魔王軍総防衛戦力わずか二名(魔王と鬼の副官含む)
「なんだか騒がしくなっているようですね、魔王さま」
ルシフェルが骨蛇の頭から飛び降り、俺の横に立つ。
「ああ……どうやら俺は犯罪人で国に追われているらしい。で、あいつは黒幕の手下。あの魔族どもは――魔王の右腕なんだそうだ」
「傑作ですね!」
ルシフェルが教会中に響くような声で笑った。
ルシフェルにぶっ飛ばされた大男と骨蛇がよろよろと身を起こす。
「オマエラ……ブッコロス……!」
「切リ刻ンデヤル……人間……!」
全身から怒りを漂わせた異形が俺たちを見た。
その瞬間――
怒りの気配が消えた。
「ア、アアアアア……!」
大男が絶望的な声をあげて手からハンマーを落とした。
骨蛇の腕が糸でも切れたかのようにくたりと下を向く。
二人の顔は一直線にルシフェルを見ていた。
「副官ドノ……!」
骨蛇があえぐように吐き出す。
「おやおや。わたしのことは覚えていてくれたのですか?」
ルシフェルの余裕の声。
それに対して大男と骨蛇はがたがたと震えている。
「よりにもよって魔王さまの右腕ですか。あなた方のようなザコ魔族が大きく出ましたね」
「スマナイ、ソノホウガ、タカクウレル……」
「副官ドノニ見ツカルトハ思イモヨラズ……」
「ちなみにさっきまであなたたちが殺そうとしていた男は魔王さまですよ?」
大男と骨蛇は見えない鞭で叩かれたように身体をびくりとさせた。そして、巨体を折りたたむように土下座する。
「オ、オユルシヲ……!」
「魔王サマヲ害スルツモリハ……!」
え……。
俺は軽くショックを受けていた。
魔王の俺より……副官のほうが有名なの?
今こそぺこぺこしているけど、初見は俺のこと殺す気満々だったもんなあ……。それがルシフェルを見た瞬間、これ。
俺が支配者なん、だよ、な……。
「魔王さま。今、自分の知名度に絶望していませんか? 俺が支配者なん、だよ、な……とか落ち込んでませんか?」
「え、どうしてわかるの!?」
「魔王さまの副官ですから当然です」
「ちょっと、なあ……俺いらなくない、これ……?」
「実務をわたしに丸投げしてるんですから当然の報いですよね?」
ぐはっ!
ルシフェルの言葉が剣となって俺の胸に刺さった。
……もうちょっと俺も頑張ろうかな……。
「お、おい! お前ら! わけのわからん話ばかりするな!」
ローブの男が大声でわめき散らした。
「魔族ども! 何をやっている! 命令だ! オウマを打ちのめせ!」
すくっと大男と骨蛇が立ち上がる。
そして、ローブの男に言った。
「コンナハナシ、ケイヤクガイダ」
「無理ダ。鬼ノ副官二逆ラウトカ」
大男はこぶしほどの大きさの石――契約の石を口から吐き出す。大男がそれを地面に叩きつけて砕くと同時、大男と骨蛇の身体が霧のようにかき消えた。
教会がしんと静まる。
今ここにいるのは俺とルシフェルと男の三人だけ。
さっきまでの勝ち誇った様子は完全に消えていた。呆けた顔でローブの男が声の限りに叫ぶ。
「な、なんなんだ! お前たちはああああああ!?」
「ただの魔王とその副官ですよ」
ルシフェルが男に当て身を喰らわせた。
男の身体が気を失い、くたりと床に崩れる。
「魔王さま。この男の処分、任せていただけますか?」
「別に構わんが……どうするんだ?」
「この男にはいろいろ吐いてもらわないといけませんので」
ルシフェルの顔がドエスに歪む。
……尋問的なやつですね(白目)
そういうの、お前好きそうだよな……。
召喚士とやら、災難だったな。だが、お前も俺を潰そうとしてきたんだ。自業自得、同情はしてやれないね。
「では、わたしはこの男を連れて――」
そのときだった。
教会を揺るがすような大きな声が外から飛んできた。
『重罪人オウマに告ぐ! 貴様の悪しき企みはすでに露見している。おとなしく投降せよ! すべての罪を告白すれば王は寛大なる処置をお与えになるだろう! だが、もしも抵抗するならば、一切の容赦なくこのラーロットが正義の刃でお前を切り捨てよう!』
ラーロット?
