第11話~命賭け⑥~
カナリアの会幹部である都園懸悟に、魂を奪われてしまった赤井萌と水野恵。
2人の命を救うため、内木遊がパケットモンスターで都園懸悟へと勝負を挑む。
その時、内木遊は自身の過去を思い返していて……。
私、内木遊には、未だ下ろすことの出来ないでいる十字架がある。
「ちょっとぉ? ジャマなんですけど?」
「そ、そんな.......私、ちゃんと端を.......」
「はー.......、分からないかなぁ? 存在そのものが邪魔だっつってんの!」
「ギャハハ、ひどーい。鳴子サイテー、アハハハハ」
「あー、やだやだ。アンタがいるだけで、教室の空気が汚染されるのよねー。換気しなきゃー」
中学生時代の話。
私のクラスは地獄絵図だった。
「.......」
「あのさぁ、何か言ったらどうなのぉ? 謝罪とかないわけぇ?」
いつ頃からか.......ある1人の女子生徒が、執拗になじられるようになったのだ。
「.......ご、ごめんなさい。..............」
なじられている生徒の名前は名尻凛。
私が言うのも難だけど、大人しい性格の子。
でも、こんな仕打ちを受けなきゃいけないような人間では断じてない。
「アハハ、プライドの欠片もないのねこいつー。ウケるー」
徒党を組んで、彼女をなじっている生徒の名前は石目鳴子。
それなりの学業成績と容姿を持っているが、性格は絵に書いたようなチンピラ......ネット用語でいうDQNとでも言った方が正しいか。
とにかくサイテーなヤツ。
「ギャハハハハ」
石目の笑い声が響く……。
私は昔から物事を『善』と『悪』に白黒分けて考えるクセがある。
そして、私は常に『善』という白の中にいたい。
目の前で石目が繰り広げているあの行為は、間違いなく『悪』だろう。
私は、止めなくてはならない。
でも............。
「..............」
怖い!
体が動かない!
もし、ここで口を出せば、今度は私が標的になるかもしれない......!
そう考えると、体が強ばって......立ち上がれない!
私はいつだってそうだった。
心底臆病で、自分に自信がなくて、人と向き合わず顔色だけを伺って、ウジウジと隅っこへ逃げ出し、通り雨が過ぎるのを待ち続ける。
そんな私の言葉など、そもそも気に留めるものはいない......。
「.......うっ、くっ.......」
「えー? 何泣いてんのぉ? キモイんですけどォ」
「ウチらがいじめちゃったみたいじゃーん!」
名尻さんが泣いてしまった.......。
私がこんなにも情けなく、卑怯者でなければ、彼女は泣かずに済んだのかもしれないのに。
......もっと強い私でいたい。
こんな自分がイヤで仕方がない。
「ギャハハハハ.......」
(誰か、私に勇気を......!)
「ちょっと! やめなさいよアンタたち!」
声を上げる者が現れた!
「見苦しいのよ、大勢で寄ってたかって!」
「何よアンタ? 文句あるわけェ?」
「文句しかないわよ! こんな理不尽で意味不明な言葉の暴力の数々!煩わしいったらありゃしない!」
「何コイツー! ちょーウザイんですけどー!」
(け、喧嘩が始まってしまったわ!)
た、確か......声を上げた彼女の名前は多田敷清美.....。
私たちのクラスの委員長。
「てかさー、なんでアンタがウチらに指図するの? アンタそんな偉いの?」
「アンタたちこそ、よくそこまで人をコケにできるわね。アンタたちの方が余程下劣なのに」
(多田敷さん、すごい.......! 物怖じしないで言い合ってる.......)
......羨ましい。
私にも、こんな強さがあれば......。
(多田敷さん.......、アナタは本当に立派な人.......)
「とにかく、この子は何一つ悪くないから。アンタたちもこんなくだらないことする前に、やることあるでしょ」
(頑張れ.......! 多田敷さん! そんなやつ、やっつけちゃえ!)
「はぁー、うぜェー。超うぜェ! 本当何なの? 何? イジメは許さない私カッコイイとか思ってんの?」
(当たり前じゃん。それを主張できる人間が、一体どれだけ上等か......。石目たちには分からないだろうけど)
「あー、本当うぜェ。マジうぜェよなぁコイツ。なぁ? 内木ぃー」
「..............えっ」
(!? な、何!? 私が石目に話を振られた!?)
