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2-10:魔女の居城

そろそろ書き溜めが尽きてきますので、もう少ししたら毎日更新ができなくなりそうですが、引き続き完結までは頑張って参ります。


これからもポンコツでほんわかしてる、チートお姫様をよろしくお願いします。

「シェルン、おうちに帰るのはあきらめましょう。」


 開口一番、少し前までは


「おうちに帰って、シェルンのお茶を戴きたいですわ。」

「このままではお夕飯が遅くなってしまいますわ。」

「こ、このままではお菓子を作っていただく時間が。」


 なんて食べる事ばかり言っていたお姫様が、突然帰宅を諦めた。



 ちなみに食欲魔人セラフィーナの為、シェルンは斥候から戻った後、離島からひとっとびし、カーランドにある街のひとつで、一通り飲食料を調達した。


 なおシェルンはフィルメリアにおいて、シェフィールドではカヤック村以外でお買い物はしていない。


 村のお爺ちゃん、お婆ちゃん相手ならいざ知らず、黒いゴシック調のメイド服を着た、可愛らしい少女。

 そんなのが頻繁にお買い物に来たらどう考えても目立つし、過去何度もナンパされて、とても困ったからである。


 ハイスペックで、苦労が絶えない侍女である。


 シェルンが帰ってくると、セラフィーナ即席のテーブルセットを魔法で作り上げ。


 なぜか優雅に、アフタヌーンティーを楽しんだ。


 無人島のど真ん中で。



 穏やかな物腰で、高貴なお姫様にしか見えないセラフィーナが、イメージぶち壊しとしか思えない発言をする姿に、苦笑する少女二人と、あっけにとられるミリエラの侍女。



 もちろん侍女とか身分がどうというのは関係なく、お茶とお菓子は四人で仲良くテーブルを囲み、皆で楽しく頂いた。


 ミリエラと再会し、恩人と共にテーブルを囲めるという、夢の様なひと時。


 シェリーヌに襲われ、一度は恐怖に心が染まった。


 そんなレアニールにとって、とても幸せで贅沢な瞬間だった。



 きっとお嬢様もこうして、優しくしてもらえて。


 心の中で、自分をとお嬢様を救ってくれた、高貴だけれどどこか不思議なお姫様に礼を言い。


 それに気付いたかのように、優しい微笑をこちらに向けるセラフィーナに、感謝ばかりが募る。



 なお、魔法でテーブルセットを作るという人外の所業は、さすがにミリエラも少し驚いたが。


 なんか昨日今日という短い間で、


「まぁ、セラフィーナ様ですからね。」


 なんて、すっかり染まっていた。もちろんレアニールは驚きすぎて、完全に固まっていた。



 なお、気絶したままのシェリーヌが目覚めることはなく、そもそも起きられると面倒なので、シェルンが連行するときに、解除するまで目が覚めない魔法をかけている。



 セラフィーナも、ミリエラを助けるときに使った魔法。


 表向き、人を眠らせる魔法。


 実際は対象の時間、存在そのものの活動を止めて休止状態にするという、セラフィーナのお伽話で、いにしえの邪神と呼ばれた何かを、封印したアレの、超劣化版。



 対象の時に干渉するような、常軌を逸した。




 ―― 話は帰宅を諦めた時に戻り。


「セラ様がおうちに帰らないとなると、この後のご予定はどうするのですか?」


 シェルンは今夜、おうちに帰って休む予定はない。


 ミリエラにもレアニールにも伝えてないので二人は知らないが、彼女はまだ任務中だ。



「まだ早いかとも思っていましたが、ちょうど出そうと思っていました膿が近いようですので。


 今夜、城を建てようと思いますの。」


 セラフィーナの言葉に首を傾げるのはレアニール。


 城?建てる?今夜??


