第12話~幸せの定義⑨~
怒りを爆発させ、カナリアの会最後の幹部、江留布操を倒した赤井萌。
そして電車ではぐれてしまった仲間たちと合流するため、カナリアの会の本部がある日本橋へと向かう……。
--------(side:赤井萌) ---------
「ヒカリ......」
「......お疲れ様。助かったよ」
「............」
「......家族の仇を、とったな」
「えぇ......」
「みんな喜ぶよ」
「......ヒカリは、私が怖くないの?」
「はぁ?」
「私は、怒りで我を忘れ、気づけば相手を殺していた......」
「いやぁ、アレは仕方なくないか? さすがにアイツは当然の報いだろ。お前がやらなくたって、いずれ誰かがやってただろうよ。それにさ」
「?」
「私は嬉しいよ。私のために、お前は我を忘れるくらい怒ってくれたんだろ? だから嬉しいよ。怖くなんてない」
「......ありがとう」
「にしても赤井お前強いなぁ。なんだよアレ。もうどんな敵だろうとお前一人で倒せるじゃん。
いやー、突然のインフレだ! インフレ! 数千℃といえば核兵器レベルの......」
「お前じゃないですわ」
「へぇ?」
「......モエ。という名前があるわ。お前は......あの、悲しい、ですわ」
「なんだよ日中ゴンドラズみたいなこと言いやがって。............モエ。これからもどうかよろしくな」
「えぇ、もちろんよ。ヒカリ」
そう。
私は赤井萌。
たった今、家族の復讐を果たした。
だが、嬉しい気持ちはない。
むしろあるのは、寂寥感......とでも言うのだろうか。
『終わった』という感覚。
よく、燃え尽き症候群というものを聞くが、こんな気持ちなのだろう。
(はぁ。なんてこと。これからカナリアの会の本丸に乗り込むというのに、自分は勝手に終わるなんて......リーダーとして失格だわ)
「......行きましょう。本当の決着をつけるわよ」
「あぁ」
......違うわ。
違う。
私は終わってなどいない。
正反対なのよ。
『赤井家の娘』としてでなく、『赤井萌』としての人生がこれから始めるの。
「......さようなら、みんな。初めまして、私」
兄様が言っていたのは、こういうことだったのかもしれない。
今日は私の、2つ目の誕生日なのよ、きっと。
そして、今から私は。
私自身の意思で、テロと戦い、勝利する!
--------(side:輝木光) ---------
「ちょ、ちょっと待って。マジ無理、超痛い。ヤバい。ホントヤバい」
動く度に、体のあちこちに負った火傷が痛む。
「......やったのが私なだけあって、コメントしにくいですわ」
「私の頭がイカれてたから、しょうがないかもしれないけどさぁ。マジ痛えよこれ。特に服が擦れた時とかホント死ぬ......いたた!」
「あと少し、我慢してくださいまし」
電車は高速で走り去ってしまったので、もう乗れない。
タクシーもこんな状況では望み薄。
ということで、私たちは先の予定通り路駐している車をパク......いや、お借りするため、駅の周辺を歩いていた。
「なぁ、頼むよ、なるべく快適で揺れの少ない車を......」
「善処しますわ」
(うわぁ、ダメだこれ。やる気ない時の返事だ)
「ほら、これなんてどうですの? 超高級カーですわ。ランボルギーニのカウンタック」
「ケンカ売ってんのか!」
「んもう。仕方ないですわね。では、その隣にある車にしましょう。開けてくださいまし。私が運転しますから」
赤井が人の車を盗むのに躊躇がなくなった......。
1か月前なら、社会性がどうとか言ってゴネまくってただろうに。
「ほら、開けたぞ」
「ありがとう。ヒカリは後部座席にどうぞ。
......さあ、日本橋までかっ飛ばしますわっ!」
「いつつ......、なあ頼むから安全運転で......」
「出発進行エンジン全開、ですわー!」
『ぶぃぃいいーん!
過剰に鳴り響くエンジン音。
(............コイツに運転を任せたのは失敗だったかもしれない)
危ない薬やったみたいにテンションがおかしい。
典型的なハンドルを持つと気が大きくなるタイプの......。
「発車ですわぁーっ!」
「うがっ」
(やめてやめてやめて怖い! 道めっちゃ混んでるのに100キロ出してるよこの人! 後ろに怪我人いるのに容赦ないよ!)
