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第13話:始まりの旅路と幻惑の森

アークライトの街を出て、俺たちはエルフの里へと続く古街道を歩んでいた。

街の喧騒はあっという間に遠ざかり、どこまでも広がる草原と、遠くに見える山々の壮大な景色が広がっている。本格的な「旅」の始まりだった。


その日の夜、俺たちは森のそばで野営をすることにした。

俺が手際よく薪を集めて火を起こし、【アイテム収納】から調理器具と食料を取り出して夕食の準備を始めると、エリアは目を丸くして感心していた。


「アルトさん、すごい…。何でもできるのですね」

「昔、嫌というほどやらされたからな。生きるための知恵ってやつだ」


焚き火の柔らかな光が、俺たちの顔を照らす。パチパチと薪のはぜる音だけが、静かな夜に響いていた。

星空を見上げながら、エリアはぽつりぽつりと、母親との思い出や、エルフの里に伝わる古い伝説について語ってくれた。俺は、ただ静かにその言葉に耳を傾ける。誰かとこうして穏やかな時間を過ごすのは、本当に久しぶりのことだった。


旅は順調に進んだ。

途中、流れの速い川で橋が崩落していたことがあったが、俺が新しい相棒【星砕き】の腹で軽く水を叩くと、川の水がまるで意思を持ったかのように左右に割れ、道ができた。エリアはその光景に「モーゼの十戒みたいです…」と、よくわからないことを呟いていた。


数日後、俺たちはエルフの里にほど近い、『アルベンの森』の領域に足を踏み入れた。

その途端、周囲の空気が一変する。

どこからともなく、深く濃い霧が立ち込め、視界が急速に奪われていった。


「これは…『惑わしの霧』。里の結界の一部です。人間の侵入を拒み、森の奥で永遠にさまよわせるための…」

エリアが不安そうな声を出す。普通の人間なら、ここで完全に行き先を見失うだろう。

だが、俺の【五感鋭敏(極)】は、この霧を構成する魔力の流れを、まるで地図のように正確に読み取っていた。


「面白い仕掛けだ。だが、俺には通用しない」

俺は、エリアの冷たくなった手を、しっかりと握った。

「俺から離れるなよ」


エリアはビクッと肩を震わせたが、俺の手を強く握り返してきた。俺は、その手を引きながら、一切の迷いなく霧の中を突き進んでいく。


その時だった。

ズシン、ズシン、と地響きを立てて、霧の奥から巨大な影が姿を現した。

岩石でできた、身の丈5メートルはあろうかというストーンゴーレム。結界の番人だ。その無機質な瞳が、侵入者である俺たちを捉えた。


「来るぞ!」

俺はエリアを背中に庇い、初めて腰の【星砕き】を鞘から抜いた。

ずしりとした重みが、心地よく腕に伝わる。その刀身は、霧の中でもなお、内側から星々のような輝きを放っていた。


(さて、どれほどの切れ味か…)


試し斬りのつもりで、俺は力を込めることなく、ただ水平に、軽く剣を一振りした。


――ヒュンッ。


風を切る音は、ひどく静かだった。

だが、次の瞬間、俺が振るった剣の軌跡に沿って、空間そのものが断裂したかのような現象が起きた。

不可視の斬撃が、前方の濃い霧を一直線に両断し、道を切り開く。そして、その線上を塞いでいたストーンゴーレムは、攻撃されたことに気づく間もなく、その巨大な胴体を、何の抵抗もなく、滑らかな断面と共に真っ二つにされていた。


「……おいおい、マジかよ」


俺自身の想像を遥かに超えた切れ味に、思わず乾いた笑いが漏れる。バルガスは、とんでもない怪物を作り上げてくれたらしい。


俺の一振りで、結界の要であったゴーレムが破壊され、立ち込めていた霧が嘘のように晴れていく。

目の前には、これまで歩いてきた森とは明らかに空気の違う、陽光に満ちた神々しい森――エルフの聖域『アルベンの森』が広がっていた。


だが、その美しい光景とは裏腹に、森の入り口には厳しい現実が待ち受けていた。

十数人のエルフたちが、弓に矢をつがえ、その鋭い切っ先を、まっすぐに俺たちへと向けている。


彼らのリーダーらしき、精悍な顔つきのエルフが、厳しい声で叫んだ。

「止まれ! 聖域への侵入は許さん! 何者だ!」


そして、彼の視線が俺の隣のエリアを捉え、驚きと、それ以上の侮蔑の色に染まった。

「……エリア!? なぜ追放者のお前がここにいる! しかも、穢れた人間を連れて!」


歓迎されざる客の到来。

エルフたちの冷たい敵意が、矢尻となって俺たちに突き刺さる。


俺は、動揺するエリアの前に一歩出ると、静かに口を開いた。

「こいつは俺の仲間だ。そして、俺たちはただ、里に用があるだけだ。道を開けてもらおうか」


俺の言葉に、エルフたちの緊張がさらに高まる。

一触即発。エルフの聖域を舞台にした、新たな戦いの火蓋が、今にも切って落とされようとしていた。

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