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王の裏切り、俺の無双劇〜 追放英雄ライル、王国を無双で討つ  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第37話 聖血の王、降臨

 王城最上階へと続く回廊は、もはや建築物の姿をしていなかった。

 白銀の石は液状に波打ち、床の文様は血の色に染まり、壁に浮かぶ“渦巻く瞳”がゆっくりとこちらを追ってくる。


 「ひ、ひぃ……なんか、こっち見てる……!」

 ルネの声は裏返り、弓を持つ指が震えに震えていた。


「怖がるなって! 見てるんじゃねぇ、睨んでるだけだ!」

 グロスが歯を鳴らしながら強がる。


「どっちも大して変わらん。ルネ、距離を取れ。触れると精神汚染の危険がある」

 カラムは淡々としていたが、肩はわずかに強張っていた。


ゼス(無言でルネの肩を押し下げ、避難させる)


ゼイル「相変わらず手が早いな、ゼス」


ゼス「……黙れ」


 階段を上がるほどに、空気が“神聖”から“狂気”へと変質していくのが分かった。

 ただの魔力ではない。“神の気配”が、城を呑み込むように満ちていく。


「嫌な予感しかしないわね……。この魔力、明らかに人間の領域じゃない」

 ミレーヌが眉を寄せる。


「王……あなた、どこまで愚かな道を……」

 セリアが吐き捨てるように呟いた。


「父上……?」

 エリシアの声は震えていた。


「急ぐぞ。ここで立ち止まれば、全員飲まれる」

 ライルが短く言う。


 その背は重く、痛々しい傷がまだ癒えていないにもかかわらず、足取りは決して鈍らない。

 エリシアはその後ろ姿を見つめながら、胸の奥で小さく祈った。


(どうか……これ以上、彼が傷つきませんように……)


 だがその願いは、祭壇に響く王の声によってかき消される。


「……神よ……我が魂を、にえとして捧げよう……!」

 祭壇の間へ響く王の声によって、掻き消された。



 最上階――祭壇の間へ踏み込んだ瞬間、血盟全員の息が止まった。

 白銀の結界が視界の半分を覆い、空間はまるで硝子の内側に閉じ込められたような静けさに満ちていた。

 だが、その静寂は“神聖”とはあまりに遠い。

 ひび割れた床に刻まれた古代語の魔導陣は、血のような赤で発光し、天井を覆う聖印はまるで“そこに触れてくる”かのごとく脈動している。


 祭壇の中央――。


 アルトレウス三世は両腕を広げ、結界の中心でゆっくりと浮上し、全身から流れる血が、まるで光そのものへ変換され、天井の“逆十字聖印”へ吸われていく。

 その足元には、王国魔導官たちの亡骸が散らばっている。

 王が彼らの命を儀式の燃料にしたのだと、誰でも分かった。


「……えっ、なにこれ……なにこれ……」

 ルネが口を手で塞ぎながら後退った。


アルトレウス三世「……神よ……聞こえるか……我が祈りを……」


グロス「オイオイ、冗談だろ……あれ、生きてるのか?」


ルネ「う、動いてる……王様……?」


カラム「いや、“変質”している……!」


セリア「これ以上進めば……完全に――」


 その瞬間、王の肉体が光に弾けた。

 天井が砕け、白銀の光柱が空を裂き、全ての音が止まった。

 光が引いたとき、そこにいたのは“人”ではなかった。


――かつての王の面影をわずかに残す怪物。

 白銀の骨の翼。

 血脈のように浮かぶ紅い文様の身体。

 逆十字に光る瞳。

 鎧は肋骨のように変化した“神銀の外殻”。


「……我は……アルトレウス三世。

 王国を浄化する“神の剣”なり」


 声は二重に響き、その声を聞いた瞬間、空気が一段階重くなった。


エリシア「っ……父上……もう……父上じゃ……!」


ゼイル「つまり、狂気を混ぜた神、ってわけか」


ゼス「……最悪だ」


グロス「おい団長よ……あんな化け物、どう倒すんだ?」


ライル「力を合わせて倒すぞ……それしか、選択肢はない」

 その声音には、怒りではなく“悲しみの奥の虚無”があった。


セリア「ライル……」


ミレーヌ「完全に神性に飲まれてる……いや……それでも不完全。ねじれてるわ」

 

王はゆっくりとミレーヌへ視線を向ける。


「人よ……不完全と嘆くな。

 我は……神より賜りし使命を果たすだけ……」

 静けさと狂気が同じ重さで交じり合う声だった。


 ライルは一歩前へ出る。

 怒りよりも、悲しさが勝っていた。


「……ここまで……堕ちたのか、王よ」


「堕ちた……? ふむ……人の身を捨てただけよ。

 我は……選ばれし者。

 世界を“浄化”する存在……」


 その瞬間、エリシアの中の最後の“父への信頼”が砕けた。


「……あれは……もう父じゃない……」


アルトレウス三世

「反逆者よ……汝らの罪、ここで贖わせよう」


王が指をひとつ鳴らすと――

 