「え......あ、わ、私......!?」
「アンタ以外誰がいんの?」
そんな!
私に、こんな.......!
「あ、え、えっと......その............」
「何なのウジウジウジウジとムカつくね。多田敷ウザイでしょ。おら、さっさと答えろよ!」
「わ、私は.......」
「ユウちゃん......。あなたの本当の気持ちを伝えて。心の底ではいつも思っていたはず......。お願い、勇気を出して」
多田敷さんがそう言ってくれる。
(そうだ。言うんだ! 勇気を出すなら、今しかない!
ずっと思っていただろう......!
言いたいことを、言え!)
「あ、た、多田敷さん............わ、私は............」
私は多田敷さんから勇気をもらったんだ!!
言うんだ!!
思いの丈を!!
「い、石目さんが......正しい......と、お、思う......」
(..........え?)
「ユウ……ちゃん.......?」
「だ、だって......虐められる側にも......、原因があるって、い、言うし............」
何言ってるの、私......。
「あ、わ、私も、名尻さんのことは、ち、ちょっと、どうかな......って......」
やめてよ......。
「た、多田敷さんだって、どうかと思うよ......」
やめてよ......!
「自分を、常に正しいと、お、思うなんて......」
やめてよ!
「せ、正義感なのかも、知れないけど......、そ、そんなの、人それぞれなんじゃ......」
やめて!
お願い......。
私はこんなこと、思ってないのに......。
「だとよー、多田敷。やっぱお前うぜェんだよ! 多数決、多数決!」
「ギャハハ! ウケるー、見捨てられてやんのー!」
(最低。最低。最低だ......)
「ユウちゃん......」
内木遊は、最低の人間。
「心の底で思ってるはず、勇気を出して。キリッ。だって! アッハッハッハッハ! ちょーウケるー!」
イジメを止めるどころか、自分可愛さに、人を陥れた。
「............」
あぁ、多田敷さんが絶望的な顔をしている。
ダメ。
もう彼女と目を合わせられない。
『キーンコーンカーンコーン.......』
「お、やべ。次移動教室じゃん。みんな、さっさと行こ!」
チャイムの音を聞き、石目たちがこの場を去る。
「............」
多田敷さんと、名尻さんは無言で教科書を整理する。
「............あ、あの、私......」
「............」
2人は去っていった......。
謝ることすらできなかった......。
本当に最低だ、私は。
そして、翌日から多田敷さんも、石目たちのターゲットとなった。
そのお陰か私は、卒業までの1年半を平穏に過ごすことができた。
実は後に、多田敷さんとは高校時代に再会し、和解している。
その時、彼女は
『全然気にしてないから大丈夫よ。私だってあなたと同じ立場になったら、同じことをしたかも知れないし......。それに、当時の私にも至らない点はあったもの』
と笑い飛ばしてくれた。
でも、そういう問題じゃない。
私が彼女の1年半を奪ってしまったことは、紛れもない事実。
許されるはずもないし、今更許して欲しいとも思わない。
そんな資格すら私にはない。
何よりも、自分で自分を許せない。
恐怖に屈する自分。
身勝手な自分。
自己保身しか考えられない、情けない内木遊を。
自分が許せないものを、どうして他人へ許せなどと言えるだろうか。
あれから数年後、私は超能力に目覚めた。
『人を動かせる人間に』と、日頃から思っていたから、あんな能力になったのだろうか......。
皮肉なもの。
それで人を動かしたって......何の意味もないのに。
私自身が変わらなくちゃいけない。
このままの内木遊では、死ぬまで多田敷さんに合わせる顔がないもの。
恐怖に屈さず、正義を貫く事が出来る人間へと......、真に人を心から動かせる人間へと、私は変わる!
--------(side:輝木光) ---------
「私はもう、怯えたりしない......! 勇気をもって立ち向かい、仲間の誇りを守り抜く!」
内木さんの目が変わった。
何やら決意を抱いた目だ。
(もう大丈夫! この目を持つ人間が、負けることはない! ......多分)
少なくとも私はそう信じてる。
「ルールは公式のものと同じだ。
お互いの手持ち6匹を公開し、そのうち戦闘で使う3匹を選び、バトルを始める。
そして、選んだ3匹全てが戦闘不能になったプレイヤーの負けだ」
「スタンダードね。了解よ」
お互いの手持ちが公開される。
内木さんの手持ちは......
