第1巻 第140讃歌 火神アグニ讃歌(漆黒の軌跡篇)
1 祭壇の脇に座し、
己の家をこよなく愛する、
眩いアグニのもとへ、
私はその生誕の地へ運ぶが如くに、
聖なる糧を運ぶ。
私はこの輝く御方に、
衣を纏わせる如くに
讃歌を纏わせる。
光の戦車を駆り、鮮やかに彩られ、
闇を追い払うあの御方に。
2 二重の誕生(摩擦と祭祀)を持つ子は、
三重の糧(薪・油・祝汁)を掴む。
一年の巡りの中で、
彼が呑み込んだものは新たに育つ。
彼は別の口と舌(燃えさかる炎)により、
高貴なる牡牛となり、
また別の姿(煙と猛火)では、
巨象の如くに樹木を喰らい尽くす。
3 暗闇の中を動く、
共に住まう二つ(二本の摩擦木)が
その身を揺り動かす。
両親(上下の木)は、
荒々しい舌を持ち、
破壊し、速やかに跳ね起きる
赤子のもとへと急ぎ足で向かう。
見守られ、慈しまるべき者、
父(生み手)を強める者へと。
4 人間のために、人間たちの友よ、
汝のこれらの駿馬(炎)は繋がれる。
焦り、軽やかに疾走し、
漆黒の筋(焦げ跡)を耕しながら。
相容れぬ心(猛る炎)を持ち、
疾風の如くに滑らかに滑り、
風に促されて、
その軌跡を速めてゆく。
5 その途上で、
漆黒の暗闇の恐怖を打ち払い、
誇らしげな姿を見せながら、
彼の炎は飛び交う。
広大な領域の上に
彼がその身を広げ、
雷鳴と咆哮とともに、
息を荒らげて突進するとき。
6 茶色く枯れた植物の間で、
彼はそれらを飾るかのように身を屈め、
妻たちに向かう牡牛の如くに、
咆哮をあげて突進する。
己の威力を示しながら、
彼は己の姿の栄光を飾り立て、
抑えがたい恐ろしい者の如くに、
その角(角のような炎)を振るうのだ。
7 ある時は覆われ、
ある時はその身を現し、
彼は己を熟知する者たちの中で、
己の憩いの場所を知る者の如くに掴み取る。
二度目に彼らは成長し、
神の如き威力を蓄え、
双方を混ぜ合わせながら、
両親(木々)の姿を変えてゆく。
8 長き黒髪の乙女たち(木々・枝葉)は、
彼を抱擁の中に抱く。
死したる彼女たちは、
生ける御方に逢うために
ふたたび立ち上がる。
大いなる咆哮とともに、
彼は彼女たちを老いから解放し、
新しい精神で満たし、
生かし、屈することなく進む。
9 母(大地)の外套を舐め回しながら、
彼は逃げ惑う野獣たちとともに、
遥か遠くまで大地を彷徨う。
歩む者すべてを強め、
あたり一面を舐め尽くし、
然り、彼が行くところにはどこにでも、
漆黒の軌跡を残してゆくのだ。
10 アグニよ、
私たちの豊かな領主たちとともに、
眩い光を放ち給え。
家に慣れ親しんだ、
荒々しく息荒い牡牛の如くに。
汝は赤子の包み布を脱ぎ捨て、
まるで戦いのための
甲冑を身に纏ったかのように、
燃え上がるのだ。
11 私たちのこの完璧な祈りが、
不完全な祈りよりも、
たとえ不完全なものが
汝を喜ばせたとしても、
より一層、汝に愛されますように。
汝の姿から放たれる、
清らかな眩い輝きをもって、
私たちに豊かな財宝の蓄えを
授け給え。
12 私たちの戦車に、私たちの家に、
アグニよ、動く足を持ち、
絶え間ない櫂を持つ
一艘の船を授け給え。
私たちの豊かな領主たちと、
すべての民をよく前進させ、
私たちの確かな避難所となる船を。
13 私たちの称賛の歌を、
アグニよ、承認とともに受け入れ給え。
天と地と、
自由に流れる川々が、
長き生命と、糧と、穀物と、
牛たちを私たちに与えますように。
そして赤き暁の女神たちが、
私たちに極上のものを選び取りますように。
解説
火が木々を呑み込み、世界を黒く染め上げながらも、新しく生まれ変わらせてゆく驚異的な生命力を描いた、映像美あふれる構成の讃歌です。
* 1–5節:漆黒の筋を耕す、風と炎の駿馬
1〜2節では、二本の木を擦り合わせて起こす火の誕生が「二重の誕生」として語られ、火が木々や森を呑み込んでゆく姿を巨象や猛牛に例えています。4–5節のビジュアルが秀逸で、燃え盛る火足は「漆黒の筋を耕す駿馬」と描かれます。風に煽られ、黒煙と焦げ跡を大地に刻みつけながら猛進する炎のスピード感が際立っています。
* 6–9節:老いからの解放と、黒髪の乙女たちの抱擁
8節の表現力は圧巻です。枯れた木々や枝葉を「長き黒髪の乙女たち」に例え、炎によって一度死を迎えた植物が、アグニの激しい抱擁と咆哮によって「老いから解放され、新しい精神を満たされてふたたび立ち上がる」と描かれます。破壊と再生が一体となった、極めて官能的で美しい生命のサイクルです。
* 10–13節:赤子の布を脱ぎ捨て、甲冑を纏う覚醒
10節で、煙に包まれていた小さな火が急激に燃え上がる様を「赤子の包み布を脱ぎ捨て、戦の甲冑を纏った」と捉える工夫が見事です。最後は、混沌とした大火を乗り越え、不変の安息と長寿、そして明日をもたらす「赤き暁の女神たち」の到来を祝福して幕を閉じます。




