77.殺意高くないですか?
ダークエルフとは、耳長族の中でも少し変わり種で、少し黒い肌とハイエルフやエルフよりも短い耳を持つのが特徴的だとAOLの設定ではあったはずだ。
目の前にいるバンナさんも確かに少し肌は黒いが、耳は普通に見えた。
それに、彼女は武器を扱うよりも、魔法のほうが優れているステータスだった。
――バンナさん自身もそう言ってたし、間違いはないだろうけど……。
そうなると、少し疑問がある。
ハイエルフやエルフが魔法に長けているのに対し、ダークエルフは魔法が少し苦手なため武器を扱うと聞いたことがある。
――ダークエルフの情報って公式だったと思うけど、AOLとは違うのかなぁ。
多少弓は扱うことはできるみたいだけど、向かい合って立つバンナさんの手には弓じゃなくて、当然のように短いロッドが握られていた。
まぁそりゃそうか。
「それでは始めましょうか。先ほどお伝えした通り、私は魔法を使って戦います。ソーコさんは剣でよろしいですか?」
「はい。剣で大丈夫ですけど、この模擬戦闘って剣を選択したらそれ以外の攻撃はしちゃいけないんですかね?」
「いえ、魔法でしたり体術でしたり、持てる力を出していただいて構いません。私は魔法しかほとんど扱えないので……ソーコさんは他にも何か扱って戦うことができるのですか?」
「そうですね。一応魔法もできますし、体術なんかもできないことはないです。でも、やっぱり好きなのは剣なので、メインとしてはそれで戦おうと思います」
「わかりました。では、さっそく始めましょう」
僕は訓練用の木剣を手にし、どう戦おうかと考える。
バンナさんは魔法一辺倒で攻撃してくるだろうし、レベル差もあってまともにやりあうことはできそうにない。
そうなると、やっぱりちょっと特殊な戦い方をしないとすぐやられちゃうな。
「あのー、すみません」
「はい、なんでしょう?」
「もう1本、木剣を使ってもいいですか?」
僕は先ほどと同じ木剣をもう1本手に取って、バンナさんに確認した。
「剣を2本、ですか……ええ、構いません。どうぞお使いください」
「ありがとうございます」
バンナさんの許可を得た僕は、双剣スタイルで模擬戦闘を行うことにしたのだった。
「うん、いつでも大丈夫です」
「わかりました。合図をお願いします」
「は、はい! それでは――始め!」
バンナさんに促された受付嬢が始まりの合図を出すと、
「――《氷矢》」
さっそく《氷矢》を創り出して、それを僕に向けて飛ばした。
これは水風混合の魔法で、以前リリスがエリーさんと試験を行った際に放った《氷槍》の1つ下である下級魔法だ。
ギルド長なだけあって、これくらいなら無詠唱でできるみたいだ。
――おっと。
そんなことを考えていると、すぐ目の前まで《氷矢》が迫っていた。
「ほいっ、と」
パキンッっという音とともに、バンナさんの放った《氷矢》は、僕の目の前で砕け散った。
「――!」
なんてことはない、この木剣2本でタイミングよくパリィしただけのことだ。
双剣術クラスの防御重視で戦うときには必須ともいえるプレイヤースキルで、こんな程度の魔法だったら目をつぶってても簡単に僕ならパリィできちゃうね!
やらないけどね!
「驚きました……避けるでもなく、真正面から剣で砕かれたのは初めてです。この時点でソーコさんには十分な力があるのはわかりますが、正直な話もっとあなたのことを知りたくなってきたので、このまま続けさせてもらいます」
「えっ」
僕としては、バンナさん的に合格ならこのまま終わってほしかったけど、《氷矢》をパリィしたことでますます興味を引いちゃったみたいだ。
「それでは、もう少し強力な魔法を使わせていただきます。――《炎槍》」
《炎槍》は《火矢》と同じ中級火属性魔法だけど、その大きさと強さは段違いだ。
それも無詠唱でできるってことは、かなりバンナさんはこの世界では優秀な魔法使いなはずだ。
まっ、僕たちからすれば普通なんだけどね。
「《水盾》」
僕の創り出した《水盾》に、《炎槍》はジュウウウッという音とともに消火されていった。
「《双飛閃》」
「――っ! 《土壁》っ!」
バンナさんを守るように盛り上がった《土壁》に、僕の放った斬撃が吸収される。
使ってる武器は木剣だし、まだレベル差もあることからこればかりはしかたない。
だけど、そのすきに僕は彼女との距離を詰める。
「《土剣山》――!」
すると、僕の足元の土が変化していく。
すぐさま思い切りジャンプして躱すと、地面の土が変形して、下から突き上げる針のようなものが何本もできあがった。
――いや、これ……模擬戦闘にしては殺意高くないですか?
それを避けると踏んで魔法を使ってるのかもしれないけど、万が一を考えたら危ないからね!
そして、下を見ると僕がジャンプしたのを予測していたかのように、《土壁》の向こう側で、バンナさんが《氷槍》の準備をして狙いを定めていた。
「これはどうでしょう?」
落下する僕に目掛けて放たれる《氷槍》。
うん、それ普通ならデスコンボだからね?
僕は手に持った木剣を両方とも逆手に持ち、
「――《双落月》」
向かってくる《氷槍》、そしてその下にある《土壁》ごと斬り壊し、バンナさんの目の前に着地した。
「こんな感じでどうです?」
僕の言葉にバンナさんは一瞬驚いた顔をし、
「ふふっ、完敗ですね」
と、なぜか少し嬉しそうに笑って負けを認めたのだった。
新しく投稿を始めました!
『アラサーから始まる異世界無双ライフ 〜スキル『シャドウマスター』は最強でした〜』
https://ncode.syosetu.com/n7861jt/
チートスキルを授かうも役に立たず、おっさんになってから覚醒する物語です!
本日複数話投稿するので、ぜひ読んでみてください!