・リカオン(メタル/ファイター)
・モクモッキュ(ファンシー/ミステリ)
・フレアドン(炎/スカイ)
・ボルティオン(電気/スカイ)
・カバタマス(アース)
・ゲコタロウ(水/デビル)
の6匹。
対する都園は、
・グランディオ(アース/スカイ)
・ギガゴン(アザー)
・カミソード(リーフ/メタル)
・ゴジラドン(メタル/石)
・ガブリゴン(ドラグーン/アース)
・ウミウドン(アース/水)
の6匹だ。
パケモンにはタイプごとの相性がある。
たとえば、水は炎に強く、リーフに弱い。
リーフは水に強いが、炎に弱い、といった関係だ。
他にも、殴る蹴るといったファイタータイプの技は、石やメタルをも砕くが、非現実の存在であるミステリタイプには効かない。
大地の力を扱うアースタイプの技は、宙を舞うスカイタイプには無効。
これらはほんの一部だが、相性関係を制するものが、バトルを制すると言っても過言ではない。
にしても、都園のパーティは妙だ。
ヤツは今まで『負けたことがない』と豪語していた。
圧倒的布陣で攻めてくると思ったが......。
圧倒的なのはむしろ内木さんの方で、都園は微妙にマイナーなパケモンもいる。
タイプも偏り気味だ。
(コイツ、初心者か? これで今まで負けなしなんて不可能では......。もしかして、ゲーム好きだけどパケモンは初めてだったとか?)
.....だが、いい。
この方が私たちにとっては好都合。
「内木さん! 都園のパーティには水タイプがぶっ刺さってます! 特に、ゲコタロウならばカミソード以外完封ですよ!」
「......えぇ。そうね。それに、私のゲコタロウは『かくせいエナジー』を炎タイプにしてあるわ」
さすが内木さんだ!
パケモン個体それぞれによってタイプが変わる技、『かくせいエナジー』も調整していた!
隙がない!
カミソードは炎タイプの技の被ダメージが4倍になるパケモン。
これで全てゲコタロウで撃破可能。
この勝負、やる前から決した!
「そろそろ選出の制限時間だが、選び終わったのか?」
「急かさないで。あと30秒あるわ」
都園懸悟が内木さんを急かす。
選出の制限時間は1分30秒。
(私ならゲコタロウ、ボルティオン、モクモッキュかな......)
内木さんのエースパケモンはリカオンなのだろうが、アレだけ相手がアースタイプに偏っているとさすがに出せないだろう。
メタルタイプはアースタイプに弱い。
さらに、ファイタータイプの技でも、グランディオやガブリゴンに有効打はないので仕留めきれない。
確かに有利な相手も多少いるが、不利な相手が本当に不利すぎるので選出は厳しいだろう。
「......終わったわ。私は、この3匹に託す」
「承った。では......」
『バトル!』
『パケモン使いのけんごが勝負をふっかけてきた!』
(始まるぞ......! 大丈夫。ゲコタロウさえいれば......)
『けんごはガブリゴンを呼び出した!』
『ギャウウゥーンッ!』
(!? は、はぁ!?)
パケモンの鳴き声が部屋中へ響いた。
「な、何よこれ......!」
「も、モンスターが実体化した!?」
私も内木さんも動揺する。
(な、何これ......! 実物大だとパケモン怖え......!)
「これも俺の能力の一つだ。よく楽しんでおくんだな。これほどまでにリアルなグラフィックとサウンドのゲームはお目にかかれない」
な、なんという......。
そりゃあ確かにすごいし、楽しいだろう。
(.....命懸けってところに目を瞑ればな!)
今から始まるのは、本当にただのゲームではないのだ……。
自分のことが大嫌いだった内木遊。
誇れる自分になりたいと決意を新たに戦いに挑む。
しなし、都園懸悟にはまだ隠された能力があった……。
次回、隠れていた能力が明かされる……。




