第1巻 第145讃歌 火神アグニ讃歌(深遠なる全知の賢者篇)
1 彼に問いかけよ、
彼は現れ、すべてを知るのだから。
英知に満ちた彼は頼まれ、
今まさに乞われているのだ。
彼のもとには戒めがあり、
彼のもとには命令がある。
彼は威力の主、
権力と大いなる威力の主である。
2 人々は彼に問いかける。
だが、問いかけた者すべてが、
賢者たる彼が己の心で捉えたものを
理解できるわけではない。
以前の言葉も、
その後の言葉も忘れることなく、
彼はその精神の力の中で、
油断することなく進み続ける。
3 彼のもとへ柄杓は向かい、
彼のもとへ競走馬たちが向かう。
彼だけが、私の語るすべての言葉に
耳を傾けてくれるのだ。
すべてを速め、勝利し、
祭祀を全うする者、
完璧な助けを持つ赤子は、
溢れる威力をかき集めた。
4 出会うものすべてを掴み取り、
彼はさらに遠くへと駆け抜ける。
そして生まれ落ちるやいなや、
親族とともに前方へと這い進む。
待ち望まれた贈り物が
彼に近づく時、
彼は疲れ果てた男を動かし、
歓びと大いなる快楽へといざなうのだ。
5 彼は増水(水)と森の野生なる者。
彼は至高の頂(祭壇)の上に据えられた。
彼は死すべき人々に、
業の教えを解き明かした。
知恵あるアグニ、真実なる者は、
聖なる法則(真理)を知っているのだから。
解説:静かに真理を宿す「深遠なる賢者」
全5節というコンパクトな構成の中に、火神アグニが持つ「深遠な知性」と「圧倒的な野性」が凝縮された味わい深い讃歌です。
水と森に潜む野性でありながら、全知の英知を宿すアグニ。問われても安易にすべてを明かさず、過去の言葉も未来の言葉も心に留めたまま静かに突き進み、真理(法)を知る者として人々に「仕事(業)の教え」を説く、深遠な知性が光る一曲です。
* 1–2節:問われても多くを語らぬ全知の心
1〜2節の描写が実に印象的です。アグニは人々のあらゆる疑問の答えを知る「全知の賢者」でありながら、問いかけた者すべてが彼の捉えた真理を理解できるわけではありません。過去の言葉も未来の言葉も失うことなく心の中に保持し、油断なく突き進むその姿は、軽々しく底を見せない圧倒的な知性の深さを物語っています。
* 3–5節:水と森の野性と、疲れを癒やす導き
4–5節では、生まれた瞬間に周囲の薪を呑み込みながら突き進む「水と森の野性」としての火の躍動感が描かれます。同時に、その猛烈なエネルギーは、人生に疲れ果てた人々の心に再び情熱と歓びの火を灯します。最後は、至高の祭壇に座し、真理を知る者として人々に「生きるための業(仕事)」を授ける賢者として締めくくられます。




