第1章 目覚めの時
光が見えた。
暗闇から光が差してきたようだ。
それ自分の感覚が徐々に戻りつつあるのを感じた。
あまり広くない部屋に円筒形のカプセルが鎮座している。その周囲には円筒形の器具を制御するであろう機器が並んでいる。床には太い配線ケーブルが所狭しに這い巡らせている。明らかにカプセルを制御するものであろう。
部屋は近代的というか無機質で温かみが一切ない研究所や病院の施設のように見える。その部屋全体は薄く発行している青暗い光に選らされている。
ただ、カプセルの中のそれの反応に答えるかのようにじわじわと光が強くなっている。カプセル内の白色灯も耀度を増しているように見える。この部屋のシステムが徐々に回復している証拠でないだろうか。 現在この部屋に生命反応は無い。システム自体も戸惑っているようだ。ただそれに動きがある事は分かる。
ゆっくりとしかし確かにそれは己の存在を誇示し始めていた。
カプセルに注入されていた液体がゆっくりと排出され、すでにそれの胸あたりまで水面は下がっていた。おもむろにそれは両目を広げた。片目が血のように赤く澄んだ瞳がしっかりと天空を見据えていた。もう片方の瞳は金色に輝き、一見無機質な物体のように見える。
カプセル内の液体も少なくなり、全裸のそれが肉体年齢的に少年である事が分かった。傷一つなくシミも黒子もシミさえも無い美しい肢体だ。中肉中背で無駄な肉は一切ついていない。髪は黒く長く伸び放題だった。明らかに長期間カプセルの中に保存されていた事が分かる。
彼はカプセルのふたを強引に手で空けて、頭を抱えている。記憶に何らかの障害があるのだろう。
「こ……こは?」
まだちゃんと発声出来ていないようで、上手く喋ることができないようだ。何度か咳をして肺に溜まっていた水を吐き出す。それから喉を鳴らして声を確かめている。そうしながらも彼は周囲の確認を行っていた。自分の置かれている立場を必死に思い出そうとしているようだ。
「そうだ。俺は事故で……。でも、ここはどこだ? 病院か?」
朧げな記憶を手繰るように想いを巡らせた。
「あぁ、仕事帰りにトラックに轢かれて……。でも、ここは? 病院か?」
徐々に彼の意識も鮮明になり、何があったのかを思い出す事が出来ているようだ。彼の最後の記憶は迫りくるトラックの姿だった。その前に何をしていたのかは、まだはっきりと思い出す事ができない。
「しかし、トラックって……。異世界転生でもしてたらどうしよう? いや、ラノベの読みすぎだな」
ある程度自由に身体を動かくすことができる様になったので、辺りを散策することにした。まずは、全裸を何とかしなくてはならない。この部屋にはあまり物はなく幾つかのロッカーと机と椅子があるくらいだ。元々、治療用の部屋だからだろう。
ロッカーを開けてみると私服が畳まれて入っていた。彼のものだろう。下着と黒いシャツ、それに黒い背広だ。なぜか白衣も一緒にある。かつての自分は黒が好きだったんだなと他人事のように思ってしまっていた。何気なくロッカーの扉についていた鏡を見てみた。明らかに若い。10代後半くらいの姿だ。かすかに蘇る自分の姿と違う気がして、違和感となぜだか焦燥感が込み上げてくる。
仕方なく置かれていた服を着た。少し彼には大きいようだ。全裸でいるよりはましだ。贅沢は言えないなと彼は自分に言い聞かせた。それから机を調べてみた。カルテでもあればめっけものだ。残念ながら彼に関する情報らしきものは全く無かった。机の一番下の引き出しを開けようとしたが、鍵がかかっているようだ。
軽く引いても動かない。彼は少しだけ力を入れて引いてみた。あっけなく開いた。彼自身がびっくりしたくらいだ。経年劣化で鍵が錆びていたのかも知れないと自分に納得させた。