「いきますわー! 目標は10分以内ですわ!」
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「到着ですわ!」
「......お前、いつか殺してやる......」
「物騒なこと言わないでくださいまし。緊急なので仕方ないのですわ。アナタだって、一刻も早くその怪我を治したいでしょう?」
「この怪我はお前のせいなのに......。お前がやったのに......」
「お前お前言わないでよ。私にはちゃんと名前があるんですから」
「うるさい。も、モエの運転の方がよっぽど不適切だ!」
そんな話をしていたら、急ぎ足で近づく人影が1つ。
「君たち、よく来てくれたね」
「坂佐場さん! 無事でしたのね!」
坂佐場搠さんだ。
警察庁の人間で、対超能力者の特殊部隊を率い、私たちの訓練プログラムも考えてくれた人。
(坂佐場さん......ニュースを見た時にはまさかと思ったが、生きていたのか)
「......あぁ。何とかね。でも、部下が何人もやられたよ......。僕の失策のせいだ。僕が彼らを殺したようなものだ......。後悔してもしきれない......!」
「坂佐場さん......そんなこと……」
「こんなことを僕が頼むのは、おかしいって分かってる。でもお願いだ! みんなの仇を取ってくれ! 部下たちの無念を晴らしたいんだよ」
「もちろんですわ! 悪いのは坂佐場さんでなく、全てカナリアの会......!」
「私もモエと同じです。この国の平和は、私たちが守る! 見ていてください!」
「......そうですわね」
赤井がこちらを見る。
(な、なんだよ。何を疑っているんだその目は)
「ふぅ。やっと治ったぁ」
直後に私たちは、電車で走り去ってしまった3人と合流できたので、火傷をメグに治療してもらう。
「ありがとうございました。電話に出ていただいて」
「うん? 気にすることはないよ。こっちはすぐに済んだからね」
「け、結構危なかったけどね。人が多すぎて犯人が誰かわからなかったの」
「ジェットコースターみたいだったねぇ。200キロくらい出てたんじゃない?」
赤井の礼に対して、3人が反応する。
なるほど。
どうやら向こうは電車を乗っ取られてたらしい。
だから、『こっちこられます?』は『ごめん無理』だったわけだ。
別に電話ができないわけではなかったようだ。
お陰で命拾いした。
「それじゃあ、全員揃ったところで、そろそろ行こうか。人間以外の外敵はキミたちに任せるよ」
S級の読心女がそう言う。
「えぇ。さっさとケリをつけましょう。坂佐場さんのお願いも......あら?」
坂佐場さんはいつの間にかいなくなっていた。
まあ、あの人も忙しいだろうしな。
仕方ない。
「坂佐場って誰だい?」
「えっと、警察庁の人で、特殊部隊の隊長さん......なのかな?」
「階級は警視正らしいですわね」
「もしかしたら今回ので降級はあるかもだけどな」
「かわいそうですわね......。まあ、気を取り直して、行きましょう!」
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国井に、カナリアの会の本部と伝えられていた建物に、私たちは乗り込んでいた。
つまり私たちがいるのは言わば敵のアジト。
激戦は必至と思われていた。
しかし、現実は違った。
(恐ろしいことだ。やはり明らかにインフレが起きている。……終わりが近いからか?)
「なぁメグ......」
「なぁに? ヒカリちゃん」
「私たちさ......要らなくない?」
「そんなことないよぉ! ......多分」
「コイツら、美河亮の居場所を知らないみたいだ」
私のメグの会話をよそに、読心女が言う。
何を隠そう、コイツがヤバすぎるのだ。
ここには何人もの超能力者がいるし、さっきからすれ違う。
彼、彼女らは間違いなくカナリアの会構成員だろう。
それにも関わらず、私たちは襲撃されることがない。
読心女曰く、『この建物内の人間は私たちへ敵対の感情を持てないようにしている』とのことだ。
「さっきからその辺の人の心を読んでいるけど、コイツら『ボスは建物内にいる』ってことしか知らない。
そもそも、ボスの名前が美河亮ってことすら知らないみたいだよ」
読心女はさらに続ける。
(情報の漏洩は絶対防ぐってか。じゃあなんで本部が日本橋ってバレてるんだよ。そこも頑張って隠せよ。いや、こっちは助かるんだけどさ)
「あの壁の奥、人が3人いますわ」
「了解」
さらに、私の探知より赤井の探知の方が広範囲......。
私の強みは、鍵を開けられるくらいしかなくなってしまった。
「私はただの鍵あけ係か......」
「そんなこと言ったら、私なんて無職よ、無職」
「私もー。私の出番がないって言うのは、いいことなんだけどね」
内木さんとメグと私の3人で話す。
誰も襲ってこないから、メグの出番はない。
誰も操作する必要がないから、内木さんの出番もない。
「あぁ、これがインフレに置いていかれる感覚なんだなぁ......」
楽をできるのはいいことだが、なんだか悔しい。
敵の総宝山にいるのに、そんな呑気なことを考えられるほど安全だった。
カナリアの会の本部に踏み込んだ輝木光たち女子A級とS級。
しかしながら、あまりにも強力すぎるS級超能力者の力のせいで、微妙に緩んだ時間が流れていた……。
次回、第12話完結!
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いつもありがとうございます。
感想いただいて嬉しくなったのと、今回少し短いので夜にももう1話アップします。
何卒よろしくお願いいたします。