 次の瞬間――床が白銀化し、瞬く間に砕け散り、破片が浮遊を始めた。

 重力が逆転し、壁と天井がねじれ合い、空間そのものが悲鳴を上げる。


「きゃああああッ!? 床が浮いたぁぁぁぁ!?」

 ルネが空中で足をばたつかせる。


「全員、位置取りに注意しろ! 重力が一定じゃない!」

 カラムが叫ぶ。


「戦場が生きてる……王の神格が城を侵食してるのよ!」

 ミレーヌの瞳には明確な恐怖。


「戦う前に足場で死ぬとか、やめろよなぁッ!」

 グロスが宙で回転しながら吠えた。


 聖血の霧が空中でうごめき、触れたものを溶かす。

 戦場そのものが王の“肉体反応”と化していた。


 そして――。

 王の声が響き渡る。


アルトレウス三世

「膝をつけ……反逆者ども――

《神罰の天槍ゴッド・ジャベリン》」


 天井が割れ、空から無数の光槍が降り注ぐ。


「散れ!!」


 カラムの叫びとともに、仲間たちは各方向へ逃げる。


セリア「ちょっ……理不尽すぎるでしょ!」


「来やがれッ! まとめて叩き落としてやる!」

 グロスは斧で数本を叩き落とす。


カラム「無理すんな」


「やばいやばいやばい! ちょっと! 私まだ死にたくないんですけどォ!!」

 ルネは半泣きで跳躍しながら避け続ける。


 空間がねじれ、仲間たちは光の歪みに飲まれて別方向へ落ちていく。


「ゼスぅぅぅ!! 置いてかないでぇぇぇ!!」

「……騒ぐな。後で拾う」

「後でって何!? いつ!? どこで!? いま拾えぇぇぇぇ!!」


 ゼスが消える最後までルネの叫びだけが響いていた。

 声だけが響き、彼らの姿は歪んだ空間の向こうへ消えていく。

 その中で――ただ一人、エリシアだけがライルの傍に残された。

 王の意志だ。


「……お前……エリシアを狙って……!」

 ライルが剣を握ると、王の眼に明確な欲望が宿った。


アルトレウス三世

「王家の血……欠けた一滴を取り戻さねば、神は完全とならぬ」


「……私を……取り込むつもり……?」

 エリシアが青ざめる。


「エリシアに触れるなァァァァ!!!」

 怒号とともにライルが前に出る。


 王が降下し、衝撃で空気が爆ぜた。


「――ッ!」

 エリシアの体が後ろへ押され、ライルが腕で庇った。

 王は執拗にエリシアだけを狙う。

 エリシアの血が“儀式完成の最後の鍵”だからだ。


「ライル、その炎……さっきから……!」


 黒焔剣ヴァルグレイスは、まるで生き物のように脈動していた。

 ライルの呼吸は荒く、瞳には赤黒い光が宿り始めている。


「大丈夫だ……まだ……自分を保ててる……!」


(嘘だ。もう限界に見える……)

 エリシアが唇を噛む。


「滅せよ、反逆者――

神声ゴッド・ヴォイス》」

 王の声が脳を直接抉った。


「ッ……く……!」

「きゃっ……!」


 直接、脳へ刺すような精神攻撃。

 膝を落としたエリシアの悲鳴が遠くで響いた。

 ライルは怒りの衝動ままに王へ斬りかかった。

 その背に――黒焔の影が、獣のようにゆらめいていた。


 「――ぐあっ!」

 王の拳がライルを吹き飛ばし、そのまま落下する。


「ライルッ!!」

 エリシアの叫びと同時に――

 黒焔剣ヴァルグレイスが、主のダメージに反応した。

 無重力の空間を落下する中、黒焔剣ヴァルグレイスが――

 突然、脈動した。

 黒焔が液体のように流れ、王城の漂う破片を触れただけで腐食させていく。

 まるで“影の触手”が伸びていくようだった。


「ライル……これ……あなたの魔力じゃない……!」

 エリシアが震える。


 空間の遠く――ミレーヌがその異常を見て息を呑んだ。

「……あれは……黒焔剣の本質……?

 まさか、あの剣……意思を……持ってる……?」


 王は興味深げにライルを見下ろした。

「ほう……それが貴様の“罪剣”か……

 ならば寄越せ。魂ごと、捧げよ」


 黒焔は、確かに“主を飲み込む”気配を見せ始めていた。

 王は白銀の翼を広げ、世界そのものに宣言した。


「この王城は――神界の門となる。

 反逆者よ。滅びまでの猶予は“二刻(四時間)”

 抗うがよい」


「……クソッ……!」

 ライルの指先に黒焔がまとわりつく。


 王の姿は光に包まれ、エリシアの姿が見えなくなる。

「ライル!!」

「エリシアァァァァッ!!」

 互いに伸ばした手は、届かない。

 二人の間に黒焔の影が立ちふさがる。


「……飲まれるな。剣に……飲まれるな……」

 エルンの声が脳裏に蘇る。


「俺は……まだ……負けねぇ……!」


 しかし彼の瞳の奥では――。

 “赤黒い揺らめき”が、不穏に灯っていた。



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