第2話 忠誠と裏切り
夜明けの鐘が王都に鳴り響く。
黄金に染まる朝日が王城の大理石を照らし出し、荘厳な広間は厳粛な空気に包まれていた。
広間の中央で、ライル・アーヴィングは片膝をつき、剣を地面に捧げ持つ。
その姿は、一点の曇りもない忠誠の証。
「――命ある限り、この御国に仕えます」
低く、揺るがぬ声が広間に響く。
玉座に座る王は、満足げに頷いた。
広間に並ぶ大臣や将軍たちも、彼の言葉に異論など一つもない。
ライルはすでに二十代半ばにして王国最強の騎士。
数々の戦場で勝利をもたらし、民からは「不敗の盾」と呼ばれていた。
「ライル殿、今日も頼もしいな」
「彼の忠義はまさしく騎士の鑑だ」
仲間たちの視線は尊敬に満ちていた。
共に剣を振るってきた戦友、そして信頼する部下たち――誰もがライルを慕い、誇りに思っていた。
それが、この日を境にすべて崩れ去ることを、彼はまだ知らなかった。
「ライル・アーヴィング」
王の低い声が広間に響く。
次の瞬間、思いも寄らぬ言葉が彼に突きつけられた。
「お前を、国家反逆罪の嫌疑により拘束する」
「……は?」
一瞬、時間が止まった。
あまりに理不尽な言葉に、ライルの脳は理解を拒んだ。
「何の罪状だと……?」
「証拠は揃っている。敵国との内通、軍備の漏洩、反逆の意志。すべて余の耳に届いておる」
王の言葉に、広間の空気が凍りつく。
ライルは立ち上がり、叫んだ。
「馬鹿な! 私が、敵国と通じただと!? そんなもの、でたらめに決まっている!」
だが、仲間たちの視線は冷たく変わっていた。
「……ライル、本当なのか?」
「信じたくはないが……証拠があると言うなら」
剣を構える仲間たち。
昨日まで肩を並べた戦友たちが、一斉に刃を向けていた。
「……裏切ったな」
胸に突き刺さるのは、疑念ではなく確信。
王も、仲間も、最初から仕組んでいたのだ。
裏切り――。
それはライルにとって、この世で最も許せぬ行為だった。
「……いいだろう。忠義を疑うなら、剣で答えてやる!」
ライルは剣を抜き放つ。
王城の広間に、雷鳴のごとき衝撃音が響き渡った。
次の瞬間、五人の兵士が床に叩き伏せられていた。
「は、速い……!」
「防御すらできなかった……」
剣は容赦なく閃き、迫る兵士たちを次々と倒していく。
血飛沫が飛び散り、石畳を赤く染める。
「これが……裏切りの答えか!」
ライルの怒りは炎となり、力となった。
彼の剣はもはや“王国最強”の枠を超え、常人の目には追えぬ速さで閃いていた。
だが、数の暴力には抗えない。
仲間たちとの短い斬り結びの後、ライルはつい追い詰められ逃げるしかない状態になる。
「……覚えておけ」
ライルの瞳はなお燃えていた。
「俺は――裏切りを絶対に許さない」
夕刻。
振り返れば、王城の尖塔が夕日に赤く染まっている。
あれほど命を懸けて守った場所。
だが今は、最も憎むべき裏切りの象徴だった。
「……必ずだ」
荒野の風が吹きすさぶ中、ライルは剣を握りしめた。
血のように赤い夕日を背に、その瞳は冷たい炎を宿していた。
「この裏切り、必ず晴らす」
夜。
荒野を歩くライルの耳に、咆哮が響いた。
闇の中から現れたのは、牙を剥く魔物の群れ。
普通の人間なら絶望する状況だが、ライルはただ、剣を静かに抜いた。
「……好都合だ。まずはお前たちで、この怒りを晴らそう」
冷たい笑みと共に、一歩を踏み出す。
次の瞬間、暗闇に閃光が走り、魔物の首が宙を舞った。
復讐の物語は、ここから始まる。