引き出しの中には黒いアタッシュケースが入っていた。引き出しとほぼ同じ大きさなので、結構大きなアタッシュケースだ。何とか取り出して机の上に置く。アタッシュケースには鍵は掛かっていないようで、すぐに開けることができた。しかし、中に入っていた物をみて一瞬固まってしまう。
そこには警棒の様な筒と銃が入っていたのである。それとメモらしきものも添えられている。物騒な物を触る前にメモを取り読んでみた。
『幼き君へ。これは君の物だ。使い方は別紙に記載しておく。くれぐれも運命に負けないように頑張り給え。ただし、これらはあくまでも仮の物だと忘れないように』
一歩的に偉そうなメッセージだなと彼は感じていた。どうせならもう少し詳しくこの状況を説明してくれればいいのにと。文句を言っても仕方ないので有難く頂くこととした。オートマチック拳銃に見えていた銃には弾倉が無かった。弾倉を取り出すボタンも無いのだ。
説明ではある条件で無限に銃弾が撃てるらしい。そのある条件については記載されていなかった。彼の記憶が戻れば分かるらしい。弾切れの事もあるのでちゃんと条件は記載して欲しかったと彼は切に思った。警棒の様な棒は柄の部分のスイッチを押すと光子で出来た光の剣が50㎝くらい出るらしい。フォトンソードというものだろう。基本的に何でも焼き切るらしい。うっかり刃の部分に触れると相当危険とのことだ。
銃といい光子剣といいあまりにも危険すぎるだろう。それより彼はこんな技術を知らない。記憶にないだけなのか、未知の技術なのか分からないのが不安だった。
「光剣に魔銃か。変な名前だな」
何気なく説明書に記載されていた名前を呟いていた。他にも何か目ぼしいものが無いかしばらく物色してみた。この部屋にはこれ以上何もなさそうだ。入院していたのだったらカルテとか名札とかありそうなものなのだが、何も見つからない。
(そう言えば、俺の名前は何なんだ? それに住所や過去の事が全く思い出せない)
彼は心の中で問いただした。しかし、分からないものは分からない。今はこの場所を探索するしかないだろうと考えることとした。そして彼は唯一あった部屋の扉を開いた。1歩廊下に出ると薄明かりが差しているだけで、あまり視界が良いとは言えない。医療施設なら危険も少ないだろうと彼は勝手に判断して、廊下を進むこととした。
どこかにあるはずの施設の案内図をまずは見つけるつもりのようだ。勘で何となく方向を決めてゆっくりと歩いていた。念のために銃を握っている。いまいち使い方がよく分からない武器だが無いよりはましだと思っているようだ。
廊下や各部屋の様子を見る限り長い間放置されていた施設の様だ。では、なぜ彼の部屋は機能していたのだろう。重要施設だったのかも知れない。ゆっくりと時間をかけて施設を調べたが、これといって問題のありそうなものは無かった。ただ、彼はある違和感を覚えていた。外の景色を見るための窓が全く無いのだ。トイレや他の設備の部屋にも窓らしきものは無い。
明らかに封鎖されている施設だ。階段やエレベータもあったが今は上がらないようにする。まずはこのフロアを調べるのが先決だと判断した。
散策途中に明らかにおかしな扉を見つけた。分厚い扉にまるで銀行の巨大金庫のようなセキュリティ棒があり、ハンドル型の開閉器と認証用パネルが設置されている。医療機関にしてはあまりにも厳重だ。慌てて何かを隠していたかのようだ。彼はハンドルを回そうとしてみたがビクともしない。もちろん扉は押しても引いても開かない。
試しに認証パネルに掌を載せてみた。ただの入院患者にそのような権限があるはずがないが、彼としても何となくだったのだろう。
『セキュリティレベル10を確認しました。ロックを解除します』
あっけにとられている彼をよそにセキュリティ用の棒が収納され、ハンドル型開閉器が自動で回転を始めた。しばらくすると巨大な円形の分厚い扉がゆっくりと開き始めた。中からは冷たく冷えた空気が流れ出てくる。真空だった訳ではなさそうだ。
扉が解放され、誘われる様に彼は中に進んだ