 レアニールは書簡の事を知らないし、セラフィーナがいにしえの魔女だなどという事も知らない。


 現在進行形のシェフィールドの問題、そこから発展する国家転覆計画も知らない。

 もっともこれはミリエラに上申した時、ミリエラの推測を聞きはしているのだが、今のところ話は繋がらない。



「分かりました。ではセラ様はそちらの対応ですね。私は予定通り、シェフィールドの仕込みを。」



 そんな、何も知らない状況のため、セラ様とシェルンの話を聞きながら、テーブルに着いた四人の中で、一人だけ困惑するレアニール。


「あ、あの。話がよくわからなくて。」


 さすがに先ほどから何も分からず、つい聞いてしまう。


「あら、そうですわね。ごめんなさいね。どう説明すればよろしいかしら。えっと・・・」


 不安そうに自分を見つめるレアニールに軽く謝り、セラフィーナはミリエラを見て。


「書簡のこととわたくしの事。それとこの国の状況。よろしければミリエラさんから、レアニールさんにお伝え頂きたいのですが、お願いできますか?」


 とりあえず丸投げしておく。


 これは流石にミリエラも困った。


 だってこの島で聞いた、セラフィーナ様の事は。


 昨日聞いた、災厄の魔女というその事実でさえ。



 決して本人以外の口から人に言えるような事ではないし、なにより簡単に信じられるような内容でもない。



「その、セラフィーナ様の事をお伝えするのは・・・」


 その様子を見て、気付く。


(セラ様、ミリエラ様には?)


(はい、わたくしのあらましはお伝えしましたわ。また泣かせてしまいました。)


(そうですか。ミリエラ様、お優しいですから。分かりました。私も伝わってると認識して対応します。)


(お願いしますわ。それと貴女の事は、一切お伝えしておりません。ミリエラさんのお気持ちにも寄りますが。


 あなたの事は、ご自身で判断してお伝えくださいね。)


(はい、セラ様がお認めであれば。

 私もミリエラ様を信じておりますので。)


 ミリエラの言葉に、すこし思案顔になって。裏でシェルンとお話をしつつ。



「そうですわね。ミリエラさんが大切にされている方です。


 ミリエラさんが伝えても良いと思ったことを、心のままにお伝え頂ければ、それでよろしいかと。」


 丸投げ・・・ではあるけれど。


 やっぱり私の心を、今はレアニールの心も。この方は、必ず誰かの気持ちを第一に考えていて。


 自分の事が伝えられて恐れられるかもしれないとか、私をセラフィーナ様から遠ざけようとしないだろうかとか、状況が悪くなるかもしれないとか。



 そんなことは、まるで考えてなくて。



 また一つ、心遣いに気付き。

 またひとつ、暖かい気持ちになる。


 人がみんな、こんな風になれるなら。



 それはどんなに、素敵な事なんだろう。




 ―― それからしばらくして。


 ミリエラの説明を聞いていたレアニールは半信半疑といった様子だが、さすがにシェルンにここまで空輸されたので、はなから否定するという事は無かった。


「その、まだ実感が湧かないと言いますか。助けて頂きましたし。偽装誘拐は驚きましたが。」


 凄い力があるという事は分かったが、かの恐怖の魔女、というのはどうにも信じられないようだった。

 まあそれはそれ。きっともうすぐ、嫌でも分かるはず。

 何しろ魔法建築なんていう、ばかげたことをもうすぐ実施するのだから。


「それで、ミリエラさんには、少しお願いがありますの。」


「あ、はい。私にできる事でしたら。」


 セラフィーナからのお願い。


 今のミリエラにとっては、できる事なら絶対に叶えてあげたい。そう思っていたが。


「お城を建てましたら、ミリエラさんにはちょっとの間、牢屋に入っていただけないかと思いまして。」

「牢屋!?そ、それってどういうことです!あの、セラフィーナ様?お嬢様が一体何をしたと」

「待ってレアニール。すみませんセラフィーナ様。レアニールにも分かるように、ちゃんとご説明をお願いします。」


 セラフィーナもシェルンも、なんとなく傾向として。


 理由を述べずに、目的を言わずに。


 なんか先に、やることだけを伝えてくるから。


 色々、勘違いされやすくて。


(こういうところは、主従揃ってポンコツなのかな?)



「ミリエラさん?何か今失礼なこと考えませんでした?」

「私も何かそんな気がしたんですけど?ミリエラ様?」


(どうしてそういう所は鋭いんですかー!)




