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ダンジョン配信で指示厨してたら師匠になってた。  作者: 指示厨


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14/22

進歩と方向性

 焼肉弁当で満たされた腹を撫でながら、アキトはセンター前の階段を降りた。

 胸の奥に、まだじんわりとした温かさが残っている。

(六十七万五千円……

 俺の人生で、こんな金額を稼いだのは初めてだ)

 ふと、職員の説明を思い出す。

 《“概念結晶”は素材としてもっとも価値があります。

 魔導技術、武器の核、精神安定剤、強化薬……用途は多岐にわたりますよ》

 概念結晶──。

 ダンジョンの“現象”そのものが固まったもの。

 職員が言っていた用途の一部が頭の中で整理されていく。


 ■【概念結晶の用途】

 ・武器職人が“属性武器”の中枢に組み込む

 ・魔導研究所が能力強化薬の材料にする

 ・精神安定系の医療機関が高級薬剤として利用

 ・富裕層がコレクションとして買い漁る

 ・国家機関が“層管理技術”として研究対象にする

 ・探索者の“特殊スキル覚醒”の触媒となることもある





(……そんなすごいモノを、俺が倒して手に入れた?)

 ようやく、第三者の視点で重みが理解できた気がした。

 自分が戦った相手は、“ただの大きな敵”なんかじゃない。

 第二層という世界を支える“現象の象徴”そのもの。

(概念……それを倒すって……とんでもないことだったんだな)

 胸の奥の実感が少しずつ現実へと変わっていく。





 ◆

 アパートへ戻る途中、アキトは自然と“配信”のことを考え始めていた。

(今日、配信どうしよう……

 俺、第二層を突破した……これは絶対報告したほうがいい……)

 彼の配信《D-View》は、スマホと《H-Streamヘルメット》を介して完全連動している。



 ■【配信の仕組み】

 ・ヘルメット前面に広角レンズ。

 ・側頭部にマイク(呼吸音・装備音のみ拾う設定)。

 ・視界端にコメント表示(HUD型)。

 ・スマホの高帯域通信を使い、遅延0.3秒。

 ・視聴者はアキト視点の映像で“疑似ダイブ感”を味わえる。

 ・AI補正で手ブレや暗闇を最適化する。




(……でも機材が少し古いよな)

 ヘルメットは中古品だ。

 暗所補正が甘く、通信帯域も何度か落ちたことがある。

(機材アップグレード……これも“強くなる”の一部だよな)

 金があるとは、選択肢が増えるということだった。




 ◆

 アパートへ戻ると、まず机の上に新しい封筒を置いた。

 六十七万五千円がそこにあるだけで、部屋の空気が少し違って見えた。

 そのままアキトは床に座り込み、部屋を見渡した。

(この部屋……狭いけど、俺が“強くなるための場所”なんだよな)

 昨日まで散らかり放題だったのが嘘のように、

 今日は意識が勝手に“改善”へ向いている。

 ゴミを片付け、服を畳み、床を拭き、

 机の上には配信機材のメモを貼る。

 ・《H-Stream:第3世代モデル 9万円》

 ・《低遅延ポータブル中継機:12万円》

 ・《暗視補正レンズ:38,000円》

 ・《胸部カメラ補助:24,000円》

(……意外と高い)

 だがアキトは笑った。

(でも今の俺なら……買える)

 金があるという自覚が、彼を確実に前向きへ押し出していく。





 ◆

 夕方、アキトは装備店へ向かった。

「おっ、兄ちゃん。昨日の配信見たぞ。

 第二層突破、おめでとう!」

 店員が満面の笑みで迎えてくれる。

 以前はただの“新人”として扱われていたのに、今日は違う。

「今日は武器と防具の新調ですか?」

「……はい。強くなりたくて」

「その気持ちが一番大事だ。

 番人倒したなら、コレだな」

 店員が差し出したのは、アキトが以前から憧れていた武器。

 《ソル・ナイフ:軽量高鋭度。衝撃吸収構造付き》

 手に取ると、重心が手のひらに吸い付くように中心へ収まった。

「……すごい……」

「それ、正規品は12万だぞ。

 でも兄ちゃんには割引きして11万にしてやる」

(……高い。でも……)

 アキトは迷わなかった。

「買います」

「よっしゃ! 兄ちゃん、いい目してる!」

 次に防具。

 《コンポジット・ライトジャケット》

 軽量で、衝撃を拡散する繊維素材。

 肉体強化スキルがなくても、打撃を数割カットしてくれる。

「これは……?」

「兄ちゃんのビルドに一番合ってる。

 軽装前提の回避型だろ?」

「……分かるんですか?」

「第二層番人をツインダガーで倒したんだ。

 どう考えても“回避・精度型”だよ」

 まるでアキトのステータス表を見たかのように言い当てられ、

 胸がじんと熱くなった。

 値段は七万八千円。

 高い。普通なら絶対買わない。

 だが──

(俺は……逃げないために強くなるんだ。

 必要なら、金を使う)

「これもお願いします」

「兄ちゃん……マジで覚悟キマってるな。

 気に入ったぜ!」






 ◆

 帰り道。

 武器11万、防具7.8万。

 合計18万8千円。

 それでも手元に40万以上残っている。

(生活にも……配信にも使える……

 ヤバい……俺……一気に世界が変わった……)

 胸が熱くなる。

 武器を握ると、自然と姿勢が整った。

(俺、変わり始めたんだ……)






 ◆

 アパートへ戻り、武器を机に置いたそのとき、スマホが震えた。

 《装備は整ったか》

 師匠だった。

「はい。武器も防具も……買いました」

 《金の使い方は悪くない。

 お前のビルドに合っている》

(……ビルド……)

 アキトは返す。

「師匠……

 俺のステータスって、どう活かせばいいんですか?」

 数秒の後、文字が表示された。

 《AGI:B+

 DEX:B

 PER:B

 ──“見切り型”だ》

(見切り型……?)