俺は教会の窓から外を見た。墓地の向こう側、教会の敷地を取り囲むように無数のたいまつが見える。赤い炎に照らされた重武装の男たちの姿があった。
――間もなくこの教会を王国の兵たちを取り囲むだろう。
ローブの男はそう言っていた。
「ようやくのお出ましか」
そして、兵たちの先頭に立つのは見覚えのある男――
ラーロット。
「聞き間違いじゃなかったぞ。ラーロットが仕切っているようだ」
「張り切ってますね、彼」
「いつの間にやら昇進したようでうらやましい限りだ」
俺はくくくくと笑った。
「おとなしく投降したら許してくれるのかな?」
「まさか。彼、魔王さまを殺したくて仕方ないですよね」
「だよなー」
「どうしますか? うってでますか? 魔王城へと戻りますか?」
「迎撃だな」
俺は言い切った。
「この教会を魔王城の臨時支部としよう」
「ここが我らの領地ですか。防衛する魔王軍の兵はわずか二名」
「最強の魔王と最強の副官だ。充分すぎるだろ?」
「そうですね。充分すぎますね」
ルシフェルが喉の奥で笑う。
「で、どのように彼らを歓迎するのですか?」
「そうだな……こんな感じでどうだろうか?」
俺は声帯に魔法をかけた。
ラーロットがいるので声の質も俺とわからないよう変えておこう。
「愚かで弱き兵たちよ。この死地に飛び込もうとするは正しき勇気ではなく無益な蛮勇である。逃げるべきときに逃げるのも英雄のたしなみ、ちますぐ――今すぐこの地に背を向け走り出せ。そしてこの逃走を末代までの誇りとするがいい……」
俺の言葉は魔法となってラーロットに届いた。たいまつに照らし出された部隊が動揺しざわついている。
一方、教会内ではルシフェルが笑い転げていた。
「噛んでる(笑)」
ああ、もう、うるさいな!
「仕方ないだろ! ああいう挑発するの久しぶりだったんだから!」
「まあ、いいんじゃないですか(棒)」
もうマジで……むっちゃ恥ずかしい……!
「で、これで終わりですか?」
「まさか。ちょっとくらいはゲームの難易度をあげてやらないとな」
俺は墓地に向けて腕を伸ばした。
ぎぃ……ぎぃ……ぎぃ……。
空間がきしむような重い音が次々と墓地に反響した。音ともに生まれ出でたのは漆黒の球体。
球体からぞろりぞろりと現れたのは死者の群れだ。
魔界から直輸入のスケルトンやゾンビたちが墓地にあふれ出した。
外から動揺の悲鳴が聞こえる。
「墓地という場所を考えればいい演出だと思わないか?」
おまけに明日の朝になれば陽の光で自動的に消え去るのでご近所に迷惑をかけることもないだろう。
「えー、たかだか骨と死体ですか?」
ルシフェルが不満たらたらの声で言う。
「もっとこう……派手なのいきましょうよ? 死体系で攻めるならドラゴンゾンビとか。ラーロットのひとつやふたつ死んでも構わないでしょ?」
「ラーロットのひとつやふたつ死んでも構わないが、巻き込まれる兵士はかわいそうだからなあ」
さらに俺は入り口のドアに施錠と硬化の魔法をかける。
「それに、ゲームというのはクリアできるかできないかくらいがちょうどいい。あまり難しくしてやる気をなくされても困るだろ?」
ラーロットをお迎えする準備は整いつつあった。
だが、と俺は引っかかるものを覚える。
ラーロットを倒すのはたやすい。大切なのは勝ち方だ。できるならばラーロットが二度と刃向かう気を起こさないような、やつの力そのものを粉砕する完全な勝ち方をしたい。
ここで籠城して、やってきたラーロットを撃破する。
それだと俺の力を見せびらかすだけで、ラーロットの力を打ち砕く感じがしないんだよなあ……。
ていうか、ラーロットの力ってなんだよ。弱いじゃん、あいつ。
ラーロットを完膚なきまでに倒す、完全なる勝ち方。
さて、何かあるのだろうか……?




