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第29話:流砂の罠と、太陽の神殿

「『深淵の暁』の連中、ずいぶんと派手にお出迎えしてくれるじゃないか」


俺は、古代都市『サハラ・マハル』を覆う禍々しい結界と、その周囲を徘徊する魔物の大群を睨みつけ、不敵に笑った。

砂狐のリナは、その異常な光景に「ひぇっ…! なんだい、ありゃあ! 話が違うじゃないか!」と顔を引きつらせている。


「リナ、あんたはここで待ってな。こっから先は、あたしたちの仕事だ」

「そ、そうかい? ま、命あっての物種だからね。頼んだよ、旦那!」

リナは、あっさりと身を引くと、安全な岩陰から高みの見物を決め込むようだ。


「セラ、結界の構造はわかるか?」

「はい。複数の術者が、都市の四方から魔力を供給して維持しています。同時に四つの供給源を叩けば、結界は崩壊するはずです」

セラの的確な分析に、俺は頷いた。


「よし。作戦はこうだ。俺が魔物の大群を引きつけて、正面から突っ込む。その隙に、セラとエリアで、側面の供給源を破壊してくれ」

「「はい!」」


俺は、腰の【星砕き】を抜き、一人で魔物の大群へと突撃した。

徘徊していたのは、サソリの身体に人間の上半身を持つ『スコーピオンマン』や、砂でできた巨大なゴーレムなど、砂漠特有の厄介な魔物ばかりだ。


「さあ、祭りだ! 一匹残らず、砂に還してやる!」


俺は、まるで暴風そのものと化したかのように、魔物の群れの中で剣を振るう。

剣圧だけでゴーレムは砕け散り、スコーピオンマンの硬い甲殻は、豆腐のように切り裂かれていく。俺が敵の注意を一身に引きつけている間に、セラとエリアは、影のように、そして光のように、それぞれ左右の魔力供給源となっている祭壇を破壊していった。


やがて、都市を覆っていた紫色の結界が、ガラスのように砕け散る音が響き渡る。

作戦は成功だ。


俺たちは、古代都市の内部へと足を踏み入れた。

そこは、流砂に半ば埋もれながらも、白い石畳と、美しい彫刻が施された建物が立ち並ぶ、壮麗な街だった。

だが、都市の中心部からは、ひときわ強い邪悪な気配が漂ってくる。


「奴らの本隊は、あそこだ」


俺たちが中心部にある、ひときわ巨大な『太陽の神殿』へと向かうと、そこでは、『深淵の暁』の幹部らしき、仮面をつけた屈強な男が、数十人の使徒を率いて、何かの儀式を行っていた。

祭壇の中央には、灼熱の太陽のような輝きを放つ、巨大な宝玉が安置されている。

三つ目の封印の『鍵』、『太陽の宝玉』だ。


「ほう…我らが仕掛けた魔物の群れと結界を破り、ここまでたどり着く者がいようとはな」

仮面の幹部は、俺たちの姿を認めると、儀式の手を止め、余裕のある態度で振り返った。

「歓迎しよう、招かれざる客よ。我が名は、ヘリオス。『深淵の暁』を束ねる、三大司祭の一人である」


三大司祭。これまでとは格が違う、本物の大物だ。

「貴様らが、厄介な『厄災の心臓』を集めているという、ネズミどもか。その心臓、そして貴様らの命もろとも、ここで我が主に捧げてもらおう!」


ヘリオスが手を掲げると、神殿の床に描かれた巨大な魔法陣が起動した。

「ここは、貴様らの墓場となる! 沈め、流砂の地獄へ!」


次の瞬間、神殿の床が崩落し、俺たちは底なしの流砂の罠へと落下した。

「きゃあっ!」

エリアとセラが悲鳴を上げる。だが、俺は冷静だった。


「この程度で、俺を止められると思うなよ!」


俺は、落下しながら【星砕き】を足元の壁に突き刺し、それを支点にして、エリアとセラの身体を軽々と抱え上げる。そして、強靭な脚力で壁を蹴り、流砂が渦巻く奈落の底から、一気に地上へと舞い戻った。


「なっ…馬鹿な!? 我が必殺の流砂地獄から、自力で脱出するだと!?」

ヘリオスが、初めて驚愕の声を上げる。

「さて、小細工は終わりか? なら、今度はこっちの番だ」


俺は、エリアとセラに目配せする。

「二人とも、全力でいくぞ!」


俺の身体から蒼い闘気が、エリアから黄金の聖なる光が、そしてセラから紫黒の闇のオーラが、それぞれ立ち上る。

三つの異なる色の力が、互いに反発することなく、完璧に共鳴し合い、神殿全体を揺るがすほどの、凄まじい魔力の奔流を生み出した。


「こ、この力は…!? まさか、貴様ら、一体…!」


ヘリオスの顔から、ついに余裕の色が消え、焦りと恐怖が浮かび上がる。

俺たちの反撃が、今、始まろうとしていた。

三つの力が一つになるとき、この古代都市を舞台にした決戦は、最終局面を迎えるのだ。

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