 《避ける。狙う。刺す。

 その三つで勝てるタイプだ》

(避ける……狙う……刺す……)

 その言葉は、昨日の戦いのすべてを言語化したようで胸が震えた。

 《明日からは第三層対策に入る。

 視界を奪われても、体が動くようにしろ》

 アキトは拳を握った。

「……分かりました。

 俺……もっと強くなります」

 《知っている。だから言っている》

 短い文字なのに、妙に温かい。

 師匠の言葉はいつも核心だけを突く。

(俺は……強くなる)

 そう思える自分が、今は誇らしかった。



 訓練を終えた頃には、部屋の空気がすっかり蒸していた。

 狭いワンルームの真ん中でステップを繰り返し、

 鏡の前でダガーの軌道を確かめ、

 視界を閉じたまま重心移動の練習を何度も繰り返した。

(……第三層は、視覚が信用できない層。

 だったら、目に頼らない戦い方を身体で覚えるしかない)

 額から落ちる汗が床にぽたぽたと落ちる。

 息は荒いのに、身体の奥には不思議な“軽さ”があった。

(昨日の俺より、今日の俺のほうがちゃんと動けてる。

 少しずつだけど、前に進んでる)

 そう実感した瞬間だった。

 机の上のスマホが、軽く震えた。

 画面には、おなじみの名前。

 《第三層に行く前に。

 まず部屋を整えろ》

「……え」

 まるで訓練直後のタイミングを読んだかのようなメッセージ。

 覗かれているわけではないと分かっているのに、

 ピンポイントで急所を突かれる感じがして、少し鳥肌が立った。

(……また当てられた。俺が今サボりそうなタイミング、読んでるよな)

 アキトは苦笑しながら返信を打つ。

「今、片付けています。

 訓練スペースもちゃんと作りました」

 《よし。

 環境を整えられないやつは伸びない》

 短い文字なのに、核心だけを突いてくる。

 その言葉が、自分の気持ちをまっすぐに整理してくれるようだった。

 アキトは立ち上がり、部屋を見渡した。

 布団は端に寄せ、床には一畳ほどの空間を空けた。

 武器ラック代わりのスチール棚にはツインダガーとメンテナンスオイル。

 机の上には配信機材のメモと、今日買ったばかりの軽装ジャケット。

(狭いけど……ここが俺の“土台”になるんだ)







 ◆

 机に戻ると、視界に“配信環境強化メモ”が入った。

 ・H-Streamヘルメット新型

 ・低遅延中継機

 ・暗視補正レンズ

 ・胸部カメラの補完ユニット

(第三層は暗い。通信も不安定……

 だったら、中継機と暗視レンズは必須だよな)

 金を使うことに躊躇がない自分に驚く。

 だが“強くなるための必要経費”と考えると自然に納得できた。

(これまでは生きるだけで精一杯だったけど……

 今の俺には、前に進むために使える金がある)

 六十七万五千円。

 人生で初めて、“未来を買うための金”を手に入れた。


 ふと、ステータス測定書が目に入った。

 AGI:B+

 DEX:B

 PER:B

 バランス良く見えて、どこか偏った数値。

 他の新人はSTRやVITに寄ることが多いのに、

 アキトは徹底的に“感覚型”だった。

(避ける、狙う、刺す……

 そういう戦い方が俺の生きる道なんだ)

 師匠が送ってきた言葉も思い出す。

 《見切り型。

 目じゃなく、感覚で戦う適性だ》

(俺は……俺の戦いをすればいいんだ)

 第二層番人を倒したときも、

 最後に勝敗を決めたのは“感覚”だった。

 視界の合間から影の軌跡を読み取る感覚──

 恐怖の中でも刃を叩き込めた感覚──

 あれは数字以上の“手応え”として確かに残っている。


 しばらく考え込んでいたアキトは、ふとスマホを手に取った。

(師匠……今、何してるんだろ)

 そんなことを思うのは初めてだった。

 第三層に挑む前夜。

 胸の奥がざわついて眠れない。

 戦いの緊張もあるし、期待も、恐怖もある。

 だから──指が自然に動いた。

「師匠……第三層、怖いです」

 送るかどうか、少し迷った。

 けれど、送った。

 既読がついたのは三秒後だった。

 《怖いのは当然だ。

 だが、“怖いまま進めるやつ”だけが強くなる》

 その一行に、胸が熱くなった。

「……俺、進みます。

 絶対に強くなりたいんです」

 《知っている。

 お前は才能ではなく“覚悟”で戦っている》

 アキトはスマホを胸元に抱えるようにして、深く息を吐いた。

(……どうしてこんなにも、師匠の言葉は刺さるんだろ)

 罵倒もする。

 無茶も言う。

 短文ばかり。

 それなのに、最も必要な瞬間に一番必要な言葉をくれる。

 第三層に行くのが怖かったはずなのに、

 今は“行きたい”気持ちが強くなっていた。



 ベッドに倒れ込み、天井を見つめる。

 静かな夜が、逆に心を落ち着かせる。

(明日……行くんだ。

 俺はもう、ただの引きこもりじゃない)

 ツインダガー、軽装ジャケット、アップグレード予定の配信機材。

 整えた環境。

 磨かれ始めた感覚。

 そして──師匠の存在。

(俺は俺の足で……この世界を登っていく)

 目を閉じながら、アキトは静かに呟いた。

「絶対に……第三層を越える」

 その声は小さく、

 しかし、どんな観客よりも大きく自分の胸に響いた。

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