の核”を見つけろ」

「核? …どこにある」


「必ず“一体だけ”影の流れが逆のやつがいる。

 そこを切れば増殖は止まる」


「簡単に言うぜ……!」

 ゼスの目には、迷いではなく闘志が宿っていた。


「任せろ、師匠。目ぇ凝らして探す」

「……なら俺は、道を開くまでだ」


 ゼイルが構えた瞬間、空気が冷たくなった。


無声連刃サイレント・ラッシュ


 ――音が消える。


 次の刹那。

 影が、次々と“斜めに三枚おろし”にされたように落ちていく。


「……音がねぇ。怖ぇ技だな……」

 ゼスは息を吞む。


「迷っている暇はない。探せ」

「りょーかい!」


 ゼスは跳び込み、影の群れの内部へ。

 残影兵の剣が、矢のような速度で襲ってくる。

 ゼスはギリギリで身体を捻り、影を削りながら進む。


「どれだ……どれが“逆に流れてる”!?」


 動き、呼吸、影の揺れ方――全部が同じ“複製”。

 だが――


「……見えた!」

 ゼスの瞳に、一体の影が映る。

 その影だけ、闇が“吸い込むように”逆回転していた。


「あいつだッ!」

「ゼス、行け!」


 ゼスは全力で駆けた。


「《黙刀マズル》――急所斬り!」


 音のない斬撃。

 気配すら殺した一撃が、影の核を貫く。


 ――パァンッ!!


 耳をつんざく破裂音。

 核の影が四散し、残影兵たちは一斉に崩れ落ちた。


「はぁ……っ、はぁ……っ、倒した……!」

「よくやった、ゼス」


 ゼイルが短く頷く。

 ゼスは少し照れくさく笑った。


「ま、師匠が言うなら……悪くない気分だな」


「……本当に、勝手に呼ぶ気なんだな」

「当たり前だろ!もう弟子になったつもりだ」


「勝手すぎる……」

 ゼイルの口元はわずかに緩んでいた。


 崩落はまだ続く。

 二人は回廊の最後の扉へ向かって走り抜けた。

 巨大な梁が落下し、ゼスの進路を完全に塞ぐ。


「ゼス!」

「っ、いけね――!」


 落下速度は速い。

 間に合わない。

 だが。


「《影潜シャドウ・ステルス》――掴まれ!」


 ゼイルがゼスの腕を掴むと同時、二人の身体が影へと沈んだ。

 真っ暗な空間を通り抜け、梁が落ちた直後の床へ“すり抜ける”ように出現した。


「……今の、反則じゃね……?」

 ゼスは驚愕の表情のまま固まる。


「危なかったな」

「いや、もっとこう……なんか言うだろ!?」


「何を?」

「『お前が死ぬ未来など想像していない』とかさ!」


「言わん」

「くぅ……かっこつけるタイミングだろ……!」


 ゼイルは無言のまま歩き出した。

 ゼスは肩で笑い、続く。

 

 やがて、崩れた壁の向こうに夜空が見えた。

 月光が差し込み、冷たい風が吹き抜ける。


「……外だ」

「なんとか、生きて出れたな」


 二人は瓦礫に腰を下ろし、荒い息を整えた。

 空は紺色、もうすぐ夜明けが近い。


 ゼスはぼそりと呟く。

「なぁゼイル。さっき……お前の背中見てて思ったんだ」


「なんだ」

「影を裂くのって、刃じゃないんだな」


「……どういう意味だ」

 ゼイルがわずかに眉を寄せる。


「信頼だよ。

 俺が核を探せたのも、お前が前で戦ってくれたからだ。 俺は“お前が絶対守る”って、根拠なく信じてた」


 ゼイルは黙り込む。

 その表情は、困っているような、照れているような――妙に不器用なものだった。


「……俺はそんな器じゃない」

「知ってるよ。でもな」


 ゼスは月光を見上げる。


「誰かを信じたい時って、理由とか実績とかいらねぇんだ。

 背中を預けたいと思ったら、預けるだけだ」


 静寂。

 ゼイルはしばらく言葉を探していた。


「……お前の言葉は、軽いようで重いな」

「お前のは重いようで軽いけどな」


「言い返してやろうか」

「できるもんならどうぞ?」


 二人の短い笑い声が、崩壊した回廊に溶けて消える。


 遠く、空が淡く染まり始めた。

 夜明けの気配だ。

 ゼイルが立ち上がる。


「行くぞ、ゼス。ディエルはまだ生きている」

「わかってる。」


「次は逃さない」

「当たり前だろ。俺たち、最強のコンビだ?」


 ゼイルは少し目を細める。


「……勝手にコンビにするな」

「今のは否定が弱い」


「黙れ」


 二人は並んで歩き出す。

 月光から朝日へ。

 その境界を踏み越えながら、ゼスがぽつりと呟く。


「……なぁゼイル」

「なんだ」


「俺らの影は、どこまで伸びるんだろうな」

「さぁな。だが――」


 ゼイルは空を見上げる。


「影は光がある限り、消えない」


 そして二人の影は、ゆっくりと朝の地面へ伸びていった。


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