第12話~幸せの定義⑧~
江留布操に操られてしまった輝木光。
赤井萌は彼女と仕方なく戦うことになる。
戦いの末、水素を爆発させ輝木光にダメージを与えることを試みるが……。
今回、決着です!
--------(side:輝木光) ---------
殺す。
殺してやる!
ムカつく。
苛立つ。
腹が立つ。
(殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す!)
あんなヤツ死ねばいい。
私のことを道端の吸殻程度にしか思ってないゲスめ。
(死ね。死ね。死ね。死んじまえ!)
「私を敵にしたことですわ! 早く正気に戻りなさい、ヒカリ!」
したり顔を浮かべやがって。
それで勝ったつもりか?
調子に乗るなよ。
「クソっ......ふざけんな!」
口ではこう言っているが、内心は何も焦っていない。
(ケケケ。バカめ。この辺りは一面水浸しだ。地面を伝って逃げれば、致命傷にはならない。
爆発を回避した後、ここに戻って不意打ちで殺してやる。ざまあみろ、エセお嬢め!)
「ヒカリ......」
(ふん、火を点けて勝ちと確信しているな?
その瞬間が1番スキを晒すのさ。一旦回避して、直後に自販機からパクった水を全部ぶちまけてから、首をへし折ってやる......!)
「アナタとの付き合いは......長くて短いような、不思議な感じですわ。
でも、私はアナタのこと、よく分かってるつもりですわ」
(何かくだらねぇことをほざいてる。無視でいいな)
さっさと火から退避するとしよう。
「......! なんだと!」
(電気を伝って離れようとしたものの、3m程で行き止まり?! 路面に電気が通らない!?)
これは......溶けたゴム!?
(......やられたっ! クソが!)
「行きますわ! ヒカリ、どうにか耐えなさい!」
(やられるっ......!)
駅構内が爆炎に包まれた。
「......ハァ、ハァ......。......ぐ......」
一部の皮膚が焼けただれ、体が悲鳴をあげているのが分かる......。
「......ハァ......」
(チクショウ。やりやがったなあの天パ......! よくも......。よくも! よくも! よくも! 殺す! 殺してやる!)
「......ごめんなさい。アナタを少しだけ動けなくする必要がありましたの」
天パ三白眼が電話を取り出す。
何するつもりだ?
いくら私が電話嫌いとはいえ、そんなものでビビったりはしねぇよ。
『......よし、聞こえるね? 輝木。正気に戻れ』
「S級!? はぁ!? 電車組は何やってるんだよ! こっちに近づけんなって言っただろ! 役立たずどもが!」
(この声は、あの読心女……)
ニヤニヤしていた江留布操が真剣な顔になり、赤井の電話めがけて突っ込んでいく。
『バキィ!』
赤井の電話は江留布操に奪われ、地面に叩きつけられた挙句踏みつけられた。
「ふぅ......危ない危ない。にしても全く、使えないヤツらだな。後で殺しておこう。僕の邪魔をするなんて、殺されても文句言えないよね。僕がちょっぴり不幸になったじゃないか」
(..................? あれ?)
「にしても、赤井……。今の電話で僕を殺すように依頼していれば、万事解決だったろうに。
やっぱりアホの娘はアホだねぇ......」
........................。
心が晴れていく............。
私は、なんでここまで赤井を殺そうと............?
「あまり面白い結末じゃなかったけど、まあいいさ。これにて僕のムカつきは最低限晴れた。
そして今! 一切の迷いもなく君をブチ殺してあげよう! これにて君の悲劇物語はフィナーレだ! 血反吐ぶちまいて息絶えな!」
(............! 寒い!)
駅の気温がみるみる下がっていく!
急速冷却!
江留布操が赤井の炎を防いでいたのはこれだったのか!
そして今、赤井の炎化を封じるためにヤツは駅全体の気温を大きく下げた!
温度計なんて持ってないから正確にはわからないけど、コンマ秒で50℃以上は冷え込んだだろう!
「赤井!」
ヤツの拳は肉眼で捉えられないほどの超高速!
そして赤井と江留布操の間は1mすら離れていない僅かな距離!
(このままじゃ江留布操に赤井が殺されてしまう! 私がなんとかしないと......!)
(そうだ! 読心女の能力は効くんだ! 赤井のスマホが壊されたなら、私が電話すれば......)
だ、ダメだ。
熱で上手く動かない......!
(打つ手なし!? ウソだろ!)
「......ムカつきが晴れた?」
(イヤだ! 諦めたくない! きっと何か手はあるはずだ......! 赤井……っ!)
「やめろーーっ!!」
『ガシィッ!』
絶望から明けた私が見たものは。
――太陽だった。
「............。お前はその程度かも知れない。でも、私の怒りは......こんなもので収まりませんわ」
無論、ここは地下鉄の駅構内。
本物の太陽ではない。
「はぁ!? 僕の攻撃を受け止めた!? そんなバカな、有り得ない! 怒ってるのをあっけなく殺さなきゃいけないのに! 大人しく不幸になれよ!」
赤井の右手から現れた、巨大で超高熱な炎の球体。
私はそれを、太陽だと錯覚した。
「よくも、私に大切なお友達を傷つけさせたわね」
残る左手は、江留布操の拳を受け止め、掴んでいる。
「温度が上昇していく!? なぜ! どうして僕の能力が発動していない!?」
「私の友人を、家族を......弄び、侮辱したお前を、決して許しはしない」
この時、私には分かった。
江留布操の能力が不発しているワケではない。
赤井の発動する温度上昇に、江留布操が追いついていないだけだ!
