第1話 忠誠と怒りの種
王都・王城。白い石壁に反射する朝の光の中、剣が鋭く風を切った。
「――ライル・アーヴィング、参上!」
広間の兵士たちが一斉に振り返る。
長身の騎士、漆黒の髪。王国最強と謳われる男の剣筋は、一閃ごとに周囲の空気を張りつめさせる。
「命ある限り、この剣を王国に捧げる」
低く響く誓いに、兵士たちはどよめいた。
「さすがはライル様だ……」「これほどの忠誠、他にない」
――忠義。それがライルのすべてだった。
だが、その日。
捕縛された敵国のスパイが、縄で縛られたまま広間に引き立てられた。
「話せ。誰の指示で動いた」
ライルの声は冷たい。
スパイは震え、数度の拷問の後、あっさりと口を割った。
「ひ、秘密通路から……地図はここに……!」
あまりに容易く情報が漏れる。
「……貴様」
ライルの目が細くなる。
「お前の愛国心は、その程度か?」
怒りに震える声は、広間の空気を一瞬で凍らせた。
スパイは恐怖に顔を引きつらせる。
「た、助け――」
「裏切り者に待つのは、地獄だ」
ライルは剣を抜き、床に突き立てた。鋼の音が響き渡る。
兵士たちは息を呑み、誰一人声を上げられない。
「俺は許さない。王国を軽んじ、裏切る者を。たとえ同胞であろうとも――」
その瞳は炎のように燃え、怒りと忠誠が渦巻いていた。
裏切りを絶対に許さない男――ライル・アーヴィングの物語は、こうして幕を開ける。
夕暮れの王都を背に、ライル・アーヴィングは剣を磨いていた。
その瞳は炎のように揺るぎなく、ただひとつの信念を映している。
――裏切りは絶対に許さない。
かつて家族を、仲間を、そして故郷を裏切りによって失った。
だからこそ、彼は忠誠を誓った国を守るためなら、どんな手段も惜しまない。
「俺の剣は、この国に仇なす者すべてに振り下ろされる」
剣を鞘に収めると同時に、ライルの周囲に漂う空気が一瞬で張り詰める。
仲間ですら容易に近寄れない圧力。
だが、その心根は決して冷徹なだけではなかった。
兵士が倒れれば、自ら背負い、血まみれになってでも助ける。
民が泣けば、真っ先に駆けつける。
――忠誠とは、ただ命を捧げることではない。
守るべきものを、最後まで守り抜くことだ。
しかし同時に彼は、自分の中に燃え盛る「もうひとつの炎」を知っていた。
裏切りを見た瞬間、それがどんな小さなものでも、怒りは制御を失う。
「……裏切り者には、地獄すら生ぬるい」
その低い呟きは、夜風に溶けながらも確かな誓いとなる。
やがて訪れる激動の運命を前に、ライル・アーヴィングという男の影は、確かに王国の地平に刻まれていた――。