 ―― 色々あったりもしたが、とりあえず説明して。


「ですのでミリエラさんは牢に入って頂き、魔女はお出かけ中、と思わせたいのですわ。」


 魔女がいないという状況で、騎士団の者たちが。いや、救えない魂を持つものがどう動くか。


 半年間、セラフィーナとシェルンはフィルメリア国内を巡り、市井の声をしっかりと集めていた。

 ひとえに、人懐こくて表裏がない・・・ように見える、シェルンの功績である。


 セラフィーナをこういった聞き込みに出してはいけない。


 いつでもお姫様スタイルなのでみんな恐縮して、とても市井の声など集められない。


 この情報収集の結果、王国の膿として特定した、ウィンストという男は、貴族主義に真向対立している、シェフィールド卿のことを目の敵にしているらしい。


 その男が来ていると気付いたセラフィーナは、即興でトラップを仕掛けることにしたのである。


 おそらくシェフィールド卿の娘がいて、魔女がいない。


 この男はそんな状況になれば、何かしらのアクションを起こすだろうという、アバウトな計画である。

 もともとは騎士団を動かし、シェフィールドの現状を見てもらう算段ではあったが。


 膿そのものが来たのであれば、決定的な証拠を掴むチャンスでもある。


 もしもあの男がなにかしらよからぬ動きを見せれば、そこをこっそりお手紙の魔法で記録に残して。


 またアセリア姫宛で送りつけるという計画である。


「うまくアセリア様に、あの男の悪事をお見せできれば良いのですが。」

「セラ様の計画ですからね~。意外と何も起きずに、ミリエラさんが救出されちゃうだけかもですね。」


 能天気に構えている二人だったが。


 この作戦がミリエラに一時の悪夢を見せてしまう事は。


 そしてあの男が、セラフィーナの逆鱗に触れるほどの愚か者だったという事は。



 さすがのセラフィーナも、この時は知る由もなかった。



 一通り今夜の予定について説明が終わり、あたりも暗くなり始めたころ。


「では、行ってまいります。」


 これからまた、ひとりで領都に向かうシェルンが挨拶する。


「ミリエラ様、レアニールさん。セラ様をお願いしますね。」

「シェルン?何か逆ですわ!おかしいですわっ!」

「おまかせください。シェルンさんも、お気をつけて。」

「え、えっとその。お気をつけて。」


 なんだか恒例となりそうなやり取りをして。


「もし現場を抑えてお手紙魔法に出来たら、ちゃんと王宮に届けてくださいね。私は待たなくていいですからね。」


 シェルンは一言告げると、また飛んで行った。


 反乱を未然に防ぐため、シェルンは今夜、シェフィールド領都全域に仕掛けられている思考誘導魔法陣を、片っ端から潰していく予定である。


 この魔法陣のお陰でシェフィールドの問題は、王都に届くことが無かった。


 人々の深層心理、無意識に作用して。


 街から出るということを、考えられないようにして。


 街を出ようとしたものはいないはずなのに。なぜか処刑されたという事になっていて。


 外からの人間には、決して実情を話してはいけないと、思いこませて。

 そしてそれらの原因は、シェフィールド卿を操ることで用意した、領主の悪政と結論づけさせる。


 今年に入ってから重税と共に起動された、街を、シェフィールド領を覆う暗雲である。



 ただコレの存在があったからこそ、事が発覚した。


 セラフィーナとシェルンは、魔法陣の設置事態はほぼ終わっていた数か月前に訪れ、シェフィールドの異常に気付き、調査を開始したのである。



 皮肉なものである。



 問題はコレを先につぶしてしまうと、これを仕込んだ者たちに逃げられる可能性がある事。

 そして最悪の場合即悪夢に発展する、そんな悪辣な仕掛けが、この魔法陣に施されていた事。


 この二つが解決できなければ、セラフィーナが持つ強大な力に頼らざるを得なかった。

 このお姫様は目立ちまくる姿のくせに、できれば表舞台には出たくないので、それは最後の手段である。



 そしてレアニールの救出時、シェリーヌとの戦闘中に暗躍者達のアジトは特定できた。

 監視用の魔力視、遠距離から魔力の動きを見るために構築された監視網により、戦闘を監視されていることに気付いたシェルンは、それを構築する魔力の流れを、あの戦闘中に全て解析していたのである。