(確かに構内には酸素と水素が充満し、火力を発揮する条件は満たしている……しかし、それだけでは到底片付けられない次元!)
恐らく私の負傷をきっかけに、赤井の怒りが臨界点を超え、圧倒的な能力を引き出しているんだ!
「分からない......! 分からないけど、何か分が悪そうだ! 僕は一旦逃げて......」
江留布操が赤井を振りほどき、猛スピードで遠のいていく。
が、赤井が空いた左手から直ちに炎の弾丸を発射し......。
「逃がさない」
「うがぁ!」
江留布操の足を貫く!
「何が......他人が不幸になれば相対的に幸せよ......」
赤井がゆっくりと江留布操に詰め寄る。
「く、来るなよ! やめろ!」
「おふざけにも、限度があるわ」
「わ......分かった! 僕が悪かったよ! これからは心を入れ替えるからさぁ......!」
己の不利を悟ったのか、江留布操は態度を翻した......。
『ドゴォン!』
直後、高熱の炎が江留布操の顔を掠める。
「ひぃぁ......」
「そうやって命乞いした人を、お前は何人殺してきたのかしら?」
「た、助けて......お願いしますっ......! 命だけは......」
「私の家族も、そう願ったはずですわ」
「悪かったよ! 悪かったって! ほ、ほら! 死んだ人間より生きてる人間を大切にって言うだろ? 君は復讐に囚われたりせずに......」
『バゴォ!』
再び赤井の炎が炸裂する。
「バカにしてるんですの?」
「! お、お願い助けてください! なんでも言うこと聞くからさ!」
「何でもって言うなら、私の家族を生き返らせなさい」
「そ、そんなの無理......」
「では諦めなさい」
(すごい迫力だ、赤井......。人間、ブチ切れるとここまでの力と威圧感が出るんだな......)
「この炎は数千度。受ければ一瞬で死ねますわ。
私は無為に人を苦しめることを良しとはしない。でも、お前は許せない。
この辺りが、落とし所でしょう?」
「や、やめて......!そ、そうだっ! 僕を殺せばボスのことを聞き出せなくなるよっ!?
そう! 美河亮は定期的に誰かと交信を取っているんだ! もしかしたら裏で手を引いてる人がいるのかも!?
この情報、有益でしょ!? ねぇ!? 殺したら続き聞けないよ!? 全部話すからさ! ねっ!?」
「誰が手を引いているのかしら」
「えっ、し、知らないよ......」
「役立たず」
ついに赤井が炎を江留布操に向けて放つ......!
「そんな! じ、じゃあ、そうだ! 総理大臣! 全部あいつのせいだ!
そうなんだよ! 僕は何も悪くなんか――」
炎は、江留布操に直撃っ!
「――――い、生きてる............!」
しなかった。
太陽は消え、駅構内には再び夜が訪れる。
「赤井? どうして......」
「......こんなヤツ、殺す価値すらありませんわ」
(まあ、うん。都園懸悟や野井流美音と比べて、随分と見苦しい命乞いだった)
「う、うへへ......。生きてる......。生きてるよぉ......。あ、ありがとうございます......」
「消えなさい。そして二度と、くだらないことをするな。もしもしたら、私がお前を直ちに殺すわ。
残りの人生全てを不幸に過ごせ。それがお前への罰だ」
「あ、あははは......ど、どうも......」
赤井の脅しに対して、薄ら笑いを浮かべて江留布操は離れていく。
「さあ、ヒカリ。みんなを追いましょう。立てます?」
「......あぁ。だいぶしんどいけどな」
「肩を貸しますわ」
「サンキュー......」
(よし、やるぞ......! タイミングは今しかない......!)
「......あ、あのさ。も、モエ」
「! ヒカリ! 今私のことを......」
「あっははは! バカどもが! 何が罰だ! この僕をコケにする方が余程重罪だ! 僕のシアワセの、ジャマをするんじゃねぇーっ! 死ねっ!!」
背後から邪悪の声が響いた。
(コイツ......!)
気がつけば気温が下がり、メジャーリーガーも裸足で逃げ出す豪速球の小石が迫ってくる!
その速度は、元ソフト部の私が見る限り時速350キロメートルほど!
クリーンヒットすれば当然ただではすまない!
「まずい!」
今の状況を総括した言葉が口から漏れる!
そして、次の瞬間――。
「この......クズがーッ!!!!」
激昴の声を上げる赤井の右手から放たれる火炎流が、小石もろとも江留布操を蒸発させた。
火炎流は地下鉄の壁を、天井を突き破り大空へ消えていく。
薄暗い地下鉄に、光が差していた。
怒りを爆発させ、江留布操を倒した赤井萌。
カナリアの会最後の幹部を倒すとともに、家族の仇をとることに成功した。
次回、ついにカナリアの会の本部へと向かう!




