↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国を守る嘘  作者: アゴウオカダ
第一部 若き外交官編 第三章 深層
PR
44/44

第十一話 鉱山技師の足跡



「エドガー・ヴァイスです」


管理人の言葉に、アシュレイは黙って彼を見た。


「……確かですか?」


「名前までは、間違いないと思います」


管理人は少し自信なさげに答えた。


「私が直接見たわけではありません。昔の管理人から聞いた話です」


「いつ頃の話でしょう」


「かなり前です」


管理人は考え込む。


「十年以上前……いや、もっと前だったかもしれません」


アシュレイはレオンとリディアを見る。


二人とも何も言わない。


「東側へ行った理由は?」


「それが分からないんです」


管理人は首を振った。


「当時の記録にも、正式な調査としては残っていません」


「正式な調査ではない?」


「はい」


管理人は古い棚へ向かった。


そこから一冊の帳簿を取り出す。


表紙は擦り切れ、角が丸くなっていた。


「これです」


机の上に置かれた帳簿を、アシュレイが開く。


鉱石の採掘量。


坑道の補修。


作業員の交代。


どれも通常の管理記録だった。


ページをめくる。


その途中で、わずかに筆跡が変わった。


「……ここですね」


アシュレイが止める。


欄外に小さな文字がある。


――東側旧道、再確認。


その下に、名前。


エドガー・ヴァイス。


「再確認……」


リディアが呟く。


「ということは、一度見ている」


「その可能性が高いでしょう」


アシュレイはページをめくった。


次の記録。


――旧道の先に異常なし。


さらに次。


――立入禁止。


そこで記録は終わっていた。


「理由が書かれていませんね」


レオンが言う。


「ええ」


アシュレイは帳簿を閉じなかった。


「ただ、気になることがあります」


「何でしょう?」


「『再確認』と書かれていることです」


リディアが顔を上げる。


「最初に確認した記録がない?」


「そうです」


アシュレイは頷いた。


「これまで見てきた記録と同じです」


記録がある。


だが、その前後がない。


肝心な部分だけが抜けている。


「エドガーは、東側旧道で何かを見つけた」


レオンが言う。


「そして、もう一度確認しに行った」


「おそらく」


「それでも、正式な記録には残さなかった」


アシュレイは帳簿の最後のページを見る。


「立入禁止になった理由も分からない」


三人の視線が重なった。


「一つ、聞いてもいいでしょうか」


アシュレイが管理人に尋ねる。


「東側旧道は、いつから立入禁止になったんです?」


「正確には……」


管理人は困った顔をした。


「私がここを任される前です」


「記録には?」


「残っていません」


やはり。


アシュレイは小さく息を吐いた。


「そうですか」


その時。


リディアが帳簿の最後のページを指した。


「待ってください」


ページの端。


小さな線が一本引かれていた。


文字ではない。


地図のような線だった。


アシュレイが紙を近くまで寄せる。


線は東へ伸びている。


途中で二度折れ。


最後に、小さな丸が描かれていた。


「これ……」


リディアが古い地図を取り出す。


二つを並べる。


完全には一致しない。


だが。


「同じ方向です」


アシュレイが言った。


「ええ」


リディアが答える。


「しかも、この丸の位置」


指先が止まる。


「地下で見つけた入口に近い」


レオンが地図を覗き込む。


「つまり、エドガーはあの場所を知っていた可能性がある」


アシュレイはしばらく黙っていた。


知っていた。


それだけなら、まだいい。


問題は。


「なぜ、記録を残さなかったのか」


誰も答えられない。


アシュレイは帳簿を閉じた。


「管理人さん」


「はい」


「この帳簿を、しばらくお借りできますか?」


管理人は少し迷った。


「……王国の正式な命令ですか?」


「いいえ」


アシュレイは首を振った。


「個人的なお願いです」


管理人が目を丸くする。


「外交官なのに?」


「外交官だからこそ、お願いで済むうちに済ませたいんです」


レオンが小さく笑った。


「その言い方は、なかなかずるいですね」


「そうでしょうか」


「ええ」


管理人も困ったように笑った。


「……分かりました。持っていってください」


アシュレイは帳簿を受け取った。


その瞬間。


外から物音がした。


三人が同時に振り返る。


窓の外。


誰かが歩いたような音。


だが、そこには誰もいない。


アシュレイはすぐには追わなかった。


代わりに、机の上の帳簿を見る。


「……まだ、いるのかもしれませんね」


「地下の人物ですか?」


リディアが聞く。


「分かりません」


アシュレイは答えた。


「ただ」


帳簿を胸元に抱える。


「エドガーが残したものを調べ始めた途端に気配がある」


レオンの表情が変わる。


「偶然とは考えにくい」


「ええ」


アシュレイは窓の外を見た。


東側。


古い道の向こう。


地下へ続く場所。


そして、まだ誰にも知られていない何か。


「もう一度、東側を調べましょう」


今度は、地下からではない。


エドガーが歩いた道を。


最初から。


毎日20時20分投稿予定です。


もしよければ、ブックマークと評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。