 セラフィーナ程ではないが、彼女も大概バケモノである。



 全てを解析した結果、アジトは領主邸からほど近い建物。

 ならばそこを強襲し、逃亡を阻止し、悪夢のトリガーを無効化してから魔法陣を潰していく。



 シェルンの予定はだいたいこんな感じである。ほんとうにあの戦闘が監視されていたことは、渡りに船だった。



 今夜の強襲は、シェリーヌとの戦闘から相手組織の力量を推し量り、シェルン単騎でもおそらく相手にならない。


 という判断である。


 ちなみにその判断は正しく、魔女の眷属・・・いや聖王国王女の、唯一無二の永遠の臣下は、セラフィーナを除き互角にやり合える存在など、この時代にはほぼいない。


 少なくともそのレベルの者とは、百年単位で出会っていない。


 レアニールを助けた時も全力を出していないどころか、セラフィーナから借り受けた魔力を一切開放していない状態の、3割の力も出してない。


 この判断、結果的には問題無いのだが。


 シェルンもまだこの時は、まさか今夜、二次解放まで使う事になるなんて、思いもしなかった。




 ―― 岬先端部。夜間調査班。


「今日も特に変わったところはないな、無駄足か。」

「昨日となんも違わないな。やっぱりフェイクだろ?」

「重要性は分かるが、全く結果が変わらないのは辛いな。」


 ホルン岬の先端部、小高い丘の上の調査を、今夜も実施している第二大隊一班の兵士たちは、既にかなりやる気がなくなっていた。


 それはそうだ。


 昨夜から夜通しで、さらに昼まで調査して何もなし。

 昼から仮眠をとって、また夜になったら調査。

 何かあるならまだしも、何もない状態でこの任務は、主に精神的な面で兵たちにはとてもキツい。



 魔獣討伐の任務であれば、命の危険があるとはいえ、やることは分かっているし、完了の目途もつく。


 だがこの任務、そもそも魔女の居城探しなどという荒唐無稽な話を、騎士団長を介して陛下直々の指令として実施しているというこの任務。


 兵士たちにとってあまりにも意味が分からないこの任務には、皆内心辟易していた。

 しかし彼らは、それでも栄えあるフィルメリア王国騎士団に所属する兵士である。

 ウィンストの子飼いが上司とはいえ、別にその恩恵を受けるでもない普通の兵士である。


 文句を言いつつもその手を止めることはなく、しっかりと調査は続けていく。


 そうしてそろそろ夜も更け、月が美しく輝く頃。


 丘の上、本来であれば城があるはずの場所を、明るい満月の光を頼りに入念に調査する兵士たちが。

 魔法陣や魔石、マジックアイテムといった、何かしらの手がかりはないかと、疲弊した心と体にムチ打ち、頑張って探していた兵士たちが。


 突然一斉に弾き飛ばされた。罪もないのに。


「な、なんだこれは!?」

「だれか!本部に!隊長に伝えろ!急げ!!」


 大混乱になった者たちの目の前で、彼等を弾き飛ばし、突如展開されたのは魔法陣。


 直径100メートルはあろうかという巨大な魔法陣が、岬の先端部にある丘の中心に展開される。


 展開直後、その上空へもうひとつの魔法陣が展開され、それは地上の魔法陣と繋がり。


 円柱状に結界のように外界と内部を断絶すると、そこに大量の魔力が流れ込み、徐々に何かが物質化されていく。


 数分の後役割を終え、魔法陣が消滅したそこには、巨大な、高さ50メートルほどにもなる。



 立派な城が、聳え立っていた。



 その城は。


 夜、岬の先端に突如現れた魔女の所業と思われる。



 巨大で立派な城は。




 ―― そこからちょっと離れた、離島の上。


「あ、あのー、セラフィーナ様?あれって。」

「もちろん、わたくしの建てたお城ですわよ。そう見えません?」


 魔力を物質化し城を建てるなどという、人知を超えた恐ろしい所業・・・なんて既にミリエラにはどうでもよくて。


「いえ、そうじゃなくてですね。仮にも私を攫った、魔女の居城なんですよね?」


「そうですわ。魔王城とか、魔女の居城。


 岬の先端とか、切り立った断崖とかに建っているのが様式美だと思いません?」


(このお姫様は、いったい何を言っているんだろう。)


「いえ、分かりますというか。分かりませんというか。場所はそこそこ合ってるとは思いますが。


 アレでいいんですか?」


「もちろんですわ。とても素敵だと思いますが、如何でしょう?」

「それは、とても素敵ですが。」


(アレでいいんだ。)


「お嬢様。セラフィーナ様ってその、いつもこのような感じなのでしょうか?」


「そうなんです。まあ、アレがセラフィーナ様の趣味ということは、私も納得なのですが。」


「あ、あの。わたくし何か間違えましたかしら?とても立派で、見事なお城ができたと思うのですが。」



 離島の上で、その城の威容を眺める三人は一人を除き、何とも言えない顔になっていた。


 セラフィーナの建てた、魔女の居城。


 貴族令嬢を攫い、王女の身を要求してきた、悪の魔女。



 その居城は・・・



 雨も暗雲も雷もない、月が綺麗な明るい夜の中。



 白亜の大理石の如き美しい純白の壁面に、ピンク色の瓦で構成された、尖った屋根を複数持ち。



 月明りに照らされ、白く、美しく輝く。




 メルヘンチックで少女趣味な。


 とてもとてもかわいらしい。



 そんな、見事なお城だった。

セラ様がどんどんぽんこつになっていく気がしてなりません。

アセリア様、まだ出番がないけど、ちゃんとしたお姫様をしてくれるんだろうか・・・

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